今年の年金改定について。

 2024年1月19日、厚生労働省は今年度の年金の支給額を前年度から2.7%引き上げると発表した。増額は2年連続となり、前回に続いて年金財政を安定させるため給付を抑えるマクロ経済スライドを発動し、物価上昇率より低い伸びに留まり、実質的には目減りとなった。
 公的年金の支給額は主に物価と賃金の変動に応じて毎年度改定され、現在は2004年に導入されたマクロ経済スライドという方式によって決まる。簡単なことでも、政府や官庁が扱うと、いつもごたごたして難しくなるのは国民の多くが知るところで、最初に賃金と物価の改定率や現役の被保険者の減少と平均余命の伸びに応じて算出した「スライド調整率」を計算する。
 物価と賃金がプラスの場合には賃金上昇率から「スライド調整率」を差し引くが、ここでは物価は直近1年間、賃金は過去3年度分の変動率を用いる。それで、今年の改定は23年の物価上昇率が3.2%、過去3年間の名目賃金の上昇率が3.1%で、後者から0.4%のスライド調整率を引き、2.7%を引き上げる計算となる。
 ようやく、ここまで導いたが、引き上げは2年連続で、伸び率はバブル経済の影響があった1993年度以来で最大になったという。計算からも分かるように、年金の伸びは物価上昇に追い付かず、実質的に目減りをしたが、これも景気に影響を及ぼす可能性がある。
 武見厚労相は閣議後記者会見で、支給額の目減りに関し、マクロ経済スライドは公的年金制度を将来にわたり持続可能とする仕組みで、役割をご理解いただきたいと強調した。しかし、年金受給者からはこの方式に不満の声が上がっている。 
 例えば今年の場合、物価や賃金がプラスになったことでマクロ経済スライドが発動されたが、「スライド調整率」が大きすぎて、年金支給額の伸びが物価上昇率より低くなった。そのため実際に受け取る年金額は増えても、消費力は低下する。
 マクロ経済スライドは将来的にも継続される予定だが、こんな具合では、年金支給額はどんどん減っていく可能性がある。これでは国民の消費は抑制され、高齢者は生活水準を維持するのが難しくなる。
 また現役世代と受給世代の間に負担と給付のバランスが崩れ、世代間の不平等が生じる。さらに物価や賃金の変動に応じて自動的に発動されるため、政治的な判断や議論が不要になり、国民の意思が反映されにくくなる。
 このように、マクロ経済スライドは年金財政の安定化を目指す一方で、年金受給者や現役世代の利益を損なう可能性がある。年金制度は国民の生活を支える重要な社会保障であり、その仕組みや内容は常に見直しや改善が必要である。

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