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MEETING #03 石川初さんと、オンライン授業の話 [録画データと、あとがき]

大学の授業がすべてオンラインになって3ヶ月目をむかえる慶應大学SFCの石川初さんに、オンライン授業の話を聞いた。いつもは研究の話を聞かせてもらうことが多いが、この日は〝内容〟でなく〝やり方〟に焦点を絞って。

コロナ禍を背景に授業の基盤環境が大きく変わったわけだ。そこでいまどんなことを感じ、考え、試みているのか、いっぱい聞かせて欲しいと。

録画を公開します。最初は導入的な話を二人で交わして、13:20あたりから石川さんが用意してくれたスライド・トークが始まる。これが1時間ほどあり、1:11:00頃から二人でインタビュー的な語らい(約30分)。そして石川さんは大学院のオンライン授業へ。

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つづけて1:31:40から、ビデオオフで聞いていた彼の学生さんたち4名にご登場いただいて、「どう?」といった会話を45分ほど交わした。最後の方は妙に祝賀会っぽい(笑)。

では、あとがきを少し。

オンラインの授業やレクチャーの機会が増えて、自分の周囲でもいろんな人が「反応がわからない中で喋るのが辛い」と呟いている。そりゃそうだよねと思いつつ、ネムイ話するのよそうよとも思う。言うまでもないことだよね。

失われた大きな要素は「場」と「相互作用」だろう。話し手(ここでは先生)と聞き手(ここでは学生)のあいだでも、聞き手と聞き手のあいだでも。第二部で一年生のユウタさんが「サボり方を一生知らない」と語っていたが、授業中の他の学生の様子もわからないわけだ。

で、失われた相互作用性を取り戻すオンライン上の工夫が、世界各地で試みられている。けど石川さんは「提出物を見ると、個性が際立っている」と話していた。例年に比べて、場を通じた同質化が進んでいない感じがすると。

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これまではまず自分がある塊(知識やものの見方)をドンっと出して、それに対して出てくるみんなの応答を合わせてその〝場〟で授業をつくっていた。

でも〝場〟自体の共有はあきらめるというか、「学生が一人ひとりローカルな環境(自宅の部屋や家の近所)を使って、発見したり豊かに学ぶ〝ツールを届ける〟と思えばいいんだと気づいたところから、授業がうまくいき始めた感じだ」と語っていた。

「ローカルな環境にツールを届ける」と聞いて思い出すのは、日比野勝彦さんの『100の指令』の表紙のこれ。

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「口の中」というローカルな場所に、まあよく届くこと。でも石川さんの授業から話が外れました。

大学の講義で教室の後ろに座る学生がいる。友達とお喋りするわけでもなく、一人で座って、聞いているんだか聞いていないんだかよくわからない人たち。でもあとでレポートに目を通すと、そんな彼や彼女たちは、他の学生以上に面白い感想や見解を書いてくることが多かった。本人なりの視点を持っている感じがあった。

一人ひとりが自分の環境から参画するオンライン授業は、それぞれのローカリティを活かす形で考えると面白そうだな。「現場は向こうにある」(石川)。

「実空間の真似をしようとしている限り、実空間に敵わない」とも話していた。そう思う。言い訳がましく「本当は...」とか言いながらオンライン◯◯◯を開くようなダサい真似はしたくない。

「パーソナルプレイス・デザイン」という授業の話も聞かせてくれた。

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身の回りにあるものから、なにか選ぶ。例えば「マグカップ」ならその特徴を可能な限り書き出して(下部)、別の用途に転用されている状態を考察し、最初に捉えた特徴がどう「働いて」いるか、あらためて書き出して行く(上半分)。「モノには必ず使われていない才能があって〝褒めれば伸びる君〟なんだ」と学生たちに伝えていると話していた。

機能、つまりあらかじめまとっている用途のくびきを外して、物や場所の潜在的な可能性を再発見するトレーニングを重ねるこの授業は素敵だなと思う。けど同じことを「オンライン授業」というモチーフについて、いま石川さん自身が取り組んでいる真っ最中なんだね。

後半、授業の〝内容〟でなく〝態度〟の話になり、最後の学生さんたちとのお話でもそのことが交わされている。僕は自分の経験をふりかえっても、「なにを学んだか?」という内容以上に「どんな人と、どんな時間を過ごしたか」ということの方がよく効いている。

入学していきなり「来ないでください」と伝えられている学生たちに「〝君たちは歓迎されている〟ことを伝えないといけないと思った」という石川さんの、オンライン授業をめぐるジタバタや一所懸命さは、「手を抜かれていない」実感として、学生さんたちに届いているんじゃないかな。

「オンラインだからしょうがない、ってこっちが思いながらやっているのが伝わっちゃったらアウトだと思ったんだよな」(石川)。そう思う。だから「本当は...」とか絶対に言っちゃいけない。

石川さんは「コミュニティに属している感じが弱いと思うんだよね」とも言っていたかな。まだ直に会ったことのない今年の研究室のメンバーから写真を送ってもらって、彼の手元でつくったというこの春の集合写真。ここまでするんだね(笑)。

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チャットボックスに「社会的遺伝子が受け継がれている様を見ているようです」と書き残してくれた人がいて嬉しかった。ですよね!


*次回「MEETING」は7/26(日)午前。徳島のフリースクール「トエック」の伊勢達郎さんと「本、書きたいんだって?」という話を。