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あなたのハートをきっと射抜く、オススメ万年筆インク紹介


はじめに

万年筆インクやガラスペンのブームについて

 OK、じゃあもう一度だけ説明しますね。
 私は四葉静流、いつもあなたのお世話になっております。

 ブーム最盛期から落ち着きを見せ始めたとはいえ、(ガラスペンを主軸とした)万年筆インクブームはまだまだ健在ですね。少し前には100円均一ショップとして有名な「セリア」にて、インクやガラスペンが発売された事が話題になっていました。かく言う私もまた、職場で文具趣味を公言しているので、休憩時間などに「ガラスペンってなんなんですか?」などと尋ねられた機会が何度かありました。そういった意味で、「この熱気は文具ファンだけのものじゃないな」と、ブームを実感していた次第です。

 私が文具趣味、延いては万年筆趣味を始めたのは2018年からですが、その当時と比べると、日本市場で販売・流通しているガラスペンや万年筆インクの種類は驚くほど増えました。文具専門誌である「趣味の文具箱」における当時のインク特集を確認してみると、その中で紹介されているインクの大部分は有名筆記具メーカー・ブランドのものですね。現在のようなガラスペン工房の隆盛や、インクを主力に据えているメーカー・ブランド(の日本での展開)が増えるのは、その少し後と記憶しています。

第47号のインク特集におけるインクカタログは全747色、現時点の最新号である第68号では全1109色。しかもこれは、あくまでこの雑誌に掲載されているものだけで、市場に流通している種類数は更に増加しています。

 これまでに私が書いた記事の中で、ノートや万年筆(のペン先)は紹介しました。という事で、今回は万年筆インクについて語っていきたいと思います。ちなみに、それらの記事はこちらからどうぞ。

 東北地方某県在住の私が入手できるものなので、筋金入りのインクマニアには少々物足りない内容かもしれません。しかし、これを逆に言えば「比較的入手難度が低いものを厳選して紹介する事」になります。なのでこの記事は、どちらかと言えばビギナー向きであると言えますね。専門用語などは分かりやすい解説を挟んでいきますので、どうか最後までお付き合いくださいまし。きっとあなたのハートに柄まで通る、最っ高に綺麗なインクが登場しますので。


「万年筆インク」ってなに? それってどんなペンで使えるの?

 このような記事をお読みくださる方の大部分には周知の事実だと存じますが、それでも「この記事によって万年筆インクを初めて知るという方がいらっしゃる可能性」はゼロではないでしょう。なので、はじめに「『万年筆インク』とはなんなのか」を軽く説明してきたいと思います。「その点の知識や経験には自信がある」と仰るベテラン勢は、どうぞ当記事冒頭の目次から万年筆インク紹介に飛んでください。

 では、「万年筆インク」とはなんなのか。それはズバリ、「万年筆で使う為のインク」です。おっと待った、石を掴んだその手はまず下ろしてくれ。順を追って説明するから。

 そもそもの前提として、あなたは、ボールペンの替芯(以下「リフィル」)が万年筆で使えないのは知っていますよね? はい、お答えくださった通りです。ペン本体にペン先が備わっている万年筆には、機構上の理由からリフィルを組み込む事はできません。仮にリフィルからインクだけを取り出したとしても、ボールペンインクは万年筆での使用に適していません。

 では、「万年筆本体に万年筆インクを充填させる場合」はどうなのか。方法は大きく分けて二つあります。一つ目は、「カートリッジ」と呼ばれる万年筆インクが封入された小さな容器を万年筆内部に差し込みます。二つ目は、「コンバーター」と呼ばれる器具、あるいは万年筆そのものに備わっている機構を使って、インク瓶にペン先を浸して直接インクを吸入する方法です。基本的にカートリッジとして用意されているインク色はボトルインクでも同様であり、「カートリッジでしか存在しないインク」というものはほとんどありません。

例えば、パイロットの「色彩雫」シリーズは、通常ボトル・ミニボトル・カートリッジと3種類の展開があります。それにしても私、青系インクばっか買ってんな。

 ここまでの要点をまとめますね。ボールペンインクが容器であるリフィルとほぼ同義なのに対して、万年筆インクの本質は「液体」なんです。また、万年筆インクは水性インク、つまりベースの材料として水が使われています。

 ボールペンにおいては、規格が合致するリフィルしか使用する事ができません。「G2」や「4C」といった共通規格がありますが、他社のリフィルを使用できるペンはそこまで多くはありません。

 それとは対照的に万年筆においては、(ボトルインクを購入したならば、)インクは瓶の中に満たされた液体です。あくまで自己責任になりますが、「A社の万年筆にB社のインクを充填する」といった使用方法が驚くほど容易です。

 もっとも、多くの万年筆メーカー・ブランドにおいて、他社製インク使用は黙認されています。他社インクの使用によって、ユーザーにとって不都合や不利益が生じる事は基本的にはありません。
 しかし、あなたもご存知であろう有名筆記具ブランドのモンブランのように、他社製インク使用が発覚した場合には追加料金発生や保証期間取り消しを行うメーカー・ブランドが存在します。また、万年筆は自社製インク使用を前提としている為、他社製インクとは相性の良し悪しが起こりやすく、予期せぬ故障が発生する場合もあります。そういったものを総合的に加味した上で、「自己責任」と表記しました

 また、インク瓶にペン先を浸すだけでよいので、現在流行中のガラスペン、あるいは羽ペンや毛筆といった、いわゆる「付けペン」でも使用できます。その気になれば、綿棒の先を浸しただけで即席ペンの完成です。この汎用性が高い用途と万年筆インクそのものの色味の多様性こそ、ブームが起こった一つの要因です。

 基本的に、ガラスペンを主とした付けペンで万年筆インクを使用する事は問題ありません。しかし、「付けペン専用インク」を万年筆で使用するのは推奨されず、行わないでおくのが無難でしょう。というのも、ここ数年で付けペン専用インクも爆発的に種類が増えて、「どのペンで、どのインクを使うと、どういった不具合・故障が発生するのか」という事を、メーカー・ブランドもユーザーも追いきれていないんですよね。

 なので、あなたが文具ビギナーであるのなら、まずは万年筆インクだけに手を出してみるのがベターかと存じます。流行りのシマーリングインク(いわゆる「ラメ入りインク」)は万年筆インクカテゴリー内でも豊富に存在していますし、万年筆インクの外箱やボトルには「万年筆インク」や「Fountain Pen Ink」という記載があるので、ビギナーでも判別が容易です。

 そういった意味も含めて、今回は万年筆インクのみを紹介します。「軽く説明する」と書いていたのに、意外と文量が膨れてしまいました。物書き趣味持ち特有の長文癖である。それはともかく、ここからはいよいよ本題、万年筆インク紹介です。待たせたな!


最高の色彩を秘めた、筆者オススメの万年筆インクたち

①カヴェコ「パラダイスブルー」

 まず一つ目は、某有名文房具系YouTuberの方が発信している動画でお馴染みのブランドである「カヴェコ」から、「パラダイスブルー」と名付けられたインクです。このインクはカヴェコのラインナップにおいて定番品なので、大手ネットショップなどで容易に購入できます。比較的大きな文具店・筆記具専門店なら実店舗での取り扱いがあるかもしれません。

Amazonより。

 文具ファン以外には馴染みが薄い名前と存じますので、最初にカヴェコについて軽く説明しますね。カヴェコの元々の出自は、1883年にドイツで生まれた文具メーカーです。二人の創業者の名の一部からそれぞれ取って、「カヴェコ」と命名されました。1930年代に発売された「カヴェコ・スポーツ」などで人気を博したようですが、1976年にメーカーとしての歴史を一度終えています。その後、1994年に同じくドイツ企業の文具ブランドとして再スタートします。シンプルでカジュアルな当時のデザインを現代的な技術で再現している現在のラインナップ、これが今日まで続いている二度目の歴史です。

カヴェコ・スポーツ(万年筆)

 カヴェコの文具もまた、同じくドイツの文具メーカーであるラミー社製品と同様に、機能美を至高の是とするバウハウス(かつてドイツに存在した、デザイン・美術学校)の趣を感じますね。イタリア文具のような装飾性が高いものも素晴らしいですが、ドイツに対する質実剛健のイメージはこういうデザインの賜物ですね。(現在のカヴェコ製品は、生産国がドイツ・日本・台湾などに分かれています)

 カヴェコ製品の中で現在の日本において特に人気なのは、前述の通り某YouTuberの方が自身の動画内で紹介していたシャープペンシルやボールペンです。しかし、ラインナップには万年筆も存在し、その一環として定番品のインクも製造・販売されています。パラダイスブルーはその中の一つです。

 まずボトル外観なのですが、元々のボトルはペリカン社の「4001インク」シリーズのような台形に近い汎用的な形状でしたが、数年前に現在のデザインに刷新されました。私の記憶の限りでは同じデザインのボトルを用いているメーカー・ブランドに覚えはないので、おそらくカヴェコ独自のボトル形状かと思われます。

 個人的には、現在のボトルの方が好みですね。数週間前に公開したペン先についての記事の中でも触れましたが、私はコロンと丸みがあって小さいものを可愛いと思っています。ヴィンテージ感があるラベルと相まって、卓上インテリアとしても機能しそうなデザインになっていますね。

肉眼での印象に近づける為、筆致写真には加工・編集を施しています。

 肝心のインクそのものについて触れていきます。はい! 見てください! 「パラダイスブルー」の名に恥じぬ、トロピカル感1000%のターコイズカラーを! いきなりうるせえなオイ。

 私はこれまでの文具趣味の中でターコイズカラーのインクにいくつか触れてきましたが、その中でもこのパラダイスブルーは特に美しいと感じています。(二度とそれができない限定品以外の)ターコイズ系インクの中で唯一リピート購入したのはこのインクですし。

 心が洗われるような清々しい色味ももちろん素晴らしいのですが、個人的には実用的な明度に抑えているのが特にポイントが高いです。これより明るく淡いインクも所有・使用しているのですが、そういうものはもちろん綺麗なんですけど筆致の視認性が落ちますね。

最近ふと思ったんですが、「斬月」って意訳すると「スプリットムーン」ではありませんか? どちらも刀をブンブンしますし!

 カヴェコの定番インクは全10色で、このパラダイスブルーはおそらく製品開発・製造における多くの制約や条件を経て生まれた色彩でしょう。現在のカヴェコは生粋の文具マニアが復活させたブランドと聞きます。そういう意味も含めて、とてもコダワリを感じますね。

 余談なんですけど、このインクを使っていると思い出す歌があります。アーケードゲームの雄であるコナミの音楽ゲームに収録されている、「Mermaid girl (Tropical Remix)」です。とても明るく華やかなのに、どこか「有終なるもの」も感じさせる色味が、私の中でそれを彷彿とさせます。

 この記事を投稿したのは真冬の真っ只中ですが、こういうインクで二度と同じものがない来たるべき夏を感じてみてはいかがでしょうか? おいマズいぞ。まだまだ先なのに穏やかな海辺の夏日、この目で見とうなった!


②ジャック・エルバン「アニバーサリーインク・アトランティスグリーン」

 次のインクに移っていきましょう。これは「ジャック・エルバン」から発売された記念製品のシマーリングインク、「アトランティスグリーン」です。原語であるフランス語での名前は「Vert Atlantide」ですね。意味はどちらでも変わりません。

 ジャック・エルバンはフランスの老舗文具ブランドである「エルバン」から派生した、高級文具ラインです。エルバンは手頃な価格で種類豊富なインクやシーリングワックスを主に扱う文具ブランドです。日本における定価で数千円台の万年筆やガラスペンも取り扱っています。それに対してジャック・エルバンは、本家エルバンよりも高価格帯の高級インクや高級筆記具をラインナップに有しています。

 ジャック・エルバン自体の誕生は2017年ですが、このアトランティスグリーンはエルバンそのものの350周年を記念して製造されたインクです。その事からも、エルバンの歴史と実力が垣間見えますね。

 ちなみに、同じジャック・エルバンのインクでもアトランティスグリーンが属する「アニバーサリーインク」シリーズは通常品の「エッセンシャルインク」シリーズよりも上位として扱われているようで、後者よりも多くの装飾がボトルに施されています。

 アトランティスグリーンは記念製品ですが、限定品という記載はなく、おそらく現在も製造され続けているようです。大手ネットショップやエルバンが属するクオバディスグループの日本公式ネットショップなどで購入が可能です。

クオバディス・ジャパン公式オンラインショップより。

 早速、色味を見ていきましょう。あ、その前に私が小耳に挟んだ話を一つだけ。純度までは分かりませんが、ジャック・エルバンのインクに用いられているラメは「ゴールド色ラメ」や「シルバー色ラメ」ではなく、「本物のゴールドラメ」や「本物のシルバーラメ」だそうです。普通そこまでする? 良い意味でフランスブランドの矜持を感じるぜ。

 では、改めて色味を見ていきますよ。かなり落ち着きのあるグリーンですね。もう少し幻想的に言うと、悠久なる歴史を感じさせる色彩ですね。インク色自体は落ち着いていますが、先述の通りこれはシマーリングインクです。筆致を光に当てると、金と銀の微粒子がピッカピカに輝きます。それはまるで、海底に沈んだ財宝のようです。

久しぶりにスタブニブ(カリグラフィー用ペン先)を握ったら掠れが連発。ペンは何も悪くありません。悪いのは走り書きばかりする私です。

 シマーリングインクにおける作法において個人的に一番好きなものは、「ボトルを振る」という行為です。一つ一つは微粒子とはいえ、ラメはインクの中に混ぜられた質量です。普段はインク瓶の底に溜まっています。なので、ガラスペンなどの付けペンのペン先を浸す際や、万年筆でインク吸入する際には、その前にボトルを振ってラメを攪拌する必要があります。それの個人的なコツとしては、ボトルを逆さまにした状態で握り、上下に軽く振る事ですね。時間にすると10秒にも満たない行為ですが、個人的には何か特別な儀式のようで好ましく思っています。

 総じて、趣味の書き物としても、大切な誰かへの手紙にも、アトランティスグリーンはとてもよく合うでしょう。人魚とその仲間たちが沈没船から持ち帰った人間の道具で思いを馳せていたように、あなたもまた、アトランティスグリーンでアンダーザシーな海底宮殿を脳裏に浮かべてみてはいかがでしょうか?

え? 「お前、マイナーネタ上等のくせに、有名作品のネタやるじゃん」? 当然です。基礎基本を押さえておかないと、「崩す」事はできません。


③セーラー「SHIKIORI・桜森」

 今回の記事のメインネタがあなたにも分かったところで、次のインクに移っていきますよ。日本三大万年筆メーカーの一角である「セーラー」における製品シリーズの一つ、「SHIKIORI」から「桜森」というインクです。

 載せている写真に写っているボトルは、もちろん純正ではなく、ユーザーである私個人が社外品の空ボトルに移し替えました。
 SHIKIORIシリーズのボトル容量は20mlという比較的小さなボトルなので、大型ペン先を持つ万年筆に吸入させていると、途中でインク水位がペン先の長さ以下になります。そうなった場合、片手でボトルを傾けながらもう片方の手でインク吸入を行わなければならず、トラブルのリスクが高まります。
 それを防ぐ為に私は、購入したボトルインク2つ分を最初に社外品ボトルへ移し替えています。タミヤの空ボトルはいいぞ。日本屈指の模型・塗料メーカーなだけある。しかもぶっちゃけ、各文具メーカーが用意している純正空ボトルよりも安いし使い勝手もいい。

 SHIKIORIシリーズは「四季織」という漢字名も冠しており、その名の通り日本の四季、日本人にとっては馴染み深く外国人にとっては新鮮味のある色彩のラインナップを有しています。今回紹介するインク以外にも、万年筆やマーカーペンも展開しています。桜森のインクは定番品なので、各小売業者のネットショップや実店舗などで容易に購入可能です。

SHIKIORI公式サイトより。

 実を言いますと私、数ある万年筆インクの中で最も好きなものが、この桜森です。はい、私の中で断トツぶっちぎり1位です。そもそもなんですけど、個人的に一番好きな花って桜なんですよ。おい、今の誰だ? 「悪い意味で個性的な文章書くのに、そういうところは意外とオーソドックス」って言った奴は?

 それはともかく、色彩の方を見ていきましょう。一般的に桜と言えば「ほのかに桃色がかった白」というイメージですが、桜森はその名の通り「咲き乱れる桜の木々の真っ只中」を表現している、「紅色に若干だけ寄った桃色」という色味を持っています。

 個人的には、これがとても素晴らしい。まさに天を覆わんとする桜の枝が重なっている光景が脳裏に浮かびます。おそらくは実用的な視認性を確保する為にこの色味にしたのだと思われますが、それに「桜森」と名付けるセンスに脱帽です。セーラーはこういうネーミングやニュアンスがマジで上手い。

 「桜森」は近年において若干の仕様変更があり、筆致のみならず液体状態のインク色でもピンクに近づきました。なので、「透明軸やインク窓を持つ万年筆に吸入した際に、その内部でゆらめくピンク色を眺められる」という楽しみ方が増えました。

 私個人としてはこの桜森を、イタリアの文具メーカーである「アウロラ」の万年筆、「オチェアーノパシフィコ」に吸入させています。青系カラーとピンクの相性はマジでいい。華やかさと愛らしさをあわせ持つそれは、例えるとノリノリのサマーソングの如き軽快さがあります。

 あなたの予想通り、私は音楽イベントに赴く類の者ではありません。私は経験より物を選んでしまいます。しかし、あなたもこのインクを青いペンで使って、誰もが心を弾ませ体を揺らしてしまう真夏の祭典のようなひと時を感じてみませんか?


④フェリスホイールプレス「 フェリテールズコレクション・トゥマルチュアスタイズ 」

 今回は人魚ネタ多めでやっている事は、あなたはもう百も承知ですよね? だったら、トリを飾るのはこのインク。カナダの文具ブランドである「フェリスホイールプレス」の、童話をテーマにした「フェリテールズコレクション」の一つ、「トゥマルチュアスタイズ」です。

  トゥマルチュアスタイズは原語で「Tumultuous Tides」であり、直訳すると「荒れ狂う潮流」です。おそらくは、人魚姫が王子と出会うきっかけとなった、「帆船を飲み込むほどの大嵐」を意味しているのでしょう。フェリテールズコレクションのインク名に用いられる英単語は日本ではあまり馴染みのないものが多い所為か、製品名に元となった童話の日本語名を添えている小売業者が見受けられます。

 ええと……フェリスホイールプレスの説明って必要? まあ、この記事をお読みくださる物好きなあなたならご存知だと思いますが、あえて簡単な説明をしますね。

 フェリスホイールプレスは、端的に表現するならば万年筆インクブームが起こった一つの理由です。オシャレなイラストで飾られた箔押しの外箱に、香水瓶のような可愛らしいボトル。シマーリングインクを多く製造し、特に女性からの人気は絶大です。設立は2010年と比較的若く、ここ数年で日本において爆発的に人気となりました。新興文具メーカー・ブランドの中では最も勢いがあるブランドの一つと言っても過言ではないでしょう。

 トゥマルチュアスタイズは2023年の5月に販売開始された製品であり、おそらくは定番品です。日本におけるフェリスホイールプレスは各種SNSをホームページ代わりにしているので、正確な情報をイマイチ掴みにくいのが難点ですねえ……。

 個人的に、この点はマジで改善してほしい。ある程度高額な万年筆には整備上の理由から限定インクやシマーリングインクを吸入させない私にとって、何がそうであるのか簡単に見分けられる一次ソース的情報源を重宝しています。フェリスはインクを主力商品に据えているので、インクそのものやシリーズの種類が多いですし。

 それはこれからに期待するとして、早速ボトルから見ていきましょう。前述の通り、トゥマルチュアスタイズはフェリテールズコレクションというシリーズに属しており、これらは20mlボトルのシマーリングインクで統一されています。外箱もボトルも本当にオシャレです。価格に対してボトル容量が他社と比べて小さめですが、それでもこのコロンと可愛らしいボトルは私好みです。机の上に置いていても邪魔になりにくく、シリーズで揃えて並べればとても見栄えするでしょう。

 肝心のインクそのものの方も見ていきましょう。実を言いますと私はこのインクを購入するにあたって、「たぶん絶対綺麗なんだけど、やっぱちょい高価いよなあ……シマー系は一軍万年筆には吸わないから余らせそうだし……」と数ヶ月ほど二の足を踏んでいました。しかし、その苦悩の日々を全て吹き飛ばすほど、やはりフェリスのインクはその人気度に裏付けされた見事な色彩を持ち合わせていました。万年筆に吸入させて紙の上を走らせた瞬間に、「あ、ヤバい。メッチャ綺麗じゃん」と漏らしてしまうほどのインクはマジで久々だった。

 青味と緑味のバランスが程よいティール(青緑)のインク色と、銀色ラメの相乗効果がマジで素晴らしい。どこか神秘的で儚げでロマンチック、だけど白い泡を立てて荒ぶる嵐も感じられる。「絶対綺麗な奴じゃん」とは予想していましたが、ここまで多義的な色味を有しているとは考えていませんでした。これ考えて作った奴らは天才かよ。絶対天才だわ。

 人魚という事で、個人的な「ヘキ」の話を一つしていい? いいよ。ネット上で活動されている「龙末的宠物」氏という方の作品を、個人的にかなり好ましく思っています。私としては、「世界一可愛い人魚を描く絵描きさん」と感じています。

 という事で、テック系マーメイドに思いを馳せながら、ネオンのように輝くシマーリングインクを紙の上に走らせてみるのはいかがでしょう? どういう事だ?


結びに、「何度だってインクロマンス」

今回は紹介しきれなかった人魚の方々。いつか必ずネタにします。私にはそれができるらしいんで!

 万年筆インクの基本的な情報・特徴から本題であるインク紹介まで、不意に倒してしまったボトルの如く盛大にブチ撒けたら、約1万字まで文字数が膨れ上がってしまいました。やはり私は長文癖が抜けませんね。

 それはともかく、今回も最後までお読み頂き、本当にありがとうございます。そして、本当にお疲れ様です。まあ、大いなる海に暮らす多種多様な存在と共に生きている人魚のあなたなら、これくらいの情報量なんて楽勝だったでしょ?

 今回紹介した4つのインクは、あなたもご存知の、膨大な万年筆インク・付けペン専用インク商品群である「インク沼」のほんの一握りです。例えるなら、この記事は太平洋に面した小さな入江であり、その奥には大海原が広がっています。

 あとは知ってますよね? 誰だってインクで遊べる。私はその事を、あなたに言いたい。この記事があなたにとって、あなたの書斎を彩るインク選びの参考になれば幸いです。

 今後も、四葉静流をどうかご贔屓に。


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