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認知症のおじいちゃんに会いに行ってきた

病院で過ごしている認知症のおじいちゃんに、父と0歳7ヵ月の娘と一緒に会いにいってきた。

おじいちゃんは再来月で95歳になる。男性の平均寿命は81歳なので、十分と言っていいほど長生きだ。自分で歩けるし、ご飯も食べれるし、病気もない。
見た目は、95歳にしては元気そうな普通のおじいちゃんだ。

だが色んなことを忘れてしまっている上、記憶も長く持たない。数秒前の会話も忘れてしまう。

孫の私のことも、父(息子)のこともすっかり忘れていて、「誰か分かる?」と聞いても、「分からん。」と一言。

「こっちが息子の○○(父の名前)で、こっちが孫の○○(私の名前)!」と言っても、ピンと来ない様子。

ところが、誰かわからない人達が突然会いに来て、神妙な顔つきだったおじいちゃんも、曾孫(赤ちゃん)を見るとニッコリ。

「よぉ見えとるわ。こっち見とる!」

と嬉しそうに笑っていた。

おじいちゃんは、私が結婚報告をしに行った数年前から、「ケッコン?ケッコンってどこや?」と聞いてくる程度には認知症が始まっていたが、コロナになったことで、加速度的に認知症が進んでしまった。
コロナのせいなのか、コロナで入院したからなのかは分からない。両方良くなかったのだろう。

おばあちゃんは8年前に83歳で胃がんになり、亡くなった。
おばあちゃんのことは覚えているのだろうかと気になって、

「奥さんの○○(祖母の名前)のことは覚えてる?」

と聞いてみたが、

「分からん。」

と言われてしまい、悲しくて、少し涙目になってしまった。

1番長い時間を共に過ごしたはずの祖母のことよりも、弟妹の記憶が根強く残っているようで、弟妹達の生存について何度も聞かれた。

弟達は亡くなって、妹達は生きているが、遠くに住んでいて会えないという話を20分程度の間に5〜6回ほど話したと思う。いや、もっとだったかもしれない。

会話が途切れる度に、父と私のことが分かるか確認してみたが、毎回「分からん。」と言われ、どうにも悲しくなり、3回目くらいでポロポロと涙が出てきてしまった。小さい頃から可愛がってもらっていただけに、忘れられるというのは、やっぱり悲しいものだった。

とはいえ、急に思い出したように思える瞬間も数回あった。

この人は息子で、私は孫だよと何度目かに説明したときに、父と私の年齢を聞いてきたので答えたところ、

「もうそんなになるんか。」

と笑ったのだ。

実はこのやり取りは、私が会いに行くと毎度のように行われていた。定例行事のようなものだったからか、答えも笑顔も反射的に出てきたのかもしれない。でも思い出してくれたような気がして、とても嬉しかった。

そのあとも、私の名前をふいに呼ぶ瞬間が1度だけあった。これも反射的なものなのかもしれない。改めて聞くと絶対に分からないと答えるのに、認知症とは不思議なものだなと思った。

私によく話してくれた、昔満州へ行った話や、川崎製鉄所で働いてたときのことは覚えてる?と聞くと、やはりそれはよく覚えていたようで、いつものように話し始めた。繰り返し話していたことは、忘れていないようだ。弟妹のことをよく覚えているのも、よく話題に出していたからなのだろう。

逆に、普段から会話をしていた相手や、思い出す必要がなかったような相手のほうが、忘れてしまうのだなと思った。なんとも切ない。

そして何度か、ふとした瞬間に、

「それにしても、よぉここが分かったなぁ。」

と言われた。

どうやって自分がここに来たのかも、なぜ自分がここにいるのかも分からないからこその発言なのかもしれないが、何度言われてもおもしろくて、ふふっと笑ってしまった。

「お父さんがいつも会いに来てくれてるんだよ。だから私も知ってるんだよ。それに私も1回来たことあるよ。」

と伝えると、そうだったのか、だから知ってるのかと納得しつつも、自分がそれを覚えていないことが少し悲しそうに見えた。

色々話しているとどうにもおもしろくもあり、悲しくもあり、笑いながらも涙がポロポロ、鼻水がズルズル出てきていたのだが、おじいちゃんも気付いてか気付かずか、なんとなくそろそろ面会は終わる雰囲気になり、また来るねと言っていると、突然、

「まだ嫁の○○(祖母の名前)が生きとるから…」
「嫁の○○(祖母の名前)が…」

と言い出し、私も父も思わず声を出して笑ってしまった。

私がおばあちゃんのことは覚えてる?と聞いてから10分程度は経っていたので、その話をしたことは当然忘れていたと思う。その話と、その後の会話をきっかけに、突然脳の中で何かが繋がったのかもしれない。
亡くなってしまったことは覚えていないようだったが、おばあちゃんのことを少しでも思い出してくれただけで、嬉しかった。

最後に、部屋は分かる?大丈夫?と聞くと「大丈夫」と言っていたが、どうやら面会室が自分の部屋だと思ってしまっているようで、面会室から私達を見送ろうとしてくるおじいちゃん。

看護師さんに、あなたも出るんだよ〜(笑)と誘導され、最後は病棟外へ出る扉の近くでお見送りをしてくれた。

少し進んでから振り向くと、右へ左へ足踏みしている、確実に自分の部屋が分からないであろうおじいちゃんがそこにいた。


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