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珊瑚のナイフ【タキさん宛て/オーダーメイド小説#02】

 ハンターになりたいと思った覚えはない。
 なりたかったのは強い女だ。体力、精神力、コミュ力、経済力、女子力。およそ「力」と名のつくもの、どれかひとつでも備わっていたなら、私の人生はもう少しパッとしていただろう。
 鬱蒼と茂ったジャングルの片隅、群生するシダ植物のなかに膝を抱え、私はナイフをもう一振りする。ラメの紙吹雪のようなグロッシーな光が、湿った地面にきらきらと舞った。
 ナイフの軌跡は尾を引く流星さながらに、色とりどりの残映を生む。花火に似たネオンカラーの光の飛沫を振りまくこともあれば、プリズムのように光を七色に切り分け、迷彩模様のジャングルに虹をかけることもある。ナイフを振るごとに表れる幻影の、余情を味わうのが好きだった。
「ブンガク」というジャングルに、十代にもならない頃から私は住んでいる。ここで暮らす人々は「ハンター」と呼ばれていた。
 ハンターがいるからには当然、彼らの目当てのもの――「ゲーム(獲物)」も存在する。この狩場でハンターが狙うのは「プライズ」と「リザルト」の二種類のゲーム。「プライズ」にカタカナの通り名、「リザルト」にアルファベットの通称がついている。プライズなら、例えば「アクタガワ」。例えば「ナオキ」。リザルトなら、「OT(大手出版社からの単行本刊行)」や「BR(文芸雑誌での連載)」といった具合に。
 古くから「ブンガク」に住むハンターの間では、まずはプライズを狙うべきというのが定石だ。プライズは出現時期や場所が予測しやすく、往々にして知名度が高い。仕留めたプライズを街へ持っていけば、功績はメダルとして手元に残る(そうなると、呼び名も「ハンター」から「プライズホルダー」へと格上げになる)。メダルの素材は真鍮やロジウムなどの安物から、プラチナやゴールドの貴金属までさまざまだが、その輝きがリザルトを引き寄せるのだ(メダルの輝きが強ければ強いほど、希少価値の高いリザルトが集まってくるらしい)。リザルトは高値で売れるうえ、より輝きの強いメダルをもらうことができる。輝きを増したメダル目がけて、さらなるリザルトがやってくる好循環を生むというわけだ。
 基本的にプライズとエンカウントするかは運次第だが、ほとんどのリザルトには正の走光性があり、メダル持ちの前にしか姿を現さない。このジャングルで勝者になりたければ、最初はプライズに的を絞るのが近道とされていた。
 中でも新参者が狙うプライズは、多くの場合「アクタガワ」。年二回必ず決まった場所に出現し、仕留めればゴールドのメダルがもらえる大物だというのに、反射光を嫌い、既にメダルを持ったプライズホルダーの前には出現しないのだ。そのため、新進気鋭のハンターたちの切望の的となっている。事実、このプライズを足がかりとしてのし上がるハンターも多かった。
 私はこれまでに二回、「アクタガワ」の捕獲現場を目撃したことがある。一度目は私と同い年くらいの女の子がふたり、それぞれ一頭ずつ「アクタガワ」を狩っていった。ひとりは髪を金色に染め、オフショルダーのカットソーにダブルフリルの黒いミニスカートというファッション。もうひとりはまっすぐな黒髪に白のカーディガンとミモレ丈スカートを履いていた。系統は対照的だけれど、どちらもきれいな女の子だった。ふたりが何食わぬ顔で持ち上げたのは、ラインストーンでデコられたダイヤモンド製のチェーンソー。描く軌跡はめらめらと揺らぐ焔で、今にも火傷しそうなオレンジ色の光だった。ライバルでありながら微妙に連携を取り合い、崖っぷちに追いつめた「アクタガワ」の角を削り落として爪を削いだら、あとはスマキにするだけ。ごりごりごり、くるくるくる。腕前は見事なものだった。
 二度目の目撃はわりと最近で、こちらは老婦人のハンター。控えめでおとなしそうな彼女が構えていたのは風変わりなナイフ、というよりもはや薙刀で、物陰から飛び出してきたところをひと突きだった。あっぱれとしか言えない手腕。彼女の刀は、涼やかな水色のラインを中空に引いていた。
 弱肉強食のジャングル「ブンガク」において、ナイフを持たないハンターはハンターではない。ナイフこそが通行手形であり、商売道具だ。形状や大きさはハンターの個性を反映しており、ナイフを見ればハンターとしての力量も推し量れるとされている。
 かく言う私も一応、ナイフを持っている。いつ手に入れたのかは記憶にない。物心ついた頃から、ポケットに忍ばせていたように思う。だから謎が多い。例えば材質。どこで手に入れたかも覚えていないから、金属なのか岩石なのかすら見当がつかないのだ。質感としては珊瑚に似ている。といってもアクセサリーについているピンク色の滑らかなものではなく、星の砂のような白くて乾いたやつ。小さくて丸く、鋭さや重さはない。ただとても硬くて、刃こぼれしたり折れたりしたことはなかった。
 ゲームは決して、ハンターに富や名声をもたらすだけの人畜無害な存在ではない。大きな牙や角、硬い表皮、肉体はおろか精神をも蝕む猛毒を備えた爪で、ハンターを返り討ちにすることなど日常茶飯事。大きな剣が根元から折れたり、鋭い刃が腐食したりということも、珍しいことではないのだ。己の刃を失ってジャングルを去る者も後を断たない。
 あるいはナイフを持ったまま、生存競争に敗れてジャングルを去った人々は、都会で「ライター」とか「エディター」という仕事に就いている。代謝のように、日々あちこちで見つかっては運ばれてくる「ニュース」や「情報」を研いで成形する仕事。私もかつて何度かジャングルを出、それらの仕事に従事してみたが、結局戻ってきてしまった。色も温度も、従って味気もない固い塊を延々と研ぐのは、思っていたより消耗する作業だった(単に私の適応力不足なのだろうけれど)。
 かと思えば、のんびりとジャングルの安全な区域を散策する「ハイカー」もいる。これはそのへんに生っている「自己実現」や「余暇の愉しみ」を収穫しに来る人々だ。競争率の高い、また捕獲の難しいプライズやリザルトとは違って誰にでもすぐに手に入る。ハイカーの持つナイフの輝きはギラギラしたものではないし、そもそも形状からして剪定ばさみや草刈り鎌のようなものが多い。
 気が向いた時にジャングルを訪れ、適度なマナーと熱量を持って楽しむハイカーを尻目に、背水の陣を敷いた無名のハンターたちは奔走する。「アクタガワ」と並んで有名なプライズ「ナオキ」なんかは、リザルトホルダーが狙うことが多いので、お目にかかったことすらない。最近人気が上昇しているのは「ホンヤタイショウ」というプライズだ。なかには幻のプライズ「ノーベル」を求めて、日々ジャングルを彷徨するハンターもいる。その末席を、私は汚していた。
 この数年で、狩りの在り方も多様化している。プライズは依然根強い人気があるが、その権威は絶対的なものではなくなっていた。セオリー通り、手始めにプライズ、ではなく、いきなり副次的な獲物であるリザルトを狙うハンターも増えている。それというのも「WS(web掲載からの書籍化)」や「DS(電子書籍出版)」といった新種のリザルト――メダルなしのハンターでも狙える――が出現し始めたからだ。
 おかげで新聞では毎日、前途多望なリザルトホルダーが入れ代わり立ち代わり紹介され、目まぐるしいことこの上ない。歴の長いプライズホルダーからすれば「こんなものはナイフと呼べない」と思うナイフで、一躍時の人になったハンターもいる。どんなナイフだろうと、型破りだろうと、ジャングルは仕留めた者勝ちだ。
 その意味では、誰にでもチャンスは転がっていると言える。風変わりなナイフを携行する私とて例外ではない、はずだ。
 とはいえ私は、競う、というのがからきし苦手だった。
 ゲームを追いかけた先には、プライズホルダーとなったハンターの誇りかな顔と、負傷し、あるいは落胆して肩を落とす何人ものハンターの姿がある。それを見るのがいやなのだ(そもそも、ゲームに追いつけるところまでいかないのが実情なのだが)。
 時代の変化や、狩りの在り方以前の問題だ。私がこのなまくらのナイフに求めているのは、誰かとしのぎを削り、プライズやリザルトを勝ち取ることなのだろうか。
 ため息を押し殺し、ポケットから口紅を取り出してひねる。街で手に入れてきたラヴェーラのリップスティック。色番は14、一番赤味の強いワイルドチェリーだ。ランコムやジルスチュアートのリップならもっと発色がいいのだが、それだと唇が荒れてしまう。「肌力」すらも持ち合わせがない私。鏡に向かい、唇に真っ赤なラインを引いた。私の欲しいものを凝縮した、つややかでビビッドな赤。
 強い女になるための、私のグッドラックチャームだ。

 そんな私にある日、プライズゲットのチャンスが舞い込んだ。
 偶然、ハンターに追われているプライズが目の前を横切ったのだ。反射的にその体の模様を読み取る。
「noteSSFグランプリ」
 今まで見かけたことがない。たぶん突発的にできたプライズだ。脅威となりそうな角や爪はないし、そんなに大きくはない。もらえるメダルはそこまでのグレードではないだろう。それでも私からすれば立派なゲームだ。既に走っているのは数十人。ナイフを握りしめ、私はそこに加わった。
 このままではいけない。私だっていい加減メダルの一つでも手に入れて、強い女にならなくては。単にナイフを振るうだけでは、このジャングルでは生きていけないのだから。
 行く先を先読みして回り込み、張っていると、運よくプライズが目の前にやってきた。夢中でナイフを振り下ろす。切っ先はかすめるだけだったが、与し易しとみられたのか、プライズは方向を変えず突っ込んできた。
 いけるかも、と思った時、私の斜向かいから、プライズめがけてナイフを突き上げるハンターがいた。
 男の人だった。背が高く、飄々とした顔つきをしている。手にしたサバイバルナイフに飾りはない。シンプルを通り越して武骨なセラミック。一瞬だけ視線がぶつかる。まっすぐな瞳に怯んだが、退いたら万年ハンターのままだ。それでは何も変わらない。とても強くなんかなれない。
 この人と戦って勝って、プライズホルダーにならなくては。
 プライズの動きは不規則で、思っていたより数段素早い。二本のナイフは幾度も空を切る。男の人がナイフを振るうたび、緑の軌跡がくっきりと灼きついた。ジャングル中の若葉を集め、煮出して濃縮したような純度の高い緑。力強く繰り出されるナイフは枝を揺らし、髪を巻き上げる旋風さえ起こす。透明なキャンバスに描きつけられた弧はやがて霧のように細かな粒子となり、木漏れ日にひかめいた。そのさまはまるで、こまかく砕いて磨き上げた緑玉か翡翠を振りまくよう。ともすればその鮮やかさに目を奪われ、手を止めてしまいそうになる。
 対して私のナイフは淡いピンクの、牡丹雪のようなほよほよした幻影を散らせるだけだ。なんとも締まらない。
 焦りを感じて踏み込んだとき、ナイフを避けたプライズが私の腕に噛みついた。手首に牙が食い込み、思わず悲鳴を上げる。危うくナイフを落とすところだった。
 プライズは私の腕を離さない。かなり痛いが、チャンスでもある。ナイフを持ち替えることができれば――。
 すんでのところで、彼のナイフがプライズを深々と突き刺す。決定的な瞬間だった。一撃で致命傷を負わせたのか、プライズはすぐに動きを止めた。私の手首から牙が抜ける。
「あ――」
 彼はプライズと私とを見比べた。表情から察するに、プライズが私に気をとられている隙をついて捕らえたというより、私を助けようとしたらたまたま仕留めてしまった、という具合だった。
 しかし問題はもちろん、プライズ争奪戦の勝者は彼だということだ。彼のナイフがそれだけの力を有していたということ。
 反撃を受けたなんて言い訳にならない。私のナイフは、一矢も報えなかった。
 私は無言で背を向ける。「待って。手当てをしないと」。声を振り切り、新たなプライズホルダーの生まれた場所から逃げるように遠ざかった。棘のある下草で細かい傷を作りながら、何度か風雨を凌いだことのある洞窟に駆け込む。
 膝をつき、震える両腕を抱いた。ガチのハントがこわかったのだ、と今になって気づく。息が上がり、かきむしる胸が苦しい。
 あのひとは強い人だ、と思った。
 強い人は苦手だ。嫌いではない。ただいたたまれなくなるのだ。決してちゃちじゃないナイフ。ゲームを前にしても動じない胆力。プライズを上手に狩れるのは、結局ああいう人だ。力のない人間は洞窟にこもるしかないのだ。
 咬傷の止血をしなければならない。恐る恐る確かめた手首の傷は小さいが深かった。皮膚のすぐ下の骨がのぞいている。
 その色を見た途端、私のナイフ、星の砂に似た白の正体を、唐突に理解した。
 ああこれは、カルシウムでできているのだ。私の骨で。
 私にとって、ナイフは獲物をとるためのものではない。ただ、自分のからだの一部であるだけだ。
「プライズホルダー」あるいは「リザルトホルダー」という肩書き――街では「作家」と呼ばれるその職業――が、医者や弁護士のような国家資格として体系立てて掲げられていたら、努力だけで得られるのなら、死に物狂いで勉強してそうなるのに。スポーツ選手や公務員のように年齢制限があったら、諦めもつくのに。
 言い訳をするように、思う。
 私がナイフを振るのは、ただそれが、生まれ持った私の習性、本能だからだ。
 勝ち抜いて勝ち抜いて、強い女にならなければいけないのなら、メダルなんかいらない。
 私はただナイフを振っていたかっただけ。
 ナイフを振るうと回り灯篭のようにかすめていく幻想を、眺めるのが好きだっただけなの。

 何巡かする昼夜の下で、からだを折って息を殺していた。自分の体に宿るホメオスタシスを、残酷に感じた数日間。生きてさえいれば、どんな痛手も時とともに回復するようにできている。傷跡はくっきりと残るにしても。
 ようやく洞窟を這い出したが、気分はどん底だった。
 もうひとつ私を地味に打ちのめしたのは、乱闘の中でラヴェーラのリップスティックをなくしてしまったことだ。来た道を辿ってみて、果たして見つかるだろうか。無我夢中で駆けてきて、どこを通ったかすら記憶がおぼろげなのに。
 夢遊病者のようにあてどもなくジャングルをさまよっていると、件のハンターとばったり顔を合わせてしまった。
「大丈夫? …怪我をしていたよね」
 いや、彼はもはやハンターではなくプライズホルダーだった。ベルトに提げた金属製の記章は、彼が勝者であることを厳然と証明している。
 黙っている私に、彼はとりなすような笑顔を見せた。
「キミは、ちょっと変わったナイフを持っているね。小さいけど手に馴染んでて、頑丈そうだった。キミの体の一部みたいに」
 狩りの名手は洞察力にも優れている。その通り、これは私の骨。折れない代わりに捨てることも、できない。
「…でももう、戦いたくない」
 しばらく沈黙した末、ようやく出てきたのはその台詞だった。彼はいくつか瞬きをする。
「キミのナイフを見せてくれないか」
 渡したナイフを矯めつ眇めつ、彼はじっくりと検分した。見比べるように自分のナイフを取り出す。やがて重量感のあるナイフを、私に持たせた。私がナイフを見せたお返しのように。黒革のシースつきのサバイバルナイフ。こんなバランスの良さを、鋭利を、強靭を持って生まれたかった。
 けれど私のナイフは、彼が今手にしている丸くて小さなものなのだ。望むと望まざるとに関わらず。
「僕が戦う」
 今度は私が瞬きをする番だった。淡々としているけれど、奥に情熱を秘めたまっすぐな彼の瞳にぶつかる。ワークシャツに細身のジーンズというラフな服装なのに、スタイルがいいせいか不思議と垢抜けて見えた。
「キミは戦わなくていい。その代わり、これから僕たちが出会う人のために、ナイフを振るうんだ。その人を元気づけたり癒したりする、その人だけのゲームを取るために」
 誰かを元気づけたり癒したり?
 そんなゲームがこのジャングルにあるだろうか。
 釈然としない私の足元を、彼はナイフで示した。
「そこに“夢”が咲いてる。さっき通ってきたところには“ぬくもり”も咲いてた。キミはこのナイフでそういうものを摘んで、ブーケをつくるんだ。誰かのためのゲーム・アレンジメントを」
“夢”? そんなものそこここに咲いている。赤や青、白や紫や黄色の冠をつけた、ジャングルのまとう装飾品。メダルにはならないからハンターには見向きもされないけれど、大輪の“希望”や小ぶりの“勇気”だって、季節ごとに咲く場所を知っている。
 これが私のゲーム?
「僕ができなかったことをキミがやってくれると、とても嬉しい」
 誰かのために“夢”や“ぬくもり”を摘むのが、私のナイフの用途。てのひらにおさまるほど小さなナイフは、細い茎を傷つけずに摘めるだろうけれど。
「ああ、僕はタキ。――やれるね?」
 共同戦線ということ? ついでのように自己紹介したタキさんからナイフを返してもらい、私はまだ彼の真意を掴めずにいる。
「それから、余計なお世話かもしれないんだけど」
 タキさんはポケットを探り、小さな包みを私に差し出した。
「キミは肌が白いから、赤や黒のモードっぽいメイクはちょっと不釣り合いだ。褐色系の肌には原色系の濃いメイクが映えるんだけどね。キミにはパープルやピンクなんかの、もっとふんわりしたパステルカラーの方が似合う。…最初に会った時、気になったから」
 包みの中身は細長い筒――リップグロスだった。MiMC、とロゴが入っている。初めて見るブランドだ。ミネラルハニーグロス104番、イノセントローズ。満ちている液体は、とろりとやさしいピンクだった。まろやかでぬくみのある淡いいろ。
「なにより優しい色の方が、キミらしいと思う」
 まさか、男の人にメイク指南をされるとは。
 複雑に思いながらも試しに鏡をのぞき、唇にのせてみる。生まれ変わったように表情が変わった。私、こんな顔をしていたんだ。顔を上げると、タキさんが満足そうに頷いた。
「…ありがとう」
 考えてみればこの人は、私を探してくれていたのだ。晴れてプライズホルダーになったというのにリザルトも追わず、お見舞い代わりにこんなものまで手に入れてきて。
 乾いた骨のナイフには、タキさんがくれた優しさがめぐりはじめる。コーラルピンクに色づいていく刃に、ほんのりと温度を感じた。血が通い、生気を帯びる珊瑚のナイフ。
 プライズホルダーというものはどんなに成功していても、しばしば虚無感や孤独感に苛まれるものだ。どんなに強そうに見えても、ナイーブで繊細な表情を隠し持っている。クールな外見に反してお人好しなタキさんもきっと、例外ではないだろう。この人がいつかどこかで戦いに敗れた時、自分の才覚を思い出してもらうのも私の役目なのかもしれない。この人のナイフが作る軌跡の鮮やかさを。彼があんなにうつくしい風を起こせることを。
 私はかがみこみ、なめらかな光沢を得たナイフでそっと “夢”を摘む。マゼンタのタッセルを縫い合わせたような冠をした華奢なたたずまいは、撫子に似ていた。小さな“夢”を受け取り、タキさんは飄然と微笑む。
「キミは?」
 私は無名のハンター。メダルが名刺のジャングルで、今、珊瑚のナイフだけをもって名乗る。
「…みほ。いとうみほ」

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【いとう園園主より、タキ様へ】
 このたびはモニター依頼を引き受けてくださり、誠にありがとうございます。また、納品が遅れてしまいましたこと、お詫び申し上げます。
 タキさんのリクエストにより、私自身の物語を書かせていただきました。いとうを主人公にした物語を書くとなると、それはもう「物語を書くいとうの物語」しかないわけです。
 変な自意識があるぶん、誰かをモデルにするより難しかったかもしれません。いとう自身は青が好きなのに、ピンクや赤のほうが登場していたり、いろいろ突っ込みどころはありますが、少しでもお楽しみいただければ幸いです。
 タキさんからのリクエストということを踏まえると、ドライでワイルドな設定の方がいいかな、と思い、ジャングルでハントなお話にしてみました。
 タキさんのオーダーメイド小説の中のセリフとリンクさせてもらったり、ハンターが持つナイフも「noterさんたちそれぞれが独自の剣を持つ」という設定と連動させてもらったり、随所にタキさんへのリスペクトも織り込めたかなと思います。
 タキさんが一足早く書き上げてくれた掌編のなかで、勇者がみほぞんびにかけてくれた言葉が、オーダーメイド小説の基本方針となりました。これからも私の中で、物語を書くときのひとつの道標となることでしょう。
 そして今や私の分身といえるくらい愛着のある彼女が、タキさんや他のnoterさんたちのパーティーに加えていただき、生き生きと冒険しているのを見るのは大きな喜びでした。noteをのぞくたびにちょいちょい読み返してしまう、大切な物語です。
「物語を書く」という共通認識によって、出会えたことに感謝しています。

【タキ様 注文書お控え】
※依頼主様のご要望により、いとう自身が記入しています。やたらと優しさ優しさ連呼していますが、実際は全然やさしくないです(笑)。なればこそ、やさしい人に憧れます。

1.あなたの好きな色
 いろんなブルー

2.あなたの好きな場所、もしくは行ってみたい場所
 モン・サン・ミッシェル

3.あなたの座右の銘
 「If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive.(強くなければ生きられない。優しくなければ生きている資格がない)」byレイモンド・チャンドラー

4.あなたの人生ベストワンの本と、その理由
 クラフト・エヴィング商會「クラウド・コレクター」
高校生の頃に出会って、いまだに「へヴィロテ本」を収める本棚にあります。

5.あなたが人生において最も価値があると思うもの(人でも可)と、その理由
 優しさ。
共感力、思いやりこそが人間の美徳であると思う。

6.あなたの憧れの職業(好きなお仕事であれば、現職も可)
 広義での「healer」
フィジカル、メンタル、スピリチュアル問わず、人でも物でもなんでも「癒せる」ひとになれたらいいな。

7.あなたの物語の主人公の「名前」
 いとうみほ

8.あなたの物語の主人公の「長所」
 誰かの痛みや苦しみに寄り添いたいと思う優しさ
 
9.あなたの物語の主人公の「弱点」
 あらゆる意味での「弱さ」

10.あなたの物語の主人公の「夢」もしくは「悩み」
 「力」を備えた強い女になりたいのに、文才、女子力、コミュ力、経済力、体力、何もかも足りない。

11.主人公に持たせてあげたい、あなたのお気に入りのアイテム
 ラヴェーラリップクリーム ワイルドチェリー→MIMCミネラルハニーグロス イノセントローズ

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