見出し画像

私たちの惑星(ほし)ー(1)

私は人が嫌いだ。
みんなで群れていないと気が済まなくて
SNSで承認欲求満たしたくて
そんなの何が楽しいの

私はそういう奴らを見るのが嫌い
一人で生きるのが一番息がしやすくて楽だ。
私は人が嫌いだ。

でも感じてしまう。見てしまう。焦がれてしまう。
画面の中楽しそうに写真に写るあの子を
帰り道に笑いながら歩く君を
そうやって目で追う私が一番気持ち悪い。
私は私が嫌いだ。
人が嫌いなのに人が好きな自分が

そんな私には一つだけ惑星がある。
私たちだけの大事な大事な小さな惑星
私はこれだけあれば生きていける。
写真を撮れる友達も、帰り道一緒に帰れる友達も
誰一人いなくても、この惑星(ほし)があれば
もう何もいらない。

.
高校2年の春、一つの出会いがあった
「petite planète」フランス語で小さな惑星
という名の趣味を通じて友達と交流するアプリだった。
私には特に趣味はなかった。
しかし、そのアプリに引き込まれるように私はプロフィールを書き込んだ。
「オガワ サナエ」「誕生日:6月13日」「O型」「趣味:小説「彼方の星」」
ここまで書き込んだ後にハッとした。
こんなことして、何がしたいんだろう。
私はサイトを閉じて眠った。

「「ピコン」」

聞きなれない音にバスの中で飛び上がった。
普段はほとんどならない、スマホの通知音が耳に響く。
「サヨ:私も「彼方の星」好きです!友達になりませんか?」

通知を開くと、昨日のアプリだった。
「メッセージ本当にきた」
思いもよらないことに少し動揺した。
「ぜひ」
人と会話をすること自体が久々で、少し手に汗が滲んだ。
「サヨ:サナエちゃんって呼んでもいい?私はサヨって呼んで!
    友達になれて嬉しい!よろしくね^^」

嬉しい…
私と友達になれて…?

「私も」

その日は暖かくて、くすぐったい風が吹く春の日で
帰り道の下り坂を初めて走って降りた日。
久しぶりに空を見上げて笑顔になった日。

私に友達ができた日。

.
その日から、私とサヨはお互い疲れ果てて眠るまで途切れることなく話した。
お互いの顔も、身長も、どこにいて何をしているのかも知らない。
けど、そんなものはどうでもよかった。
サヨの言葉は不思議と笑顔にさせてくれたし、サヨは言葉だけでもどんな顔をしているか想像ができるくらいだった。
そして、「彼方の星」の話をした。主人公は小さな男の子二人。二人は住んでいる村から見える、小さな星はを「僕らの一等星」と名づけ、その星について、毎日お話を一つ考えて話し合う…
大まかにこんな話だ。サヨもこの小説が大好きで、サヨの提案で
「彼方の星ごっこ」をはじめるようになった。
お互い小さなお話を用意して、伝え合う。本当のことでも作り話でもいい。
小説の中同様、ルールは一つ「二人だけの秘密にする」
いつしか私はこれが毎日の楽しみになっていた。

サヨが私にする内容は、毎回面白かった。
インドで象に乗ったら、象に懐かれて象使いにならないかとスカウトされたとか
たまたま撮った写真に実はUFOが写っていて、それについて取材されたとか
意味はわからないし、嘘なのか本当なのかわからないが、なぜか笑えた。

私は今まで読んだ小説の続きを自分なりに書いてみせた。
私はつまらなかったが、サヨはそれを褒めてくれた。
いつも面白いとか、このシーンはどうなるのとか、
それに嬉しくなって、私も自然と話し込むようになった。
それ以降は、サヨに話の続きを書いてみせるために
私は小説を読むようになった。

私の頭の中はサヨのことでいっぱいになった。

サヨと連絡を取り続けて、一年が経った。
サヨと私は親友になっていた。
悩みも愚痴も、嬉しいことも。何でも一番にサヨに話した。
それはサヨも同じのようだった。
私はサヨが大好きだった。サヨも同じように話した。幸せだった。

ある日、何気なくアプリの掲示板を見た。
そこにはサヨがいた。
「サヨ:音楽の友で今度会おう!来る人は👍して^^」
そこには、私の知らない世界が広がっていた。
いろんな人がサヨの名前を呼んで話している。
音楽が好きなんて知らなかった。サヨがこんな話し方なのも、
私の他にたくさんの友達がいることも、私は知らなかった。
私の中に絶望と怒りと孤独が押し寄せ、それは涙に変わった。
その日初めて、サヨからの返信を無視した。

サヨがくれたカラフルな世界は、モノクロのいつもの世界に戻った。
サヨは、今頃たくさんの友達と楽しく話しているのだろうか。
そう思うと、悲しくなって、妬ましくなって、心が押し潰された。
私は、サヨさえいればそれでよかったし、それ以外は何も要らなかった。
なのになのになのに。サヨは違った。なんでなんでなんでなんでなんで。
私を選んで欲しい。私以外の人と楽しくしないで。笑わないで。
私と同じ気持ちでいて欲しい。遠くにいかないで、置いていかないで。
私は楽しくて舞い上がった、あの下り坂を泣いて歩いた。

その後に残ったのは、愛と緩やかな怒りだった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?