この先、いいように転べばいいんだがなあ~


  小学生の女の子たちが家の前にたむろしてしゃべっている。「あのね」「~したらね」「~やってね」とぜんぶの語尾に「ね」がついている。ぼくが子供だったころもあんなふうな話し方だったのだろうか。

 中学校の校舎から生徒らの合唱の声が聞こえる。校内音楽発表会か何かに向けての練習なのだろう。「練習いやだったなあ」と自分の中学時代のころを思い返すまえに、その合唱の声に心を奪われてしまった。すげぇ良いと思った。中には「だりぃ」と思いながら歌っている生徒もいるだろう。仲の悪い生徒同士が隣り合って歌っているかもしれない。歌い終わってすぐに先生たちに「全然ダメだ!!」と一蹴されるかもしれない。それでもすげぇ良かった。

 夕方、高校生たちとすれ違う。ふと彼らが、ぼくが高校生だったときの同級生のように見えた。
 修学旅行で沖縄に行った時、平和資料館か何かで戦死者の顔を見た。60年以上前に10代の若さで死んだ人たちの顔。ちょっと緊張気味の女の子、ひょうきんに笑っている男の子、そこにはぼくたちとなにも変わらない顔があった。そうか、生まれた時代が違うだけなのか。

 夜、ぬるい風が吹く。ぼくがいま歩いているこの路上で、刃物で女の子を刺した通り魔が出現したらしい。犯人は未だに逃走しているとの事。今日はこの辺りに警察官や近所の人たちがたくさんいたが、いまは誰もいない。「夜道、怖ぇな」と思いながら「待てよ。ぼくってどっちかっていったら通り魔側なのかなあ」と思った。夜に光る刃物はぼくかもしれない。