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あの夜、私は悔しくて悔しくて悔しくて泣いた

「今度、うちの会社のクリスマスパーティーがあるんだけど来ない?」
先輩から誘われた。その会社は誰もが知る大手企業、高給取りで就活の難易度が高いところだし、さぞパーティーも煌びやかなのだろう。どんな人が来るのだろう。もしかすると、OB訪問や就活に繋がったりするのだろうか。

「行きたいです!」

そう答えてから、ハッと気づいた。
私はパーティーなんぞに着ていく服を一枚も持っていない。カジュアルな服を好むせいで、きれいめのワンピースすら持っていなかった。パーティーというくらいだから、ワンピースでさえ浮いちゃうかもしれないし。


「こういうパーティーがあるんだけど、何を着ていけば良いと思う?」
「やっぱりドレスじゃない?私のを貸すよ」

友人がいくつかドレスの写真を送ってくれた。
その中で、真っ赤なドレスが気に入った。
「クリスマスっぽくていいね!」

羽織るものがなかったので、別の友人に借りた。
準備はばっちりだった。
赤いドレスに慣れないヒール、髪型も浮かないように美容院でセットしてもらい、六本木の会場へ向かう。
私はとてもワクワクしていた。だって、生まれて初めて、おめかししてパーティーに参加するのだもの!


会場の重い扉を開けた瞬間、心臓がどくりと嫌な音を立てた。

思ってたのと 違う。

前日にLINEでここに来てねと言われた会場は、行ってみるとカラオケバーみたいなお店だった。
スーツの男性たちと、その2倍の数はいる女の子。
シャンパングラスを持つ彼女たちは、みんな普通の服に、普通の髪型だった。

「ああ、これはやってしまったな」
クリスマスらしくて可愛い赤いドレスは、悪目立ちする憎いドレスに変わった。

そこからのことは、あんまり覚えていない。
きっと輪の中に入っているような、入っていないような位置に座って、ひたすらにドリンクを飲んだ。
みんなが笑えば私も笑った。

周りを観察して気づく。
どうやらこのパーティーは、新卒一年目の社員たちが女の子を集め、先輩を楽しませるものらしい。

先輩らしき人たちは、綺麗な女の人を隣に侍らせて奥の部屋でカラオケをしている。
一年目の社員たちは、先輩の盛り上げに応えたり、ドリンクを準備したり、ひたすら周りに気を回している。
手前の部屋には、あぶれた女の子たち。
手当たり次第声をかけたせいで、人数が多くなり過ぎてしまったのだろう。

「もう、つまんないからクラブいこうよ」
そう言って抜けていった子たちもいた。

そんな空虚な空間に、精一杯めかし込んだわたし。
恥ずかしくて、穴があったら入りたいくらいだ。
できるだけ考えないように、せめてこの場を楽しもうと輪に入ろうとした。

そんな時に一人の男が私に尋ねた。

「今日は誰の紹介で来たの?」

「〇〇さんです。大学の先輩で」

「あ、じゃあ東大生なんだ」

「そうです」



「だからか、その服装気張ってるもんね」

男の隣でよく知らない女がアハハと笑った。


「恥ずかしいです。みんなどんな服で来るのかわからなくって」

笑って答えたけど、うまく笑顔を作れていたかわからない。

トイレに行くふりをして、会場を抜けた。

慣れないヒールで六本木の坂を下っていたら、ボロボロ涙が出てきた。
家は遠いけど、もうタクシーに乗ってしまえ。

タクシーの中で泣き続ける私を見て、運転手さんは失恋したとでも思っただろう。
きっとあの人は冗談のつもりで言っただろうし、大したことないはずなのに、涙が止まらなかった。

私も悪いんだ。少なからず下心もあったし。
もっと、どういう会なのか下調べしていればさ。
もっと、無難な服でも選んでいればさ。

いや、そうじゃない、悪いことしたわけでもないし、何を言われても堂々と言い返してやればよかったじゃない。

タクシーのフロントミラーに映った私は、華やかで綺麗だった。

ドヤ顔で女の肩を抱く男たちも、タダ酒に群がる女たちも糞食らえ。
もうこんな飲み会、二度と来てやるもんか。
悔しくて悔しくて悔しくて泣いた。
六本木のネオンに中指を立てた。

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