すごくこわくてきもちいい毒がじわじわ効いてくる(大岩雄典個展「スローアクター」をめぐるおしゃべり)

——池袋 2019年3月17日日曜日 22:13——

確か2月なかばくらいの週末に行ったんだけど わたしはすこんとQ.E.D.と思ってしまった うーむ 汲み尽くせなさみたいなものにもっと真摯であるべきだったかもしれないけど でもほらわかった気がするときって乱暴に気持ちよくなってしまうじゃん
あ カルピスサワーをもう一杯 お願いします……

まず 出入り口の床に割れた花瓶が落ちてて かつて活けられていたらしい黄色い花も一緒に投げ出されてやや萎んでる そのときはそこで頭上を見上げようなんて思いもしなかったんだけど これは後になってさらっと回収される伏線になってるの

展示室の中に入るととても暗くて その部屋はぜんぶ瓦礫 ぱっと見は瓦礫に見えるものばかり配置されていて イブ・クラインのことを知ってる? みたいなことを日本語で話す女の子の音声がなんどもくりかえし流れて 英語の字幕が投影されてる イブ・クラインはまあ知ってるけどイブ・クラインのことはほぼ知らないなってわたしは思った 女の子の声は ひとたび知ってしまったら知る前の自分にもどることはできない みたいなことも言っていて そのときは来たばかりだからなんとも思わなかったけど 帰るときにはこれもあーなるほどって納得していて なんでかというと うーむ ちゃんと順を追って話さないと……
あ ありがとうございます おでんと赤かぶの漬けたのも頼んどく?

それでね 駒込倉庫というのがギャラリーの名前 ちいさな2階建てで 全体はこんな感じをしている まず はしっこの出入り口から1階の瓦礫の展示室に入る 奥までたどり着いたら階段を登る 階段を登るとすぐそこに映像作品 EVENTUALLY EVEN がある それを見たあとで2階のあかるい展示室へ進む それを奥まで見たら引き返して 同じ階段を降りて1階へ それで瓦礫の展示室を再び見ることになる

写真ちゃんと撮れてないけど 1階の様子はおおよそこんな感じ……

念のため瓦礫を観察したけど そのときはなんのことだか分からなくて 意味をぜんぜんむすばない 考えても仕方がないかなと思ってとりあえず階段を登ったんだけど でもちゃんとあとでぜんぶわかるの

階段を上りきったところで映像作品 EVENTUALLY EVEN がある 上映されている というより ある というかんじだったな やや長めの作品で 何分くらいかな 体感だと15分くらい だからちょっと細かいところまでは覚えていないんだけど できればもう一度見たいな 大岩さん 他の作品はYouTubeにあげてらしたと思うけど…… でもあの作品 会場specificって感じもするもんね……
映像は 壁掛けのスクリーンではなく 床に投げ出された縦長のディスプレイに映し出される たぶんだけど スマホを縦にしたままそのディスプレイを写真を撮ったとき ちゃんとシーンが入れ子になるようにするためだと思ったよ つまりは……
あー これすごくおいしいね 低反発枕みたいなはんぺん

うむ それでね 映像はループ再生されていて わたしが階段を上り終えたときにはちょうど柔道の話をしていた 英語で話す男性の声で 画面には日本語字幕と なんていうか語り手の心象のようなものが写っている 最初はなんのことだかさっぱり分からない でもじっと映像を見ていると語りのレイヤーがなんとなく見えてくる 語り手は一人なんだけどすごいポリフォニックで それでも一貫した主題はあるように見える(なんか 記憶って一続きの物語のなかに保たれている感じがするから そこに縮約しづらいシーンって捨象されてしまうよね わたしはわりあい勝手に妄想しがちな性質だから もしかすると歪めて記憶しているかもしれない……)
ともあれ映像はおよそこんな感じだった 男の声が自分の置かれた状況を独白している 階段を下りながら 海のほうへと下りながら 何冊かの書物を見つけそれを読む どうやら階段を降りつつ正しい本を見つけなければ解毒剤を手に入れることができないみたいなルールであるらしく なんだったかな ついには(Eventually)階段で足を滑らせて落ちてしまうという毒の解毒剤だったっけ? その毒は遅効性(slow-acting)で 男はまだ落ちていないけどいずれ落ちてしまう だから解毒剤を手に入れんがために階段を降り続けている
確か3冊くらい本が出てきたと思うんだけど 柔道の本と イブ・クラインの本と シャーロック・ホームズと ナイアガラの滝の本? 記事? あれ 他にもあったっけ あそっか 柔道の本はイブ・クラインの本だったね確かに うーむ とにかく 語り手の男自身が落ちようとしているだけでなく 男が読んでいる書物の中のひとたちも落下している ただ 書物のなかの人たちは助かってるみたいだった ホームズはライヘンバッハの滝から落ちたけど結局死なないし ナイアガラの滝に落ちた少年も結局奇跡的に助かっている(映像の中では読むごとに死んでいたり死んでいなかったりするけど 史実としては)
階段を下って本を見つけないと解毒剤に辿り着けず落ちてしまう というのはかなり理不尽なゲームだよね でも 男の話を聞いているわれわれ来場者もこの理不尽なゲームに参与させられているっぽいみたいなことがじわじわわかってくる
ぜんぶに言及するとキリがないけど だからこの映像にはメタフィクション的な仕掛けがそこらじゅうに張り巡らされていて 語りの中の語り 録音の中の録音 録画の中の録画 そういうシーンが語りのレベルを混乱させて それを見て 聞いて 写真や動画に撮っているあいだに われわれも混乱した語りの中に紛れ込む用意ができている(映像の写真は撮りわすれちゃったけど……)

そういえばこの時点でイブ・クラインの著作のことをわれわれはすでに知ってしまっていて 最初の女の子が言った通り もう知らなかった状態には戻れないのだけど それはまだぜんぜん序の口で……

映像を一周だけ見て あまり要領を得ないままだったけど 続きが気になるので最後の部屋へ進んでしまう 瓦礫ではないほうの展示室へ 写真を何枚か撮ったよ 全体図ではないけど こんな感じ…… 白くてあかるくて きれい うららかな緊張感

この部屋にも細かな仕掛け 来場者をゲームに巻き込むためにさまざまな語りのレベルをまぜこぜにするための細工はたくさんあるんだけど ざっくり言うと あ 終電何時だっけ? まだあと少し大丈夫だね…… 最後の赤蕪 食べちゃうね
ええとね 展示室は 白い階段が背骨みたいに真ん中をつらぬいてて それを上った先の白いカーテンの向こう側に水の張られたプールがある

部屋の出入り口でハンドアウトを手に入れることができて そこにいくつかのルールが明記されている ハンドアウトはね あ やった まだポケットに入れっぱなしだ 展示されているもののリストと 禁止事項およびインストラクションのリスト

ハンドアウトで許可されている通りに 階段を昇ってプールのほうへ進む カーテンの向こう側を見ようと背伸びをしたんだけど でもわたしは背丈が低すぎてプールが見えなかった 向こう側にガラス瓶に活けられた黄色い花があるのだけ見えて そのとき事態が猛烈にクリアになった

ちゃんと順番に話すね 次に これもハンドアウトで許可されている通り カーテンを開けて中に入ると ナイアガラの滝から落ちて救出された男の子について書いてある新聞の切れ端 それから ホームズの横顔のシルエットがくり抜かれた木切れが プールに浮いている つまりこれは とりあえず2冊は見つけることができたということかな? いや 新聞と木切れだけだから本を見つけたことにはならないのかな? とかそこで考えつつ
プールをひととおり見たあと白い階段を降り始めて 残りの一冊はわりあい簡単に見つかった わたしの写真には写ってないけど 白い階段とは別に青色の階段があって そこにイブ・クラインの柔道の本が置いてあったから

そろそろ帰ろうかなと思ったとき どうしても階段を降りて1階へ降りなければいけないことに気づき ね ここで渋い顔をせざるを得ないよね? もうじわじわ効いてたんだってわかって

ハンドアウト見てみて ボールがいくつか載ってるでしょ SURVIVED BALL FROM NIAGARA というやつ これらも2階の展示室にあるんだけど こいつらは階段を降りずにぷかぷか浮き続けていることができるっぽい そういえばナイアガラの滝の男の子も 木彫りのホームズも プールにぷかぷか浮いていたなあ やつらは駒込倉庫の2階から降りる必要がないんだよね ああ してやられたり

わたしはここから帰らねばならず 2階から降りるためには 飛び降りるか 階段を降りるか どちらにしたってもう嵌められている ヘリを呼ぶわけにもいかないし
仕方がないのでもと来た階段を降りて1階を目指す 残りの段数を数えながら降りる もうオチは 文字通り落ちは! わかっていて

1階の展示室の瓦礫をもう一度観察すると 2階の展示室からわたしと一緒に落ちてきたものであるとわかる どれもこれも 2階の部屋の物の配置とほぼ対応していて 砂糖壺 おもちゃ カーテン ハンドアウトまでぐしゃぐしゃになって だけどあのボールたちだけはちゃんと助かっていて 1階には見当たらないでしょ…… うわあ……

女の子の声が ひとたび知ってしまったら知る前の自分にもどることはできない みたいなことを相変わらず言い続けていて 確かに 否応無しに足を滑らされてしまったのだということを抜きにしてこの空間を見渡すことはとてもできなくなってしまっていて slow-actingの毒がそのときやっと効いて だから展示が SLOW ACTOR 遅行的に効く毒それ自体として名付けられているんだって合点がいった あーあ このわかりかたはすごく気持ちがいいな(だからこんなにべらべらとしゃべってしまった ごめんね)すごく気持ちのいい毒だったけど…… でもこの毒が気持ちいいというのはやっぱすごく怖いよね この怖さはあえて暴き出されたということなのかもしれないし あるいはわたしが毒の物語にことさらに没入しているだけなのかもしれないけれど……

帰るときにはちゃんと割れたガラスの花瓶の上を見上げたんだけど 出入り口付近の天窓から まだ落ちていない黄色の花と花瓶が透けて見えてて なぜか 解毒剤は失われてしまったのだ と思った…… あ そろそろ行く? 湘南新宿線って終電早いよね すみません お会計を…… あのね これはあとからググって知ったんだけど ナイアガラの滝に落ちて生き残った人ってわりとたくさんいるんだって

——池袋 2019年3月17日日曜日 22:34——


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s.kawano

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