ドレスコーズ『バンド・デシネ』

ドレスコーズ の2ndアルバム『バンド・デシネ』。
オリジナルメンバー4人で作られたアルバムのひとつです。

『バンド・デシネ』はフランス特有の体系の漫画のことを言います。ざっくりとした特色は、大抵の場合A4以上の判型で大きく、フルカラーで細かい描き込みが多い、といった感じです。
このアルバムのタイトルは「バンドで死ね」のダブルミーニングです。「死ぬまでバンドを!」とも取れる読み替えを提示しておきながら2年とたたずバンドメンバーが脱退するのだから世の中は残酷です。

今回はこのアルバムに触れていこうと思います。


1.ゴッホ
ゴッホ。生きている間には評価されず、死んだ後に評価された芸術家の代名詞です。
この曲はとてもシンプルに、生きている間に評価されたい、『ゴッホじゃやなんだ』と叫ぶ曲です。アルバムの中では1番最後に作られた曲で、締め切り1週間前に作られました。『ゴッホ』なしでは綺麗にまとまり過ぎているきらいがあったようです。『右か左か選ぶ時がおとずれたら、めんどうになりそうな方に進め』という歌詞は良くも悪くも私に影響を与えています。それと、「生きてる間、やりたいこと全部やっぞ」と吹っ切れた2番も大好きです。『やることなすこと写真撮って老後にふたりでながめよう』とか凄い好き。

2.どろぼう
ゴッホに続き、欲望を吐露する曲です。『ゴッホ』からの続きで聴くと、志磨さんのたうち回ってるな…と感じます。「全部が欲しい」と大の大人が叫んでいる姿は面白くもあり、同時に元気付けられもしました。

3.Zombie
正直なところ、全然ピンとこない曲だったのだけど、最近良さがわかるようになりました。

4.ハーベスト
ハーベスト。このアルバムで、というよりドレスコーズで好きな曲5本の指に入ります。『ゴッホ』『どろぼう』と繋げて歌詞を見てみると、この曲も全てを欲しがっています。正直者かよ。
この曲を聴くと綺麗な夕焼けが浮かびます。
本当に幸せな時にこの曲を聴くとボロボロ泣きます。

5.トートロジー
トートロジー、意味は「同語反復」です。「AはAだ」とか「1=1」みたいな前半後半が同じことを指しているような文のことを言います。「私は私」とか。そのトートロジーだけで詩を書こうとしたのが発端です。「一位以外は一位じゃない」とか「キミはキミだ」とかがその片鱗。
この曲のMVは一時期YouTubeの動画再生前の飛ばせないタイプの広告になっていたので、記憶に残ってる人もいるみたいです(概ね良くない意味で)(何故なら大抵の人にとっては不快な待ち時間に強制的に聞かされる曲だったから)。

6.シネマ・シネマ・シネマ
『すべての映画はぼくらのエチュードだ』と言ってしまう愚かさ、潔さ。「この世の創作物、俺たちの人生の前座だから」と言い切ってしまう。
「シネマ」と言っているけれど、現実の方が素晴らしい、いやそうあるべきだという強い意志を感じます。『シネマじゃなくてリアル』。

7.Silly Song,Million Lights
『シネマ・シネマ・シネマ』とは別の角度で現実に向き合います。決してポジティブではないけれど、ネガティブでもない、なんとも言えない歌詞世界です。まさしくそれが現実なのかしら。このアルバムは「言葉(≒歌詞)」の要素が大きいアルバムだと思っていましたが、この曲や『ハーベスト』を聴くとシンプルにメロディも綺麗です。

8.Eureka
エウレカ。古代ギリシャ由来の感嘆詞で何かを発見したり発明したりした時に言う言葉です。古代ギリシャの科学者アルキメデスが言ったとされています。
歌詞はふっつーに難解です。この頃の志磨さんは自分1人の言葉を良しとせず、バンドメンバーの共通言語のみを歌詞にすることを己に課していましたが、これ、共通言語なの? どんな4人だったんだ…。

9.(She gets)the coat.
散文的ですが、こちらの歌詞の方が『Eureka』と比べれば分かり合えそうな気がします。

10.Teddy Boy
改めて聴くととても好みなのですが、あんまり印象が残っていません。なんででしょう。

11.We are
エンディング直近を予期させる曲。実際次でこのアルバムはエンディングを迎えます。人生を物語と見立てた場合の讃歌です。『シネマ・シネマ・シネマ』と言い、「虚構と現実」みたいなテーマがあるのかもしれません。「虚構」も確実に「現実」に影響力を持っているという意味ではこの曲『We are』はとてもこのアルバムらしい曲なのかもしれません。

12.バンド・デシネ
大団円です。
『夢は見た 恋はした ・・・あと何がある? 生きるだけか』、めちゃめちゃ現実生きようとしてます。全然意識してなかったけど、やっぱりこのアルバム「虚構と現実」って感じします。そもそもタイトルが『バンド・デシネ』という作品形式ですし。「事実は小説よりも奇なり」といった感じでしょうか。
………今、「事実は小説よりも奇なり」の原語を調べたら“Truth is stranger than fiction.”でした。まさしく「虚構よりも現実の方が不思議」。このアルバムの主張そのものです。
『これが人生、愛と栄光のバンド・デシネ!』と歌われていますが、バンド・デシネは直訳すると「描かれた帯」のような意味になります。日本語的には絵巻物のようなものを想像しますが、絵巻物って出来事とか人生とかをドラマチックに残したものです。でも人生そのものの方が帯のように連なっているしドラマチックです。「虚構」の価値を前提とした上での人生の賛美です。
『恋と労働のシンフォニーをゆけ』という歌詞がとても好きです。


はてさて、これにて『バンド・デシネ』終わりです。

それでは、また。あなたを愛しています。

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