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私家版 レヴィナスブックガイド

はじめに

この記事は2016年に作成し、かつて「はてなブログ」に掲載していたものの増補改定版です。気恥ずかしい記述もあり、『レヴィナス読本』の公刊によってお役御免になったと思って非公開にしていたのですが、後輩から要望をいただいたので復活させました。
この記事が少しでもレヴィナスを読むきっかけになったり、悩める読者の手助けになることがあれば嬉しいです。

エマニュエル・レヴィナス(Emmanuel Levinas: 1906-1995)は、20世紀フランスで活躍した哲学者であり、現在のリトアニア出身のユダヤ人です。他者論やエロス論で有名ですが、フッサールやハイデガーに師事し『デカルト的省察』の翻訳や『フッサール現象学の直観理論』などによってフランスに現象学を普及させた立役者の一人でもあります。

日本のレヴィナス受容に関して言えば、合田正人先生や内田樹さんをはじめとする先達による偉大な訳業のおかげで公刊著作のほぼすべてが日本語で読むことができ、大変恵まれた環境にあります。
とはいえ、レヴィナスのテクストは「パルメニデスからハイデガー」に至るまでの西洋哲学とユダヤ思想とが複雑に交じり合う難解なものであり、特異な文体も含めリーダブルなものとは言い難いでしょう。
ちょうど友人から「レヴィナスはなにから読めばよいか?」と訊かれたこともあり、個人的におすすめのレヴィナスへの近づき方を書いてみます。

※本稿では、煩雑になるため海外の研究文献を載せるのは避けました。関心のある方は、『現代思想2012年3月臨時増刊号』(レヴィナス特集号)の末尾にある「研究・文献ガイド」をご覧ください。


入門書

レヴィナスのみならず、ある思想家を理解する最良の方法はやはり本人のテクストを読むことです。なかでもその思想家が非専門家に向けて己の主張を噛み砕いて解説してみせるものがあれば、それはきっと信頼の置ける手引きになるはずです。
 『倫理と無限』

本書は1981年に行われたラジオでのインタビューをまとめたもので、自らの哲学のエッセンスや背景について晩年の老レヴィナスがざっくばらんに語っています。
他にもレヴィナスへのインタビューを含んだ入門書としては、以下があります。
 サロモン・マルカ『レヴィナスを読む』

フランソワ・ポワリエ『暴力と聖性』

入門書と言えるかは微妙ですが、『現象学のデフォルマシオン』にも対談が載っています。
リチャード・カーニー『現象学のデフォルマシオン』

他方で、日本人著者によるレヴィナスの入門書も数多く刊行されています。ここでは以下の4冊をおすすめします。
手前味噌で恐縮ですが、一番のおすすめは『レヴィナス読本』です。レヴィナスの全国的な研究組織であるレヴィナス協会のメンバーによって編まれた概説書であり、最新の研究成果がふんだんに盛り込まれています。
「はじめに」にあるように、本書は「レヴィナスにはじめて接するひとのための定点となりうるような、良い意味での「オーソドックス」な概説書」(p. iv)を目指して作られており、この本がレヴィナスを読むときの滑走路のようなものになれば著者の一人として嬉しく思います。
レヴィナス協会編『レヴィナス読本』

他のものについても簡単にコメントしておきます。
熊野純彦先生の『レヴィナス入門』は、レヴィナスの哲学的主著を軸にした定評のあるものです。斎藤慶典先生の『レヴィナス 無起源からの思考』は、『フッサール 起源への哲学』の姉妹本という位置づけになっており、氏ならではの鮮やかな筆致によりレヴィナスの思考の特異性や鋭さが開示されていると言えます。村上靖彦先生の『レヴィナス』は、レヴィナスのユダヤ的側面や芸術論、歴史哲学など他の入門書ではあまり触れられることのなかった側面も扱っているのが特色です。さらに、ペリュション『レヴィナスを理解するために』はレヴィナスの哲学をケアの倫理や動物・環境倫理など新しい倫理学と接合させている点に特徴があります。
熊野純彦『レヴィナス入門』

斎藤慶典『レヴィナス 無起源からの思考』

村上靖彦『レヴィナス』
➝こちらについて増補版が出ました。村上靖彦『傷の哲学、レヴィナス』

コリーヌ・ペリュション『レヴィナスを理解するために』

個人的な考えですが、レヴィナスに限らず入門書との良い付き合い方は、1冊に拘泥することなく、定評のあるものを数冊ざざっと読んで大まかなイメージを作り上げることではないかと思います。

伝記

その人の生を知ると思想の背景やモチーフが見えてきます。伝記的な情報を知ったからと言ってすぐに思想内容を理解できるようになるわけではありませんが、伝記を読むことは、疎遠だった著者に近づくための有効な手段であることに間違いないでしょう。
レヴィナスの伝記には以下の2つがあります。ひとつはレヴィナスの弟子のマルカによるもので、もうひとつは伝記作家レスクレによるものです。そのうちマルカによるものは日本語に翻訳されています。多くの読者には馴染みのないであろうユダヤ教については多めに訳注が付されているなど、配慮の行き届いた訳書になっています。
サロモン・マルカ『評伝レヴィナス』

未邦訳ですが、もう1冊の伝記は以下です。

レヴィナスのテクスト

「入門書はいくつか読んでみたけれど、レヴィナス本人のテクストだと何から読めば良いの?」という質問をよく受けます。
そこで、関心や目標に合わせて3つのルートに分けてみました。ご自身の目的にあわせてルートを選んでいただければと思います。

  1. お手軽ルート:これは外せない!という主著を知りたい人向け。

  2. ガチルート:これからレヴィナスを本格的に学んでみたい人向け(卒論以上の取り組みをしたい場合など)。

  3. 現象学ルート:現象学に既に親しんでいる人やレヴィナスの現象学理解を知りたい人向け。

1. お手軽ルート

いわゆる哲学的主著を抑えるルートです。

ステップ1
レヴィナスの思想の独自性は既に1930年代に認めることができますが、それが真に発揮されるのは第二次大戦後と言ってよいでしょう。この時期の代表的な著作は以下の2つです。
『実存から実存者へ』

「時間と他なるもの」(単行本版ではなく、『レヴィナス・コレクション』に所収されているものをおすすめします)

もちろん一緒に読めると理解は深まりますが、余裕がなければどちらか1冊でも構わないと思います。その場合、レヴィナス節全開を味わいたい人は『実存から実存者へ』を、お得に色々読んでみたい人は『コレクション』をおすすめします。あるいは、両者を数頁ずつ読んでみて、なんとなく惹かれた方でも良いと思います。

ステップ2
『全体性と無限』

レヴィナス第一の主著と言われる『全体性と無限』には、上で挙げた藤岡訳、合田訳(国文社, 2006年改訂)、熊野訳(岩波文庫)の3——合田訳の初版と改訂版を分けるなら4——種類があります。いずれも達意の翻訳であり、どれを選んでも問題はありませんが、これまでの研究蓄積を踏まえつつ、原書や各国語訳の異同全てを網羅した藤岡訳が決定版と言ってよいと思います。

ステップ3
『存在の彼方へ』

第二の主著がこちら。正式なタイトルは『存在するとは別の仕方で、あるいは存在することの彼方へ』ですが、長いので略されています。研究者によっては『存在するとは別様に』と略記するひともいます。
ある意味レヴィナスの到達点とも言えますが、かなりハイコンテクストかつ文体もめちゃくちゃなので、奇書に当たると言っても過言ではありません。レヴィナスを骨の髄まで味わいたい人はぜひ。

……とここまで書いておいてなんですが、「レヴィナスを楽しむ」ことが目的であるなら、先に挙げた入門書を数冊読んだら真っ先に『全体性と無限』を時間をかけて読むのが個人的にはおすすめです。
異論もあるでしょうが、『全体性と無限』こそレヴィナスの最高傑作であり、様々な読み方、付き合い方の出来る本だと思います。
よくわからなかった飛ばしてみても問題ありません。そのうちきっとグッと来る記述に出会うはずです。あるいは時間を置いて読んでみると、以前はぼやけた呪文にしかみえなかった文章がこちらの身を切り裂くような鋭利なものに、あるいはすっと腑に落ちる身近な記述に感じることもあるでしょう。このような読み方を許容してくれる「器の大きい」テクストこそ、真に読み継がれる古典になるのだと思います。

2. ガチルート

当然ベストは原典で読むことですが、以下リンクはすべて邦訳で示します。なお、以下でレヴィナスのすべてのテクストを紹介しているわけではありませんのであしからず。

『フッサール現象学の直観理論』

1930年に公刊されたレヴィナスによる学位論文です。それなりに硬派な現象学論考なので、現象学を学んでいない場合は後回しにしても可ですが、レヴィナスを読む以上現象学からは逃げられません。幸い日本には素晴らしい現象学の入門書や研究書がたくさんありますので、それらを参照しつつ、フッサール『論理学研究』や『イデーンI』、ハイデガー『存在と時間』なども並行して読んでいくことが望ましいと思います。

ちなみに現象学の入門書としては以下をおすすめしておきます。
◯現象学全般
植村玄輝・八重樫徹・吉川孝編『現代現象学』

 ステファン・コイファー 、アントニー・チェメロ『現象学入門』

◯フッサールについて
富山豊『フッサール』

ダン・ザハヴィ『フッサールの現象学』

田口茂『現象学という思考』

谷徹『これが現象学だ』

◯ハイデガーについて
高井ゆと里『ハイデガー』

池田喬『ハイデガー『存在と時間』を解き明かす』

秋富克哉・安部浩・古荘真敬・森一郎編『ハイデガー読本』

やや脱線しました。ガチルートの続きです。
『レヴィナス・コレクション』

合田先生による編訳書です。まずはこの中から30年代に書かれた諸論考を読んでいきましょう。「フライブルク・フッサール・現象学」、「ヒトラー主義に関する若干の考察」、「逃走論」などがそれです。
ちなみに、日本オリジナルの編訳書としては『超越・外傷・神曲』もあります。こちらはレヴィナス屋になる予定の人は中古で安く見つけたら買っておきましょう。40年代のハイデガー受容を考える上で結構重要な「時間的なもののなかの存在論」や、レヴィナスにおけるユダヤ性の問題を考察する際には見落とせない「ユダヤ的存在」をはじめ、「同盟の宗教的霊感」、「反ユダヤ主義の霊的本質」、さらに『全体性と無限』の形成を探る上で示唆に富む「哲学と無限の観念」の訳はこちらにしか入っていませんし、訳注も大変勉強になります。

そのあとは、大戦後のレヴィナスの著作に挑んでいきましょう。代表作は『実存から実存者へ』と「時間と他なるもの」です。

1947年に出版されたこの著作は、レヴィナス独自の哲学がまとまった形で産声をあげたものと言ってよく、大変魅力的ではあるのですが、かなり荒削りで構成もよく練られたものとは言い難い代物です。そこで本書と並行して、ないしその後で『レヴィナス・コレクション』所収の「時間と他なるもの」を読むことをおすすめします。「時間と他なるもの」は同時期の講義が元になっているので主張内容の重複も多いですし、テーマごとに区切られているので幾分読みやすいはずです。
また、この時期のテクストとしては、これまた『コレクション』に入っている「現実とその影」(1948)——サルトル主催のレ・タン・モデルヌ誌に載せられたものです——は、彼の芸術論と言っても良いものですが、のちの歴史論ともつながりもある重要なものです。

その後レヴィナスの思想は円熟期を迎えることになります。
余裕があれば、『レヴィナス・コレクション』第II部の論考を読んでおくとなお良いと思います。とりわけ「存在論は根源的か」(1952)はレヴィナスによるハイデガーからの離脱を決定づける重要なテクストです。
また、現象学に関心がある人は『実存の発見』に収められている論文を読むとレヴィナスがどのように現象学を受容したかがよくわかります。特に1959年に相次いで発表されたフッサール論は、『全体性と無限』における現象学解釈の基盤になっています。

さて、いよいよ主著に挑んでいきましょう。

『全体性と無限』と『存在の彼方へ』のあいだには多くの変更点や深化が認められます。両者のちがいを理解するためには、その間に書かれたテクストを追跡することが求められます。とりわけ重要なものとしては『実存の発見』第二版に所収された「他者の痕跡」と「謎と現象」、そして『他者のユマニスム』になるでしょう。

レヴィナスとデリダの影響関係をどう考えるかは複雑なテーマですが、デリダ「暴力と形而上学」(『エクリチュールと差異』所収)の影響は計り知れません。

その他の後期テクストとしては以下のものを読み進めていくことになります。
『神・死・時間』

1975-6年に行われたソルボンヌ大学教授としての最後の講義録です。ブロッホやカント、ヘーゲルへの注目など論点が盛り沢山です。
『観念に到来する神について』

時折、この『観念に到来する神について』が第三の主著と言われることもあります。
その他の重要なテクストは『われわれのあいだで』『歴史の不測』などの論文集に収められているので、関心に応じてちまちま読んでいくと良いでしょう。

加えて、一連のモノグラフは読み物としてもおもしろいのですし、興味のある哲学者や文学者がいれば読んでみると良いかと。
『固有名』

『外の主体』

『モーリス・ブランショ』

最後に、草稿類も紹介しておきます。
『レヴィナス著作集 1-3』

ただし、いずれも目を通すのは本格的に研究する段になってからでよいと思います。まずは公刊著作、それも主著の攻略を優先すべきです。
強いて言えば、第2巻はヴァール主催の哲学コレージュでの講演原稿なので、第二次大戦以降レヴィナスの哲学がいかなる変遷を経て『全体性と無限』へと結実していくのかを詳しく知りたい人は読んでもいいかもしれません。

以上、レヴィナスの哲学的著作に絞って案内してきましたが、忘れてはいけないのが一連のユダヤに関係するテクストです。ただ、レヴィナスの思想のなかにどの程度ユダヤ性を読み込むかにかんしては研究者によっても異なります。また、レヴィナスが哲学的著作とユダヤ的著作とを意識的に分けて異なる出版社から出していることもしばしば指摘されるので、過度に彼の哲学内容をユダヤ性に回収するような解釈は控えた方が良いでしょう。とはいえ、逆にレヴィナスからユダヤ性を完全に脱色させてしまうのもまた無謀なことのように思われます。

レヴィナスによるユダヤ的な著作は、大きく2種類に分けることができるでしょう。ひとつはユダヤ教にまつわる様々なトピックについて広く書かれたものであり、もうひとつがタルムード講話です。それぞれの代表的な仕事を挙げると、前者は『困難な自由』、後者は『タルムード四講話』『タルムード新五講話』になるでしょう。

私はあくまで哲学畑の人間でして、特にタルムード関連についてはほぼ素人です。しかしながら、レヴィナスを論じるにあたって、ユダヤ教思想の勉強は不可欠と言えます。専門家ではないものの、少なくとも「これを読むだけでだいぶ景色が変わるぞ!」という本に絞っていくつか挙げておきます。
◯ユダヤ教について
市川裕『 ユダヤ人とユダヤ教』

ユダヤ教研究の碩学による入門書。歴史・信仰・学問・社会という4つの視点からバランスよく、ユダヤの歴史や営みを知ることができる。巻末の文献案内も充実しているので、まずはこの1冊からということになるだろう。
◯聖書・タルムード関連
阿刀田高『旧約聖書を知っていますか』

アカデミックな本ではないが、一番やさしく読みやすいもの。本書に出てくる「アイヤー、ヨッ」は意外と便利です。これを機に啓示宗教を概観したくなったら、同シリーズの『新約聖書を知っていますか』と『コーランを知っていますか』をあわせて読むのもよし。
フィリップ・セリエ『聖書入門』

旧約(ヘブライ語聖書)と新訳の両方の解説をしてくれるお得な入門書。聖書に由来する芸術作品への目配せもあり、聖書のもつ広がりも理解できるつくりになっている。
A. コーヘン『タルムード入門 1-3』

モリス・アドラー『タルムードの世界』

前者は全3巻。後者のアドラーによるものの方が、より広い文脈でタルムードが説明されているので読みやすいかもしれない。ただ、あれこれつまみ食いするよりは、ユダヤ教の入門書をある程度読み終えた段階で市川裕先生の著書にかじりつく方が結局は近道なのかもしれない。
市川裕『ユダヤ教の精神構造』

市川裕『ユダヤ的叡智の系譜』

特に2冊目はレヴィナスのタルムード読解についてかなり頁を割いている点でも貴重。
◯ユダヤ思想・哲学
この分野はレヴィナスも大いに関係するので、挙げようと思えばいくらでもあるのですが、基本書と言えるものだけにとどめます。
合田正人『入門ユダヤ思想』

佐藤貴史『ドイツ・ユダヤ思想の光芒』

ユリウス・グットマン『ユダヤ哲学』

ヒラリー・パトナム『導きとしてのユダヤ哲学』

ピエール・ブーレッツ『20世紀ユダヤ思想家 1-3』

ローゼンツヴァイクやショーレム、ブーバー、ブロッホあたりはレヴィナスとの関連も深いですし、地味なところでは『ユダヤ思想 2(岩波講座・東洋思想)』の井筒俊彦「中世ユダヤ哲学史」がすごいとか色々ありますが、その当たりは上記を読んでいくなかで各々の関心と必要性によって判断すればよいでしょう。

3. 現象学ルート

最後に現象学ルートです。既に述べた2つのルートとも重複が多いため、著作のタイトルに直接リンクのみ貼りつけています。
現象学に関心がある人ないし既に学んでいる人が、レヴィナスの現象学理解を知るには何をどのような順番で読めばいいのかを最短ルートで紹介していきます。レヴィナスのテクストの至るところにフッサールやハイデガーへの目配せがあるので、あくまで代表的なものだけです。

  1. まずは『フッサール現象学の直観理論』でしょう。
    フッサールの核心をある仕方で抉り出しているものと今なお評価が高いものですが、その理解には既にハイデガーの思想からの影響が入り込んでいると指摘されることもあります。

  2. その後は『実存の発見』第一部の論考や「フライブルク・フッサール・現象学」(『コレクション』)へ進みます。
    レヴィナスがフッサールとハイデガーに出会い、いかに彼らの哲学を吸収していったかを知ることが出来ます。

  3. ハイデガーとの関係に関心がある場合は、「存在論は根源的か」(『コレクション』、『われわれのあいだで』)や「時間的なもののなかの存在論」(『超越・外傷・神曲』)にあたるとよいと思います。余裕があれば、「自我と全体性」(『コレクション』、『われわれのあいだで』)も。

  4. 再び『実存の発見』に戻り、第二部の論文を読んでいきましょう。1959年の諸論文は『全体性と無限』の理解に、1965年の「志向性と感覚」は『存在の彼方へ』に代表される後期テクストの理解にとって必読と言えます。
    ※3でハイデガーから、4でフッサールから、レヴィナスがいかに影響を受け、その上でどの点をめぐって離反していったかを探る手掛かりを得ることができるはずです。

  5. 全体性と無限』へ。
    現象学を独自に受容したレヴィナスがどのように自身の哲学を展開したのか考えるためにはやはり主著は外せません。

おすすめの研究書

個人的な感覚ですが、英仏語圏でのレヴィナス研究は2000年以降飛躍的に発展したように思います。また日本のレヴィナス研究もそれに負けないくらいハイレベルであり、貴重な研究書が数多く出版されています。
以下、一部ではありますが、日本語で読めるおすすめの研究書を挙げておきます。ちなみに日本語で読めるレヴィナスに関係する書籍の情報はすべての『レヴィナス読本』の巻末にまとめてあるので、気になる方はそちらを。

まず第一に合田先生によるお仕事が挙げられるべきでしょう。
1988年に出版された『レヴィナスの思想』は本邦初の本格的なレヴィナス研究書であり、今なおその覇気迫る文体と怒涛の情報量には圧倒されます。

ただし、『レヴィナスの思想』は改訂したものが文庫になっているので、これから買うなら『レヴィナス』の方でよいと思います。

近年のレヴィナス研究の潮流やトレンドを知るのに役立つのは、『現代思想』2012年3月臨時増刊号と2011年に明治大学で『全体性と無限』公刊50周年を記念した行われたシンポジウムの論文集『顔とその彼方』、2019年に日本で開催された国際シンポジウムの記録である『個と普遍』の3冊です。

国内の研究者による単著には世界でもトップクラスの質を誇るものが多数あります。レヴィナスの思想をある程度網羅的に扱っているものを中心に挙げると、

などは今やレヴィナスを語る上でまず読んでおかなくてはならないものになっています。

個別テーマに特化したものとしては、

なども重要です。

他にもレヴィナスに関する優れた研究書は多くあります。
例えば、入門書を読んだ際に斎藤先生のものがピンときた方は『力と他者』や『思考の臨界』に進まれるとよいでしょうし、熊野先生のものをもっと読みたい場合は『レヴィナス』や『差異と隔たり』を手にとってみるのはいかがでしょうか。また、佐藤義之先生の『レヴィナス』や『物語とレヴィナスの「顔」』は倫理学に関心のある方におすすめです。
あるいは、レヴィナスと他の哲学者や文学者との関係を扱ったものとしては例えば次のようなものがあります。
◯他の哲学者との関係

◯文学者との関係

海外の研究文献の翻訳も盛んです。
ディディエ・フランク『現象学を超えて』は基礎文献と言って良いでしょうし、『他者のための一者』はレヴィナスの『存在の彼方へ』を読む上では必ず踏まえられるべきものです。

『存在の彼方へ』の副読本としてはリクール『別様に』も日本語で読むことが出来ます。

フランスのレヴィナス研究を牽引してきたセバー先生やベンスーサン先生、ペルション先生の著作も外せません。

最後に1冊だけ例外として英語文献を挙げておきます。

高価ですので大学図書館などを利用しましょう。レヴィナスに関する英語のぶ厚いイントロダクションやコンパニオンはいくつか存在しますが、本書が最新かつ網羅的です。最初から全部読もうとせず、目次を見て興味のある章からつまみ食いしていきましょう。やや癖のある章もありますが、英語圏の文献情報を芋づる式に仕入れたりできます。卒論を多少頑張りたい人なんかはチャレンジしてはどうでしょうか。

レヴィナスの読者や批判者たち

さらに進んでレヴィナスを研究していく上では、レヴィナスが読んだテクストやレヴィナスの読者や批判者にも通じておく必要があります。前者にきりはないのですが、現象学以外だとプラトン、デカルト、ヘーゲルあたりが最優先になるでしょうか。最後に後者について日本語で読めるものをいくつか挙げておきます。


第二版作成:2023/08/19
一部改訂:2023/10/20
一部改定:2024/01/01

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