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狂人による狂人向けの筆箱紹介 〜お前それ筆箱っていうよりペンケースじゃね?〜 (後編)

 お世話になっております、あなたの四葉静流です。

 前回・前々回から引き続き、私の筆箱(もといペンケース)の中身を紹介していきます。後編である今回は、1本の鉄ペンと3本の金ペンを紹介していきます。3回に分けて行った私のペンケース紹介も今回で最後。最後までおもしろおかしく紹介していきましょう。

(この記事は後編として、スチール製ペン先万年筆1本とゴールド製ペン先万年筆3本を紹介します。前編と中編は下記の記事です)


万年筆(鉄ペン)

ペリカン・クラシック M205 アパタイト(B)

 あれ? 鉄ペンの紹介は前編での時点で終わったはずでは?

 これには個人的な事情があります。といっても、至極簡単な話です。ただ単純に、この筆箱紹介を執筆している途中で、購入後は未使用のまま化粧箱で眠らせていたものにインクを吸わせてペンケースに収めただけです。つまり、「寝かせておいたものを使う気になった」というだけです。個人的な事情はこれくらいにして、本格的な紹介を始めていきましょう。

 ペリカン・クラシックM200系は、「ペリカン」の万年筆全ラインナップの中で中価格帯に位置し、同社ピストン吸入万年筆の中ではエントリー帯に属します。このM200系やフラグシップモデルのスーベレーンシリーズは、限定カラーが比較的多く存在します。この「M205アパタイト」は、ペリカンが毎年発表している限定インクである「インク・オブ・ザ・イヤー」で発表された「エーデルシュタイン アパタイト」と同じ色を纏った限定カラーです。透明感を感じさせつつも、靄がかかったかのような神秘的な色合いが素敵ですね。ちなみに、M200系以上のモデルは末尾に法則性があり、ゴールドカラートリムは末尾が0、シルバーカラートリムは末尾が5です。つまり、M205アパタイトの5は、そのルールに則った形です。

 肝心の書き味は、ピストン吸入式エントリーモデル群の中で屈指の優れたペン先だと存じます。M200系は今回の太字(B)の他にも、過去に極細字(EF)や細字(F)も握った事があります。その全てが、個人的には満足する書き味でした。

ペンポイントでっかい。あれ? これ前にも書いたぞ?

 あえて欠点を挙げるならば、フラグシップであるスーべレーンシリーズと比べて、値段相応のチープさは否めないところでしょうか。しかし、それは逆に言えば「手に取りやすい価格に収まっている証拠」でしょう。

 あなたが万年筆初心者で、初めてのピストン吸入式を探しているなら、このM200系は間違いなく最適解の一つであるはずです。

(インクはプラチナの「ミクサブルインク シルキーパープル」を使用しています)


万年筆(金ペン)

セーラー・プロフェッショナルギアスリム 報画堂オリジナル ラムネブルー(EF)

 今回の金ペントップバッターは、日本三大万年筆メーカーの一つである「セーラー」の、比較的小型万年筆として人気を博している「プロフェッショナルギアスリム」。それの、「報画堂」というショップのオリジナルとして発売された限定色、「ラムネブルー」です。これは中古ペンも扱う某大手ショップにて、未使用品中古として購入したものです。

 このラムネブルーはかなりの人気だったらしく、過去に一度再販し、兄弟モデルである「ラムネグリーン」も存在します。私もゆるく探していたペンであり、某ショップで出品された時は迷わず購入しました。

 セーラーといえば「21金製ペン先」や「長刀研ぎ」で有名な万年筆メーカーですが、プロフェッショナルギアスリムはエントリーモデルの金ペンとして、比較的小型の14金ペン先製です。しかし、セーラーは14金ペン先に金メッキ処理を施しているので、黄味が強いペン先は小型ながらも高級感にこだわりが見受けられます。ラムネブルーのようなシルバーカラーの場合、ペン先のメッキ処理はロジウムで行われています。この個体の字幅は極細字(EF)です。

セーラーのロゴに青軸はよく似合う。

 個人的にはプロギアスリムは、一つ前に紹介したペリカン・M200系と同じく、万人にオススメしやすい万年筆と存じます。エントリーモデルなのでそもそもの価格が比較的安価ですし、プロギアスリムの金ニブも品質に安定感があると思っています。私はM200系もプロギアスリムも、これまでに出荷状態のものを3本触ったことがありますが、一度も「ハズレ」を引いた事がありませんね。ボディーが比較的小柄なので、自宅で使うにも職場や学校で使うにも重宝する大きさかと。いや、さあ、良い意味でマジ品質管理どうなってるんだよ。

 あくまで自己責任になりますが、プロギアスリムは首軸をある程度分解できるので、洗浄性・整備性も上々です。マジでこのペンも欠点らしい欠点がほとんどないのよ。強いて挙げるなら、近年の価格改定で値上がりした事くらいでしょうか。まあ、それだって多くのメーカー・ブランドで起こりましたが。

 万年筆界隈には、「お金があれば149を買いなさい。お金がなければお金を貯めて149を買いなさい」という言葉があります。モンブラン・マイスターシュテュック149ももちろん素晴らしい万年筆ですが、M200系やプロギアスリムの定番品は149と比較して約9分の1の値段です。何が言いたいか分かりますよね?

 「お金がないなら、安くても質が良い万年筆を買うのは『アリ』」って事ですよ。

(インクはプラチナの「ミクサブルインク アクアブルー」を使用しています)


プラチナ・#3776センチュリー 富士旬景 紫雲(EF)

 お次のペンも、日本三大万年筆メーカーの一角から発売された逸品。「プラチナ」の代名詞と言える傑作万年筆である「#3776センチュリー」、それの限定モデルとして作られた「富士旬景 紫雲」です。

  #3776センチュリーについて軽く説明します。センチュリーはプラチナのフラグシップモデル的な扱いを受けている万年筆です。かつて定番品の基本モデルは税別定価1万円という破格のプライスで売られていた為、絶大な人気を誇りました。センチュリーは元々インクフローが控えめで、なおかつこの価格帯で超極細(UEF)字幅があるので、特に手帳好きからの需要があったと記憶しています。現在は幾度かの価格改定を経て税別定価2万円になっていますが、「元々が安すぎた」と言えるでしょう。価格改定に伴いキャップリングに高級感が増す加工が施されるようになったなど、企業努力が窺えますし。

 「富士旬景 紫雲」は、かつてセンチュリーをベースに展開していた限定品「富士旬景」シリーズの中の1本であり、富士山の周辺に現れる紫色の雲を表現した加工が施されています。個人的には雲というよりも、宝石のカットを彷彿とさせますね。様々な文化において、紫は高貴な色と聞きます。とても高級感に溢れた1本ですね。

美麗で精巧な軸加工とキャップリング。

 肝心の書き味を見ていきましょう。この個体の字幅は極細(EF)です。先述した通り、センチュリーのインクフローは控えめなので、現在の私の手持ちの中では最も細いペンです。というよりも、この個体自体が細めですね。かつては別モデルのセンチュリーUEF字幅と共にペンケースに並べていたんですけど、あれよりも細かった。まあ、元々、手帳などの限られたスペースへ書き込む用途としてこの字幅を選んだので申し分ありません。

 難点としてはやはり、他社製と比べてインクフローが控えめなのでカリカリとした書き味になりがちで、個体差の幅が広い事ですね。それでも定番品の税別定価2万円で考えたら、コストパフォーマンスの怪物と言っても過言ではないでしょう。

(インクはファーバーカステルの「伯爵コレクション コニャックブラウン」を使用しています)


ビスコンティ・オペラマスター アンタークティカ(B)

 大トリを務めるのはこの万年筆。「イタリア万年筆という概念の具現化」、その名は「ビスコンティ」

 いきなりエモい事書いてどうした? それはともかく、ビスコンティについて軽く説明します。始まりは1988年と比較的若いメーカーであり、万年筆愛好家によって立ち上げられました。首軸に設けられた鉤針状の窪みにキャップ内部の突起を引っ掛ける「フックロック式キャップ」や、プランジャー式吸入の応用である「ダブルタンクパワーフィラー」、上位モデルに搭載されて独特の軟調さで定評があった23Kパラジウム製ペン先「ドリームタッチ」(パラジウムの価格高騰により、現在の上位モデルは18Kゴールド製)など、他社・他ブランドではあまり見かけない機構・仕様が特徴的ですね。また、ミドルレンジ帯ラインナップにはその名に違わぬ豊かな色彩のボディーで定評がある「ヴァン・ゴッホ」シリーズがありますね。

 「オペラマスター アンタークティカ」は、多面カットされたボディーが特徴である「オペラ」シリーズの上位モデルであり、その名の通り南極をモチーフにしたマーブル模様の樹脂が特徴的です。ビスコンティの透明な樹脂と不透明な樹脂の樹脂を混ぜたボディーは、他社・他ブランドで見かける事がほとんどありません。むしろ私はビスコンティ以外でやってるところ知らねえぞ。先述した独特な機構も相まって、「イタリア万年筆のビスコンティ」というアイデンティティを形成しています。

 肝心の書き味について触れていきますよ。アンタークティカは去年に発売された比較的新しい限定品なので、ペン先は18Kゴールド製です。これがかの「ドリームタッチ」の後継であるペン先ですが、軟調としてペン先の開き具合は控えめですね。パイロットのフォルカンニブやピナイダーのハイパーフレックスニブと比べると、軟調を名乗れるギリギリのラインです。もっとも、オペラマスターは大型万年筆の代名詞であるモンブラン・149を超える大きさ・重さがあるペンなので、もしかしたらペン先故障のリスク軽減としてあえて軟調具合を控えめにしているのかもしれませんね。

デカい! 重い! 所有感抜群!

 総合的に見るとメーカーを代表する上位モデルとして高次元に纏まっているオペラマスターですが、一つ難点がありまして。それは「可動式インナーキャップの裏にインク汚れができると洗浄するのが困難」という事です。フックロック式は機構上の理由で可動式インナーキャップが不可欠であり、このアンタークティカに限らずフックロック式の透明軸ならば必ずついて回る問題でしょう。まあ、普段使いにするならば使用キズや経年劣化も避けられないですしね。ただ、後々後悔しない為にも、吸入するインク選びは慎重になった方が賢明でしょう。

(インクはナガサワ文具センターの「Kobe INK物語 雪御所ザクラ」を使用しています)



 ここまでお読みくださりありがとうございました。全3回に分けて行なった筆箱もといペンケースの中身紹介は、これにておしまいです。

 このペンケース紹介を書いている途中で万年筆を買い足したり、寝かせていたものを使うようになった事からも分かるように、現在でもペンケースの中身に手を入れ続けています。もしかしたら、数年後に「第2回」があるかもしれませんね。

 え? 私、数年後も相変わらず高ぇペン買ってんの?

 それはともかく、今後もどうかご贔屓に。