服は僕をいろんなところに連れて行ってくれた。


服ってたのしい!とはじめて自覚したのは、忘れもしない高校1年生のときである。それまでは「なにやらこだわりの強いこども」として、(長袖じゃないといやだ・変な柄が入ったやつはやだ・シャツはズボンにいれたくない、とか。)親や先生にいやな顔をされていた迷惑な少年だったと、われながら思う。

高校に入って、サッカー部でいっしょだったなかに、とんでもなくおしゃれな奴がいた。リーバイスのデニムをはいて、軍モノの古着を重ね着なんかしていて。ポジションがいっしょだったから、試合ではよくコンビを組んでいて、実際に息もよくあっていた。


僕が通っていた高校には、入学した次の月くらいに1泊2日でどこかに旅行...「生徒どうしの親交を深めましょう」という目的のイベントがある。そして、いつも学生服を着ていた僕たちにとって、それが意味することは「学年全員の私服がはじめてお披露目される場」だったのだ。

その一大イベントにむけて、僕はすっかり仲良くなったおしゃれな友人と町に買い物に行くことにした。彼が連れて行ってくれたのは、よくわからないお香の匂いがする、うす暗い古着屋だった。

緊張しながらお店に入ると、ところせましと服が並ぶなかで、一番奥にコーディネートされたマネキンがたっていた。アイボリーのサーマルTシャツに・くすんだ緑のシャツ・チャコールグレーのコットンパンツ。それが目に入ったときにはもう、「あの、これ、ぜんぶ買います。」と店員さんに伝えていた。それは別世界で見つけた・別世界のどこかにある格好いい人たちがする格好そのものに見えた。そして、多めに持ってきていたはずのお金は、店を出る頃にはすっかりなくなっていた。


それから、その服は僕をいろんなところに連れて行ってくれた。自分に自信がつくと、いろんなところに足を運びたくなるものだ。はじめてちゃんと付き合った他校の彼女ができたのも、その頃だったかもしれない。

そして、いつもその格好をしていた僕は、あたらしく「それに合う服」が欲しくなった。今度は一人で町にでかけることにした。それをくり返して、いつの間にか僕は服屋になっていました。


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