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狂人による狂人向けの筆箱紹介 〜お前それ筆箱っていうよりペンケースじゃね?〜 (中編)

 お世話になっております、あなたの四葉静流です。

 前回から引き続き、私の筆箱(もといペンケース)の中身を紹介していきます。中編である今回は、6本の金ペンを紹介していきます。合計金額は忘れる事にしました。

 え? 「前編で『次は後編として9本紹介する』って書いてたじゃん」?
 いや、さあ、ちょっとプライベートで色々立て込んでしまいまして……。

 言い訳はこれくらいにして、それでは早速始めていきましょう。

(この記事は中編として、ゴールド製ペン先万年筆6本を紹介します。前編と後編は下記の記事です)


万年筆(金ペン)

パーカー・デュオフォールド デュオフォールド100周年記念 ブラック(M)

 今回最初のペンは、モンブランやペリカンと同じく高級筆記具の雄である「パーカー」のフラグシップモデル「デュオフォールド」、それの「デュオフォールド100周年記念モデル ブラック」です。

 パーカーというブランドについて軽く説明します。英国王室御用達(ロイヤル・ワラント)として名高いブランドですが、元々の出自としてはアメリカの文具メーカーだったようです。その後、イギリスからの資本が入った事で本部をイギリスに移転。さらに、買収によりアメリカの企業グループ傘下に。現在では製造をイギリスからフランスに変えているようで、「英国王室御用達として名高い、フランス製の、アメリカ企業グループ傘下のブランド」と、ちょっと複雑な肩書きを持つブランドですね。

 話をペンそのものに戻します。これは「デュオフォールド製造100周年」を記念して作られたモデルの、その3つのカラーバリエーションの中の一つです。この縞模様に似た配色パターンは過去のデュオフォールドに対するセルフオマージュであると同時に、「拡散接合」という化学薬品を使用せずにパーツを接合する技術を持ち合わせるパーカーのクラフトマンシップを謳っているそうです。

 この100周年記念モデルには定番品とは異なる、特別なペン先刻印が施されています。それだけでラグジュアリー感が増しますし、フラグシップモデルとして18金のバイカラー大型ニブです。定価は約16万円でしたが、某大手ショップのセールで新品なのに結構な値引き率で手に入れました。

100周年を意味する、「1921-2021」と「100」の刻印。

 書き味としては、「ガチニブ寄りの硬めのニブで、インクフローが比較的潤沢」という独特なものです。個人的には好意的に感じています。どのペンも似たような書き味なんてつまらないですしね。

 ただ、デュオフォールドには難点があって、「コンバーター内で棚吊り(表面張力によってインクがコンバーター上方に溜まり、擬似的なインク切れを起こす現象)しやすい」という事。これは純正インク使用でも頻発するそうです。マジかよ。なので、筆記前に軽くだけ振ってあげる必要がありますね。

(インクはエルバンの「エッセンシャルインク バルト海のアンバー」を使用しています)


ペリカン・スーベレーンM800 ストーンガーデン(M)

 ついに登場。万年筆ファンから長年に渡る絶大な支持を集める「ペリカン」「スーベレーンM800」。その限定品である「ストーンガーデン」です。これは地元の文具店にて新品購入しました。

 ストーンガーデンはその名の通り石庭をモチーフとしており、胴軸の模様は大理石のそれを表現しているそうです。ファンの憶測ですが、これは定番品スーベレーンの縦縞模様のセルフオマージュでもあるようです。また、キャップ・首軸・尻軸などは珍しくネイビー色の樹脂が用いられています。

 限定品として定番品と仕様が異なるのは外装のみで、ペン先は定番品と全く同じ、比較的大型の18金バイカラーニブです。書き味は、本音を言うと購入当時は結構アレでした。現在は、私にとっての「主戦力の1本」にまで成長しています。もしかして、M800人気の秘訣って成長性の高さでしょうか?

ペリカンはドイツ製なので、カラットは「C」表記。

 字幅は中字(M)。多方面から言われている事ですが、ペリカンの字幅は他メーカー・ブランドより一回り太い。これが日本語を記す為の普段使いができるギリギリの太さだと存じます。特にこだわりがない方は、極細字(EF)や細字(F)を選ぶのがベターかと。

(インクはペリカンの「エーデルシュタイン タンザナイト」を使用していますが、現在インクを取り寄せ中なので筆致画像はありません……)


パイロット・キャップレスデシモ 2021年カスタム会限定 アクアマリンブルー(F)

 日本が誇る大手文房具メーカーである「パイロット」から、その名の通りキャップを廃したノック式万年筆である「キャップレス」シリーズの、比較的細軸でアルミ製ボディの「デシモ」です。ボディーカラーは、パイロットの製品を主軸に置く文具店の会員組織「カスタム会」の2021年限定カラーである内の1つ、「アクアマリンブルー」です。

 余談ですが、これはつい数週間前に地元の文具店でショーケースに並んでいるのを発見し、急いで確保に走った1本です。つまり、前編の執筆段階ではこの筆箱紹介に登場する予定がなかったペンです。まあ、青軸は私のペンケースに何本あっても許されるので。字幅は細字(F)です。

 先述した通り、キャップレス最大の特徴は、内部に搭載した密閉機構のおかげでキャップを必要とせず、ボールペンのようにノックでペン先を出し入れする事ですね。キャップレスシリーズはフラグシップモデルである「カスタム」と並んでパイロット製万年筆の代表格であり、キャップレスシリーズだけで様々なバリエーションがあります。中でもデシモは、アルミ製の塗装ボディーに加え、細長い特殊小型ペン先とはいえ18金製であるのが特徴ですね。これで定番品は税別15,000円という破格のプライス。

 肝心の書き味は、ノック式万年筆に搭載させる事を前提とした特殊小型ニブとはいえ、とても滑らかな筆記を実現しています。カスタムシリーズとは異なりキャップレスシリーズは限定品が多く、パイロットとしても自社万年筆の主力商品と見ているのでしょう。粒子感が強いブルーの塗装にゴールド色のトリムがよく映えますねえ。

軸先端から見えているペン先は、ペン先本体の一部分。

 難点を挙げると、キャップレスはノック式という機構上、ペン先の出し入れの際に発生する小さな衝撃でペン先やペン芯がよく汚れます。拭いても拭いてもすぐ汚れます。他の方のレビューを拝読すると、内部機構も同様のようです。なのでデシモは、どちらかというとプライベートの書斎でコーヒーを飲みながらリラックスして握るよりも、職場や学校へ持ち歩いてガシガシ使うタイプの万年筆ですね。キャップレスをプライベートでゆったりと使うならば、ペン先の出し入れが回転式の「フェルモ」や、最上位モデルの「LS」の方がベターかと感じます。

(インクはパイロットの「色彩雫 月夜」を使用しています)


パイロット・カスタム74 ブラック(BB)

 引き続き「パイロット」から、フラグシップモデル「カスタム」シリーズ、そのエントリーモデルである「カスタム74」です。軸色は定番色の一つである「ブラック」で、字幅はこれまでに紹介したペンと打って変わって極太字(BB)です。

 これは某地方都市へ日帰り旅行をした際に、その駅前の文具店で新品購入したものです。なぜ定番品をわざわざ出先で購入したかというと、その時にペンクリニックを開催しており、その場で初期調整を施して頂きました。

 元々は左手での筆記練習に購入したもので、一般的なノートや手帳への筆記に用いる字幅から逸脱した太さなのはそのような理由です。もっとも、その練習は現在無期限中断してるんですけどねっ。

 話をペンそのものに戻します。カスタム74は、金ペンとしてはカスタムシリーズの末弟で、同シリーズの中で最も小振りな金ニブです。しかし、インクフローが潤沢なBBニブという事も相まって、筆を走らせると大変気持ちいいです。

ペンポイントでっかい。さすがBB。

 あえて難点を挙げるとするならば、太字幅としての速記や掠れへの対応・対策度は一つ上の兄であるカスタム742のシグネチャー(S)ニブの方が優れていますね。個人的には、「金額をできるだけ抑えて太字幅」ならカスタム74、「ストレスをできるだけ抑えて太字幅」ならカスタム742を選ぶのがベターかと感じます。

(インクはパイロットの「色彩雫 天色」を使用しています)


パイロット・カスタム823 ブラウン アサヒヤ紙文具店限定フォルカンニブ(FA)

 お次もパイロットから。定番品の次は、ほぼほぼ限定品ようなペンです。

 カスタム743のペン先にしか存在しない「(15号)フォルカン(FA)ニブ」を新品状態で搭載した、大容量インクタンクを持つプランジャー吸入式万年筆である「カスタム823」です。ボディーカラーは「ブラウン」。これは東京の文具店「アサヒヤ紙文具店」というお店だけで購入する事ができます。もちろん私はその通販ページで購入しました。

 プランジャー式吸入から先に説明します。同吸入方法は、「ペン先から胴軸そのものに設けられたインクタンクへとインクを吸い上げる」という点では、一般的なピストン吸入と同じです。違いは吸入機構です。

 ピストン吸入では胴軸後方にあるピストン機構を尻軸を回す事で上下させますが、プランジャー吸入では尻軸を引っ張り胴軸内部のロッドを軸外へ露出させます。それから尻軸を押してロッドを軸内に押し戻す事によって、中栓が軸内に負圧を発生させます。そして、軸内に作られた凹みを中栓が通過。開放された負圧が一気にインクを吸い上げるという機構です。

 要するに、「ぎゅ〜! ぐぅ〜! ぽんっ! どっ!」です。以上!!!

 以上ではないんですけどね。プランジャー式はピストン式と異なり、尻軸の回転とピストンの上下を連動させる機構を必要とせず、そのおかげでピストン式よりも容量が大きいインクタンクを有する事ができます。しかし、パイロットの他にプランジャー式の万年筆を製造しているのは数社ほどですね。高い加工技術か製造コストが必要なのでしょうか?

 このペンにはもう一つの特徴があります。それは先述した通り、抉られたかのような切り欠きを持つ軟調ペン先、フォルカンニブですね。この形状がペン先の剛性を低下させ、独特の弾力を生み出しています。切り欠きを持つペン先のアイディアはパイロット独自のものではなく、他ブランド・他社にも似たようなものを散見する事ができます。有名なところだと、ピナイダーの「ハイパーフレックスニブ」や、ヨーボー社の「エラスティックニブ」ですね。

個人的なFAニブの愛称、「イカちゃん」。

 話をカスタムに戻します。このカスタム823FAニブ、個人的には「実用万年筆における一つの最適解」だと存じます。インクを吸入していない自重のみでもある程度重さがあり、なおかつ大容量インクタンクを有する823のボディーと、軟調のフワフワとしたFAニブの相乗効果が素晴らしい。おそろしいほど軽やかなこの書き心地は、勉学にも仕事にも手紙にも趣味の書き物にも最適です。

 欠点を語るならば、「ペン先が柔らかすぎて、万年筆初心者にはあまりオススメできない」という事でしょうか。14金特殊ペン先ですから、購入にはそこそこ気合を入れなきゃいけない値段ですしね。筆圧を抜いた筆記に慣れてきた頃、懐に余裕があったら是非手に入れてみてください。

(インクはパイロットの「色彩雫 深海」を使用しています)


ピナイダー・ラグランデべレッツァ ジェムストーン マラカイト(F)

 1つ前までパイロットで連続しましたが、今度は軟調ニブで連続します。

 イタリア・フィレンツェに拠点を構えるブランドである「ピナイダー」の、「ラグランデべレッツァ ジェムストーン」というペンです。この色はジェムストーンシリーズの中で緑軸に相当する「マラカイト」というカラーです。

 余談ですが、ラグランデベレッツァはイタリア語表記で「La Grande Bellezza」であり、同名のイタリア映画があります。あくまで私の推測ですが、イタリア製万年筆の雄であった旧デルタ社のフラグシップであるドルチェヴィータも同じく映画タイトルからの引用らしいので、ラグランデベレッツァはそれに対するオマージュなのかもしれませんね。

 話をペンそのものに戻します。ジェムストーンシリーズはピナイダーの高級定番万年筆として生まれ、その名に違わぬ美しいマーブル模様の軸と、最大の特徴である14金特殊ペン先「ハイパーフレックスニブ」を持ちます。この形状の理由は先述した通り、ペン先の剛性低下による軟調です。パイロットのFAニブと比べると、釣り針の「返し」に似たような形状になっているが興味深いですね。パイロットのFAニブが「FA」という字幅一択であるのに対して、ピナイダーのハイパーフレックスニブは極細字(EF)〜太字(B)までの展開があります。私が持っているのものは細字(F)です。

高級筆記具ブランドらしいラグジュアリー感。

 書き味としては、品質コントロールに優れたパイロットと比べると書き出しの安定感や線幅の変化度合いでどうしても劣ります。しかし、こちらにはイタリア万年筆らしい美しい軸や、利便性が高いマグネットロック式キャップがあります。個人的には、首軸が金属製で重心コントロールが考えられている点も好印象です。同じ軟調ペンでも、「書き味そのもので選ぶならパイロット」、「総合的なラグジュアリーさで選ぶならピナイダー」と、棲み分けはできているでしょう。

(インクはラミーの「クリスタルインク ルビー」を使用しています)



 最後までお読みくださりありがとうございました。
 それでは、次は本当に後編、残りの4本を紹介していきます。
 今後もどうかご贔屓に。