文言噺『嗚呼憐れなり、幻映画たち。』

この世には「ビデオスルー作品」というものが存在する。
その名の通り、ビデオにスルー…つまり劇場公開されることなくDVDやレンタルショップに並んでしまう。劇場で公開されることがないから規模の大きな広告は打たれないし、テレビなどで取り上げられる事も滅多にない。中には「こんなに面白い映画が劇場公開されなかったなんて…」と軽くショックを受ける作品だって存在する。それほどに惜しい作品たちなのだ。
制作国ではウケたがこの国ではあまり収益が見込めないもの、単純に上映できない内容だったもの、買い手が見つからなかったもの、単純に駄作…と実に様々な理由からビデオスルーと相成ったどれも愛おしい作品たち…しかしながら、彼らはまだ「この世に形として残った」だけまだ恵まれている方だといえるだろう。これから紹介する奴らからすれば…

幻映画…「マボロシ」ではなく「ゲンエイ」のほうの幻と映画をくっつけた造語(考案者:私)というものが存在する。
「劇場公開されずにDVDとなった」作品をビデオスルーとするならば、こちらは「劇場公開はされたが、その後DVD化されることはなかった」作品である。それに加えて「Wikipediaの記事も無く」「映画のサイトや口コミすら見つからない」のであたかも幻を観ていたかのような感覚に陥る作品たちのことを私はこう呼んでいる。
今回はその中から特に気に入っている3本を選りすぐり、皆様に紹介したいと思う。いつか彼らが、DVDになる日を願って…

まずは一本目、『ドラゴン・インストーム!!』(原題:Dragon inSTORM)
体格はいいもののいまいち試合に見ごたえの無い落ち目のプロレスラー、ストームがある日中古屋で買った格闘ゲーム「マキシマム・ファイティング」で遊んでいると突如身体に電撃が走る。次の日、いつものように稽古に臨むとなにやら様子がおかしい…普段の彼とは比べ物にならない技のキレにいままで見たこともないような技を繰り出すストーム。どうやら彼の身体にゲームのキャラクター「ドラゴン」が乗り移り、その影響で彼の動き・テクニック・得意技が出来るようになったらしい。華麗な試合を繰り広げ、人気スターへの道を駆け上がるストーム。しかし、そこに時を同じくしてレスラーの身体に乗り移った7人のキャラクターたちが各地で頭角を現す。偶然にもゲーム名と同じ大会「マキシマム・ファイティング1995」に集まった8人の超人たち、果たしてストームはこの大会に優勝することができるのか…!?
(パンフレットより抜粋)
内容は実にイロモノだが、この映画の一番の見どころは実在するプロレスラーを起用したところだ。演技にやや粗はあるものの、戦闘シーンの白熱具合は今公開したとしても見劣りしない…いや、今でも他の映画を凌駕する出来だろうと言える。(思い出補正が入ってるだろうが、それくらいスゴかった。)
飛び散る汗…宙を舞う筋肉…「これ映画じゃなくてただの観戦なのでは?…まぁいいか!!」と納得してしまう迫力…各試合ごとに見どころが満載なのだがその中でも最後のストーム対キングの師弟対決が熱いのなんの…しかも最後のホールドに異変前の決め技だったあの技を使うとは…クーッ!!たまらん!!
…おっと、昔の作品とはいえ少々しゃべりすぎましたね、申し訳ない。
とりあえずこんなところで、次の作品に行きましょう。

お次は二本目、『大江戸大戦争~新たなる夜明け~』
時は江戸時代、将軍の威を借り悪政の限りを尽くす帝国屋総元締め 米田十二蔵という極悪人がおったそうな。米田が己の私腹をより一層肥やすために秘密裏に製作している「泥洲須田」なる兵器の情報を盗み聞いた町人集団は悪事を食い止めるため力を合わせ動きだした。一方その頃、町はずれに住むからくりいじりが大好きな飛車八の元へ二体の壊れたからくり人形が転がり込む。意気揚々と飛車八がからくりを直していると、そのうちの一体から手紙がポトリと落ちる。その手紙は米田の女中として働かされている町のアイドル 麗からの助けを求めるものであった。手紙を読んでいても立ってもいられなくなった飛車八は二体のからくりをつれ、町人集団と共に帝国屋へ乗り込んでいくのだった…
(パンフレット内いんとろだくしょんより抜粋)
早い話がスターウォーズのパクリ。いや、パロディといったほうが正しいのか。ただ単純な丸写しではなく、多少コメディーかつお江戸ちっくに改変され、そういうネタとしては大変楽しめた作品だった。後半の真剣対角材の殴り合いなんかは腹を抱えて笑うこと間違いなし。すっげぇわちゃわちゃしてるんだもんアレ。腹筋で切腹するかと思った。
まぁ…DVD化されない点とサイトやWikipediaがない理由は薄々お気づきかもしれないが…つまりはそういうことである。ミニシアターでも許されなかった。いや、許されるはずがなかった。残念だが当然である。
本当ならもっと書きたいところなのだが…あんまり書くとこの記事もしょっ引かれかねないので最後の作品に移る。

最後の三本目、『モリブロクデン3 濃・縮・還・元』
あの悪魔の飲み物が帰ってきた!!二作目『モリブロクデン2 ~増量~』から約2年…満を持して日本上陸!!マーティたちに破壊されたハズのあの工場がな・な・な・なんと大復活!!恨みと怨念でギュギュッと濃くなったドリンクを皆さまにオ・ト・ド・ケ♡気になるあの子や友達と一緒にLet'sパラ”DIE”ス!!
(劇場配布用チラシより抜粋)
概要からなんとな~く察せたアナタは超優秀、そう!!コメディホラーです。エナジードリンクとして売られている「モリブロクデン」、その正体は地獄の怨霊から抽出された有害なんてもんじゃない超トンデモな代物で一口飲めば幻聴幻覚のオンパレード。その上理性のタガまで外れちゃうから街は一帯大騒ぎ(マイルドな表現)だからさぁ大変。運よく飲まなかった主人公は無事生き残ることが出来るのか…?というのが主な流れ。
実はコレ、この作品の前作、前々作を観ることなく友人に(半ば無理やり)連れられて観賞したものなのだが、ホラー嫌いの私にしては中々に楽しむことのできた作品だった。一切コミュニケーションのとれないまま襲い掛かってくる近隣住人も怖いが時たま入る「その住人が見ている景色と聴覚情報」がまぁ~狂気でゾクゾクする。虫やスライム的ななにかならまだしも(それでも十二分にキツイのだが)現実と全く同じ光景を見ているのに襲ってくる奴の時は震えが止まらなかった。他が「自分に対して襲ってきた(ように思ったから)攻撃してくる」のに対しソイツの「普段と変わらない認識なのに攻撃する」ことに「創られた恐怖で表現してはいけないなにか」を感じたのを今でも強く覚えている。
この狂気故か、続編であるのにも関わらずDVD化されていない。実に残念だ…いや、むしろ世に出さない方がいいのか?わからなくなってきた…

と、三本ほど紹介させていてだいたがいかがだっただろうか。
このようにこの世にはまだまだ多くの映画が存在している。
一般的に広く知れ渡っている映画も面白いが、たまには小さな映画館にふらりと立ち寄ってこういった作品を鑑賞するのもいいのではないだろうか。
彼らが存在した証を、パンフなり記憶なりに遺してほしい。
そしていつかは…DVDになることを切に願う。