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狂人による狂人向けの筆箱紹介 〜お前それ筆箱っていうよりペンケースじゃね?〜 (前編)

 お世話になっております、あなたの四葉静流です。

 このnote内で「筆箱紹介」で検索すると、多くの方がご自身の筆箱の中身を楽しい解説を添えて記事にされていますね。それらを拝読して一つ気になった事があります。それは、「そういった記事の中で紹介されているのは数百円のアイテムや、高価なものでもアンダー3万円あたりの国産万年筆が大部分を占めている」という点です。

 これを逆に言えば、「完全据え置き型のペンケースの中に並べられた、海外メーカー製フラグシップ級万年筆の紹介があまり見つけられなかった」という事ですね。狂人は狂人らしく、加えて多くの方が既に行なっている事を私もやるのは表現者としての矜持に反しますので、今回は私なりの筆箱の中身を紹介していきます。

 いわゆる「雲上」は一本もありませんが、「『書くという行為』の為だけになんでそんなにお金出したの?」とツッコミたくなる値段のペンはたくさん出てきます。ご期待ください。

(この記事は前編として、ペンケース1つとボールペン1本、万年筆はスチール製ペン先万年筆2本とゴールド製ペン先万年筆3本を紹介します。中編と後編は下記の記事です)


ペンケース

ペント(ペンハウス)・本革コレクションボックス16本用 ヴァーゴ

 まずは、箱がなければ筆箱紹介ではありませんね。

 文房具のネットショッピングサイト「ペンハウス」のオリジナルブランドである「ペント」の、「本革コレクションボックス16本用『ヴァーゴ』」です。これはペンハウスの公式サイトから購入したものですね。サイトに記載されていた説明文によると、「ヴァーゴ(Vago)」とはクラシック音楽用語で「夢のような(曲調)」という意味だそうです。

 本題に入っていきましょう。本ペンケースは、いわゆる据え置きタイプの箱型ペンケースとしては大容量の16本収納となっております。本体サイズが大きい分、内部の収納性も申し分ありません。個人的には、ビスコンティ・オペラマスターのような大型万年筆も指一本分の余裕がある点がかなり好印象ですね。

ペン収納スペースは、「上蓋型の上段」と「引き出し型の下段」。

 逆に「ここが良ければもっと良かった」という点は、収納スペースの布張りにクッション性が乏しく、ペン1本ごとの区切りもない為、ペンの出し入れには意外と注意が必要な事ですね。もっとも、このレベルのペンケースを買い求める文具好きは、それ相応に大切に扱っているペンが存在するがゆえに、雑に扱う心配は無用でしょうが。

 内部右側は深さや二重底がある収納スペースとなっており、インク瓶・インクカートリッジ・コンバーターなどの収納を想定しているのでしょう。こちらも布張りになっているので、文具関連に限らず、個人のライフルタイルや趣味に合わせてアクセサリー類やホビー類を入れるスペースとしても重宝しそうですね。

色彩雫のカートリッジパッケージやペリカンの4001インクボトルも入る収納性です。

 外装はスプリットレザー(本革の上に合皮を被せた複合素材レザー)なので、本体上部右側にシールカスタムを施しています。シールの上に貼っている保護シートは、ニンテンドー・スイッチライト用のものを流用しました。(カスタム例として画像を載せておきますが、実際に行う際は自己責任にてお願い致します)


ボールペン

モンテベルデ・ミニジュエリア 日本限定カラー ブルー

 私のペンケースの中で唯一のボールペン、アメリカの文具ブランドである「モンテベルデ」「ミニジュエリア」日本限定カラーとして展開された3色のうちのブルーです。これは生産終了を知ったタイミングで地元の文具店に在庫が残っていた事を思い出し、急いで確保に走った1本です。

 「白+別の色」という組み合わせは、イタリアメーカーのレオナルドも「フェリーチェ」という名で日本限定モデルを生産していますね。また、最近では日本メーカーであるセーラーの「ランコントル」もあります。おそらく、日本では一定の需要があるカラーパターンなのでしょう。

「モンテベルデ」はイタリア語で「緑の山」。

 ボールペンとしてはかなり小振りなので、手帳や胸ポケットのお供にする事を想定しているのでしょう。ペン先の出し入れはツイスト式であり、本体の美麗さと相まって値段以上の高級感があります。加えて、本体サイズを抑えて取り回しの良さを高めたい小型ボールペンのコンセプトにマッチしていますね。(私はペンケースに入れて自宅用にしていますが)

 リフィルは4C規格のものが使えるので、同規格のジェットストリーム芯を装着しています。詳しくは後述しますが、モンテベルデの万年筆のコンバーターは欧州共通規格である点も加えて、このユーザビリティは個人的にはかなり嬉しいポイントです。


万年筆(鉄ペン)

モンテベルデ・プリマ ブルースワール(字幅F)

 ボールペンに続いてこちらでも登場のモンテベルデから、同ブランドのフラグシップ的な扱いである(?)「プリマ」の、青軸である「ブルースワール」です。これはどこかのネットショップで新品購入したと記憶しています。字幅は細字(F)一択だったはず。

 ソースは失念してしまいましたが、マーブル模様のレジンはイタリア製で、その他のパーツ・加工・組み立ては中国製だったはず。このプリマシリーズ、今は生産中止になっているのか、詳しい情報がほとんど見受けられず、ネットショップでも軒並み売り切れですねえ……。

 それはさておき、この軸の美麗さは特筆すべきものがあります。私が買い求めた当時は定価で約1万円程度だったので、本場イタリア製の金ペンと比べたら驚くほどリーズナブルな1本です。

 ただし、細部に目を凝らすと値段相応で、軸やキャップには無骨な接着面や内部パーツが若干透けて見えてますし、ペン先も刻印だけはモンテベルデと入れられていますが磨かれてもいないですねえ。(ネットで調べてみると後にペン先はメッキ加工が施されるようになっていたようですが、いかんせん情報が乏しい……)

青いレジンの奥に、尾栓パーツの根本が少し見えますね。

 書き味としては、意外と悪くはないですね。個人的にはむしろこの価格なら全くもって及第点だと感じます。鉄ニブとはいえ大型であるおかげか、いい意味でゆったりとした書き味です。仕事用よりも、プライベートでコーヒーを飲みながら握るのが似合うペンですね。

 ただ一点、コンバーター内で棚吊り(表面張力によってインクがコンバーター上方に溜まり、擬似的なインク切れを起こす現象)しやすいので、筆記前に軽くだけ振ってあげるとストレスなく使用できるかと。これに関しては、インクの方に要因の割合が多いのかもしれませんが。ちなみに、この万年筆は欧州共通規格なので、カートリッジインクの選択肢が多く、他社製のコンバーターが使用できるのもグッドポイントですね。(くどいようですが、あくまで自己責任でお願い致します)

(インクはカヴェコの「パラダイスブルー」を使用しています)


ツイスビー・ダイヤモンド580AL 三越伊勢丹限定 イセタンブルー(F)

 「台湾メーカーといえば?」で真っ先に名前が挙がるであろう「ツイスビー」の、フラグシップモデル「ダイヤモンド580AL」です。これは三越伊勢丹の店舗・オンラインショップ限定カラーである、「イセタンブルー」です。字幅は細字(F)一択でした。

 ダイヤモンドはその名の通り、まるで宝飾品に施すような精巧な加工が魅力的ですね。複雑な多面加工がされた胴軸、鏡面仕上がりやメッキ処理が施されたトリムや吸入機構。値段以上の高級感は間違いなく醸し出しています。

胴軸の多面カット加工。

 どこのメーカーかは忘れましたが、ツイスビーのペン先は自社製ではなくペン先メーカー製ベースだったはず。しかし、この価格帯の万年筆としては及第点の書き味ですね。ペン本体が比較的大型かつ金属パーツを使用しているので自重があり、筆圧をかけないで書く方・筆圧をかけない筆記を練習したい方にもオススメの1本です。初めてのピストン吸入式万年筆としても申し分ないでしょう。

(インクはプラチナの「ミクサブルインク フレイムレッド」を使用しています)


万年筆(金ペン)

アウロラ・オチェアーノパシフィコ(B)

 ここから狂気の金ペンゾーン。トップバッターの時点でクライマックスみたいな万年筆の登場です。

 イタリアの老舗メーカーである「アウロラ」の限定品に用いられるモデル、通称「946型」の1本、「オチェアーノパシフィコ」です。かつてアウロラが大洋をモチーフに展開した「オチェアーノ」シリーズの中の一つであり、「パシフィコ」はその名の通り太平洋がモチーフです。

 最大の特徴は、吸い込まれると錯覚するほど美しいターコイズカラーのレジン。私が調べたところによると、オチェアーノシリーズの中でパシフィコが1番人気だったようで、中古市場に流れてきたところを私はほとんど見た事がありません。個人的に、946型はアドリアとパシフィコとトロピチが人気スリートップのイメージです。全部海関係じゃねーか!

 クリップと首軸以外のトリムは、全てシルバー製です。小耳に挟んだ話によると、イタリアの職人さんの手彫りだそうです。よく見ると左右対称のデザインのはずなのに差異が出ている部分があったりします。さすがは伊達の国イタリア。ちなみに私は、「シルバーのくすみはシルバーにしか出せない」という考えのもと、金属部分はクリップと首軸しか磨いていません。

波模様の彫金が施されたキャップリング。天冠の根本や胴軸の後端にもそれが見受けられます。

 「太平洋がモチーフなのに細字帯でカリカリ書きたくない」と考えたので、字幅は太字(B)を選びました。この太さですと、アウロラのレビューでよく見かける「カリカリ感」は全くないですね。個人的な感想ですと、「おそろしくペン先が硬いマーカーペン」という趣ですね。

 購入前にレビュー等で散見していましたが、やはりアウロラの金ニブは本当に金が入っているのか疑いたくなるほど硬い。そして、946型は金属パーツを多用しているので重い。これを逆に言えば、「筆圧をかけずにペンの自重だけで筆記できる万年筆」という事です。ノート数ページ以上のロングライティング用として見るなら、意外と実用性は高いと感じます。

(インクはセーラーの「SHIKIORI 桜森」を使用しています)


(旧)デルタ・ドルチェヴィータ スリム(M)

 かつて、イタリアには「デルタ」という伝説のメーカーが存在した。

 まあ、今のデルタはマイオーラのラインナップを形成するブランドの一つとして復活したんですけど。という事で、これは廃業・復活前の旧デルタ時代のフラグシップ万年筆である「ドルチェヴィータ」の、「スリム」という比較的小振りで両用式モデルです。デルタの、ドルチェヴィータの象徴である瑞々しいオレンジ色のレジンが美しいですね。これは数年前に、地元の文具店で新品購入しました。

 「オレンジ色の万年筆といえばデルタ」とまで称えられたほど、やはりこのレジン、そしてオレンジ色と黒のコントラストが素晴らしいですね。さすがは伊達の国イタリア。キャップリングはシルバー製です。

高級感の塊。実際にフラグシップモデルの一員である。

 現行品の仕様は存じませんが、この時代のドルチェヴィータはボック社製ペン先です。書き味としては、及第点と言えると思います。中字(M)幅というヌラヌラした筆記感の他に、金の柔さがある程度楽しめるニブです。ちなみに、アウロラやビスコンティのBニブより太く、ペリカンのMニブよりは細い字幅です。

(インクはペリカンの「エーデルシュタイン オニキス」を使用しています)


モンブラン・マイスターシュテュッククラシック グレイシャー ドゥエ(M) 

 前編のトリを飾るのは、誰もが認める万年筆の王、「モンブラン」

 そのフラグシップである「マイスターシュテュック」の限定品、「マイスターシュテュッククラシック グレイシャー ドゥエ」です。「クラシック」はかつて「145」や「ショパン」と呼ばれていた両用式モデルです。そちらの名の方が耳馴染みがいい方は結構いらっしゃるのでしょうか? 氷河をモチーフとした限定品である「グレイシャー」シリーズの、キャップが金属製で胴軸が樹脂製の「ドゥエ」というモデルです。

 真っ先に目を引くのが、まさに氷のようなキメ細かいカットが施されたキャップですね。加工精度がおそろしいほど高いようで、クルクルと回すと規則的な反射を繰り広げます。やはりモンブランが王と呼ばれるのは、確固とした理由がありますね。

 グレイシャーシリーズは限定品として、通常のマイスターシュテュックとは異なる、グレイシャーシリーズ限定のペン先刻印が施されています。これは氷河をドラゴンに見立てた絵画作品からの引用だそうです。余談ですが、ヨーロッパでは登山難度が高い山を「(ドラゴンや悪魔といった)魔物が住む」と例えたそうで、日本の山岳信仰と対照的なのが興味深いですねえ。

コロンと可愛らしいニブに、王の証たる「4810」の刻印。

 字幅は中字(M)。書き味は、一流メーカーのフラグシップとしては及第点ではないでしょうか。絶賛するほどでは決してありませんが、かと言って何か不満があるわけでもありません。アウロラほどではありませんが、現行モンブランはどちらかと言えばガチニブ寄りなので、そういう意味では初心者でも扱いやすいペン先だと感じます。筆記幅の変化やペン先の柔さで遊びたいなら、同じモンブランならカリグラフィーニブがありますしね。

(インクはセーラーの「ゆらめくインク 凍空」を使用しています。モンブランは他社製インク使用に厳しく、コンバーターに「Use Montblanc ink only」と記載しているほどです。ですので、私のような他社製インク吸入は自己責任にてお願い致します)



 最後までお読みくださりありがとうございました。
 それでは、次は後編でお会いしましょう。
 今後もどうかご贔屓に。