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ももたをたすけてください

動物愛護センターのHPにももたを見つけて、全身の血が引くような思いがした。
ももたの写真が載っていた。
まぎれもなく、ももただ。
小さな写真でもすぐにわかる。
黒っぽい雉猫で、緑色の首輪をして、体格は「大」。
顔にケガをして、ぐったりとしたももたの写真がそこにあった。

ももたが家にいないことに気づいたのは、夕方になってのことだった。
仕事から帰り、家族にももたは私の部屋で寝ているかと尋ねられて否定した。
締め切った部屋は昼間の間に蒸し暑くなっており、入るだけで汗がふきでる。
猫たちが寝るには不向きな環境だ。
そんな部屋で、猫が寝ているわけがない。

よくよく聞いてみると、あの食欲魔猫なももたが夕食を食べていないという。
おかしい。
なんか、おかしい。
呼んでも出てこないのがおかしい。
あの食いしん坊さんが食事をねだりに来ないなんておかしい。
普通、私が帰るとお迎えに来るのに、それがないのもおかしい。

猫を外に出すなと常々家族には伝えているが、窓やドアを開けっぱなしにして忘れてしまうのが高齢者。
家族にしてみれば、猫を外に出さないことが可哀そう、というので、これまでも口論になることがあった。
まさか、今回もするりと外に出てしまったのではないか。

もしやと思って真っ先に見たのが、動物愛護センターのHPだった。
今までお世話になったことはなかったから、今回も特に関係はしないだろうと思っていたのに。
なんだかとても嫌な予感がして、とりあえず開いた地域の動物愛護センターのHPに、ももたの写真が載っていた。
体格「大」。間違いない。
拾われた場所も近くで、去勢されていて、首輪もそれで、そうだけど、そこには「顔にケガ」の一文があり、背筋が凍るような思いがした。
収容されたその日に処分されることはないだろうと思いつつも、その場所が場所だけに心配というのもあったが、「顔にケガ」。
何があったというのか。命に別状はないのか。

すでにセンターの業務が終わっている時間帯だったため、電話をしてもつながらず、HPにあったメールアドレスに当方の飼い猫であることをメールした。
かかりつけの動物病院にも電話し、事情を説明し、翌朝の予約を取り付けた。
迎えに行く前に死んでしまったらどうしよう。なにか手違いがあって、ほかの人の手に渡ってしまったらどうしよう。
朝一番に、仕事の前に迎えに行くつもりで、早く寝なければいけないとは思っても、とてもとても苦しくて、眠れない夜だった。

翌朝、始業にあわせて動物愛護センターに向かった。
前もってメール、電話していたおかげで、スタッフの方たちがすぐに対応してくださり、書類を書いて、ものの5分ほどでももたを引き取る。
ささやかな金額をお礼代わりに寄付させていただいた。

かごのなかでぐったりして動かない猫は、確かめるまでもなくももただった。
呼びかけても返事がないが、ぬくもりは確かに感じた。
顔のケガとは、左目の眼球突出だった。
あんなにきれいな緑の目が、黒くしぼんで飛び出ているのがわかった。直視することが難しくて、すぐに目をそらしたくなる。
一体、何があったというのか。
頭に血が上るような怒りと、この子の命が失われようとしているのではないかという恐れと、早く医療につなげなければならないという焦りと、なんで前日のうちに見つけて引き取りに来てやれなかったのかという後悔とで、そもそもなんで家から出してしまったんだと母を怒鳴りつけそうになるのをぐっとこらえた。
私の老いた母も、十分に傷ついており、落ち込んでおり、動揺しており、心配しており、眠れぬ夜を過ごしたのだから。

自宅に帰る道すがら、予約していた動物病院に電話し、ももたの状態を伝えた。
案の定であるが、予約先では診ることができない大けがであり、他院受診を促された。
外科手術が得意な病院を教えてもらったが、そちらも幸い、そこそこ近い動物病院だった。

おそらく、交通事故にあったのだろう、という見立てだった。
その事故から24時間以上たっているので、左目の眼球は戻すことができず、摘出になる。24時間以内であれば戻せることもあるのか、ということのほうに、驚いた。
そのほか、下顎が骨折しており、そちらも手術が必要だという。
道理で鳴くことも、食べることもできないはずだ。
ももたはなでたとき、ほんの少し、鼻を鳴らすような音を立てた。
ごろごろという代わりだったのかな、と思うような、そんなタイミングだった。

全身のMRIとレントゲンの結果、大きなけがは目と顎で、その他のところは異常はないらしい。
頭部を強打しているので、人間だったら高次脳機能障害が気になるところであるが、猫だったらどうなるか、さすがにちょっとよくわからない。
手術までに体力を少しでも回復させるために、鼻注で栄養補給をしている。
入院は2週間から4週間になりそうである。そして、予算は60万以上。

どうして保険に入っておかなかったのかと問われるとつらい。
現在、4匹の猫がおり、それぞれに保険を組む余裕が、私にはない。
なぜかならば、この2年間、私自身ががんの闘病のため、フルタイムで働けた日がないのだ。
3回目の闘病から維持療法を受けつつ、あと少しでフルタイムに戻れるかもしれないと見え始めた2022年4月、4回目の発症がわかり、現在も抗がん剤治療中である。
自分自身の年間100万ぐらいにはなる治療費を出しつつ、家族を養う私にとって、60万ぐらい安いようで安くない。
ももたの命と思えば安いのだが、小さい金額ではない。

ももた。ももた。
今夜も心細くしていないだろうか。顔が変わり果てたとしても、生きていただけでえらいから、必ず帰っておいでね。
私のかわいい添い寝猫。お前がいないと、私が眠れないのに。
いとしい息子。特別な猫。大事な猫。優しくて穏やかでおおらかで、世話好きな猫。
私がしんどくて床に座り込んでいたりしたら、探しに来るのはももたぐらい。
猫は太平楽に寝るのがお仕事なのだから。そうやって、世界を平和にするのがお仕事なのだから。どうか。帰っておいで。待っているよ。

*****

ももたの手術が終わってから公開しようと思って、書いた記事です。
もしも助からなかったら…と思うと、めどが立つまで、皆さんにお願いするのも気が引けて下書きのままにしていました。

カバーにしたこの写真を見るたび、私は胸をかきむしりたくなると思います。
きれいな緑色。年齢を重ねるうちに、シトリンかアンバーのような色合いだった目が、プレナイトかペリドットのようになり、こんな風にブルー味をおびた美しい緑色にまで変わってきました。
この左目が、もうない。
当初はそのことにショックを受けていましたが、今は生きて帰ってきたことだけでも幸運だと思い、できることをしていきたいと思います。

だからもし、厚かましいお願いですが、この記事に寄付をいただけたら、ももたの治療費、入院費の足しにさせてください。
どうぞよろしくお願いいたします。

お金でなくてもいいんです。
あなたが猫の飼い主であれば、あなたの猫が同じような目にあわないよう、家出に気をつけてあげてください。
そして、私が今、ももたを撫でることができないので、私がももたを撫でる代わりに、あなたの猫さんをなでてあげてください。
猫の飼い主ではない人であれば、外を歩く猫たちに、少しだけ優しい眼差しを送ってあげてください。
年を取った人は、昔のまま、猫は家と外を行き来するものだと思っており、完全室内飼いに切り替えられない人がいます。
あるいは、完全に室内で飼おうとしていたのに、うっかりしたなにかが起きて、猫が外に出てしまってそのままになることもあります。
地域猫としてなんとか見守ろうとしている人たちもいます。
猫が好きではないけれどもここまで読んでくださった人もいるかもしれません。
どうか、世界には人間以外の生き物もいて、それがそもそも当たり前だったことを忘れないでください。

この記事を書いてからとてもたくさんの方に御支援や応援をいただきました。
そのお礼とももたの状態について記事を書きましたので、よければそちらもご覧ください。

8月21日 ももた、おかげさまで退院いたしました。

8月28日 ももた、再び入院となりました。

9月16日から3回目の手術のために入院しています。
これが最後になりますように。

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