展示会をアップデートするために Vol.1

WEB掲載版:JEDIS 日本イベント業務管理士協会

日本の展示会は元気がない」という正体の無い漠然とした停滞感が長く蔓延し続け、にも関わらず強い危機感を持って現状を打破しようという機運が高まるわけでもない。これは何故か。
数多の出展者の商談の機会と大切な制作・施工会社の商売の場を奪う「2020会場問題」も世間一般での認識は「コミケの会場が使えないらしい」というもの。これは何故か。
MICE産業の起爆剤になるIR誘致も「カジノ法案」呼ばわり。これは何故か。

モノの売り買いをしていた「見本市」からセミナー等を活用し情報発信にも長けた経済活動の場へと成長した「展示会」。その成長は何故止まったのか。展示会をアップデートする道筋は何処にあるのか、本稿では考えてみたい。

思うに、展示会産業は日本の経済成長の勢いに乗って半ば自動的に一定水準まで成長してしまい、そのガラパゴス状態から自己成長が出来ていないのだ。
各産業の業界団体が「おらが村」の夏祭りとして展示会を開催していた古き良き時代。それは良い。
展示会にビジネスとしての価値が見出され、展示会主催会社が台頭。それも良い。
関連産業展との併催、そして統合。それも良い。
長年変わらぬ招待状バラマキと鉄道広告掲出を「集客活動」と呼び、開会式のテープカットと共に会期を迎え、レセプションパーティーで打ち上がり、事故が起こらないことだけを祈りながら3日間を過ごし、見た目の来場者数に一喜一憂し、前年比で減っていたら「今年は天気が悪かったから仕方ない」でシャンシャン。それも良い・・・わけがない。
言い訳の余地もなく、良いわけがないではないか。

「展示会の出展効果は後々になって結実するから、効果を数字で出しづらい」。ふむ。「出展者へのアンケートで“満足した”が7割を超えている」。ふむふむ。「集客のためにTwitterとFacebookをやってみたけど効果が出なかった」。ふむふむふむ。「近隣のホテルと飲食店の売り上げに貢献している、これが経済効果だ」。ふむふむふむふむ。いやいやいや。全然ふむふむじゃない。それで良いわけがない。
言い訳の余地もなく、良いわけがないではないか(二度目)。

デジタル広告の効果測定がリアルタイムで数値化される今時分に、費用対効果が明確でない投資を求めても応えてもらえないのは当然である。
出展者達は展示会主催者に飯を食わせるために出展しているのではない。自社のステークホルダーへの利益還元に繋げる手段を探しているだけなのだ。
展示会に出るよりもGoogleの検索広告を出した方が売上も株価も上がるなら展示会に出る義理がない。いや違うか、出る理由が義理しかない。出展動機は健全ではない。そんな産業がいつまで通用するだろうか。

何故なのか。どうして展示会産業は成長していかないのか。
事由のひとつとして「展示会を主催する業界団体は“展示会産業”に所属していない」ということが考えられる。
例えば私自身がいま勤務している(一社)日本包装機械工業会は「包装機械業界」「包装および関連産業」の活性化のために活動している。言うならば、展示会はその目的を遂行するためのひとつの手段でしかない。故に、展示会産業が隆盛しようが衰退しようが直接的な関係はないのだ。
業界団体の公式の場で「業界の売り上げ」や「製品の輸出額」、「海外大手企業の動向」は語られても「展示会産業のトレンド」「施工会社の職人不足」に触れられることはない。それはそうだ、実際に現実に明確に彼らはその業界に属していないのだから。

では展示会産業を支えているのは誰か。業界団体とは違い、展示会主催専門会社はもちろん産業界の中心にいるだろう。展示会にまつわる業務に従事する沢山の施工会社・制作会社も属している。展示会場も欠かすことはできない。インフラとなる会場周辺の料飲・宿泊施設は直接属していないものの、支援する側として近い存在だ。
彼らは生きるか死ぬかの経済活動を行い、当事者意識を持って展示会を盛り上げようとしている。では展示会産業の発展に協力的でないのは誰だ
残念ながら、他ならぬ、展示会を主催している業界団体ではないか。彼らからすれば展示会産業の出来事は他人事だ。そして停滞し、ゆっくりと衰退していく。

さらに、業界団体が主催する展示会は基本的に多くても1年に1度。私が事務局の末席に座る「JAPAN PACK -日本包装産業展-」は2年に1度。中には3年に1度、4年に1度という展示会もある。
するとどうなるか?「○○年に1度の業界のビッグイベント」なのでリスクを徹底的に排除する。前例を踏襲する。挑戦ができない。スモールスタートの実験ができない。失敗ができない。
にも関わらず失敗してもトップたる実行委員長は元々展示会を1回こなせば交代する。失敗できない上に、失敗しても責任を求められない。この構造で革新的な挑戦を行う者がいるだろうか。いるはずがない。
「この業界団体(展示会)の為になるかどうかは分からないけど、展示会産業の成長の為に必要だ」というマインドで展示会運営に携わる人物が主催者組織にいたら?そんな危険人物に大切な業界のビッグイベントを任せることは出来ないだろう。総スカンである。出る杭は打たれる。刈られる。なので挑戦しない。なので成長しない。そして停滞し、ゆっくりと衰退していく。

大変長い前置きだったが、ここからが漸く本題である。要約していこう。これが業界への用薬になればいいのだが。

くどくど長々と語ってきたように「業界団体に展示会産業への当事者意識がない」「自己成長しない体質」の2点が喫緊の課題だとする。その課題はどう解決するのか。私は、業界団体が手を取り合い、運営の実務に就く事務局が相互にナレッジ(成功体験・失敗体験)を共有しあう仕組みとして「展示会事務局の塾」が必要なのではないかと考える。

例えば、近年徐々に浸透しつつある「展示会アプリ」のようなデジタル施策。その存在は当然認知していながらも「どう使えばいいのか分からない」「費用対効果は?」「運用できる人的リソースが無い」などのネガティブ要素があって採用に至らない主催者は多いのではないか。

そこで、先ず1つの挑戦的な主催者がファーストペンギンとなって試しに採用してみるのだ。すると成功体験と失敗体験を積むことができる。
機能の要不要の判断、広告費の設定、スケジューリング、周知方法、等々。様々なナレッジを得る。そしてそのナレッジを「塾」で共有する。
後に続くものはファーストペンギンの成功と失敗を参考に施策をカスタマイズする。3番目、4番目の展示会も同様である。
するとどうだ、ファーストペンギンが次の展示会の運営を開始する頃には1年分や2年分の、展示会を3度も4度もこなしたナレッジを得ているではないか。
嗚呼、やんぬる哉。なんという好循環!

業界団体の事務局が各施策のプロフェッショナルであることは非常に稀である。大抵は各々専門の協力会社がサポートしなければ業務が成立しない。
なので「よく分からないけど協力会社の営業が言ってるから」というスタンスで発注が済んでしまう。場合によっては次回の展示会では担当者が変わっているかもしれない。
これでは主催者側にナレッジが蓄積されない。協力会社への依存度を高めていくことになる。すると更に自分達の中でナレッジを保有しようという発想がなくなる。
嗚呼、やんぬる哉。なんという悪循環!

自己成長できない組織はどうすれば成長するか?単純な話で、出来ないことはしなければいい。自己成長を諦めればいい。周りにいる誰かの手を借りて、成長させてもらえばいい。その代わりに自分もみんなの成長の一助となるのだ。
これは何も難しいことでも革新的なことでもない。「情けは人の為ならず」という言葉を我々は知っている。難しいことがあれば故事に返ればいいのだ。
「赤信号、みんなで渡れば怖くない」と言い換えてもよい。否、よくないが。
展示会産業の抱える課題を他人事だと思わず、自分事として考え、そして解決に向けて真摯に考える。その当事者意識から逃げてはいけない。

ひょっとすると「そんなこと出来るわけがないだろう」と言われるかもしれない。「少しは現実的なことを考えろ」と。
が、しかし。逆に考えていただきたい。何故、出来るわけがないのか。

当たり前のことだが、「同じ時期」に「同じ地域」で「同じ業種」の展示会を「異なる業界団体」が開催しているなどということは無い。当然だ、誰にも利益が無い。
「近しい業種」であれば、むしろ相互に来場者増に繋がると既に手を取り合っている。
更に当然のことながら、業界団体が主催する展示会は自分達の産業の専門展に限られる。玩具メーカーの業界団体が日本酒の展示会を開催することはない。もしあるのなら是非見てみたい。
同じ業種の展示会を主催している団体であれば、開催年度や地域が異なっており、産業をお互いの立場で活性化させている隣人である。大抵はバーターブースを出し合っているだろう。
つまり、同旨の業界団体同士は同志であり導師になり得るのだ。敵にはならない。ましてや全く異なる産業の業界団体は言うまでもない。敵でも何でもない。で、あるならば。相互に成長しあうことが出来ないわけがない。出来ない道理がない。業界団体主催者展示会は、相互に成長しあうことが出来るのだ。

そしてもう1つ。「展示会の出展効果」という数字から逃げてはいけない。
このコト消費の時代に、展示会だからこそ得られる成功体験を提示できないのでは、サービス提供者としての責務を放棄していると言われても否定できないではないか。
A社は新規顧客との商談が何件発生したのか。その商談でどれだけの売上が見込まれているのか。B社はどうだ、C社はどうだ。D課長とE係長はそれぞれ何人と商談したのか。成約率は何割か。その差は何だ。「この展示会で名刺を○○枚集める」という曖昧模糊とした「出展効果」しか出展者に提供できない商談空間であることはもうやめよう。
F社に来場者は平均何分滞在したのか。G社とH社はどちらが多くの来場者が訪問したのか。その違いは何なのか。
どういうブースは集客力が高いのか、きちんと数字で語ろう。語れるようになろう。ならなければならない。小間位置なのか、小間サイズなのか、装飾デザインなのか、出展物なのか、ステージなのか、コンパニオンなのか、ノベルティなのか。また別の要素なのか。

もちろん、一朝一夕で算出することはできない。非常に莫大な労力とコストと期間と機会を必要とする。それを継続し続けなければいけない。
が、しかし。他の広告媒体はとっくに実践していることに過ぎない「視聴者が何人いるか不明ですがうちの番組にCMを出してください」というテレビ局の営業マンはいないだろう。これらは出展者に対して提示するべき必要な情報だと認識しなくてはならない。

これまではやってこなかったし、できなかった。
複数回の展示会で膨大なデータを収集し、解析し、また収集し、また解析し、PDCAを何度も何度も回して漸く見えてくるものだろう。
このデータを単体の展示会で収集するには何十年あっても足りない。困難だ。いや、困難だった。
確かにハードルは高いが、しかし、それは今や決して不可能なことではない。展示会主催者達が共同体となって相互に成功と失敗のナレッジを積み上げていけば到達できる時代に突入している。
展示会におけるデジタル施策のバリエーションが増え、効果を測定する準備をコンテンツ制作会社側は既に備えているのだ。
これは何も難しいことでも革新的なことでもない。「為せば成る、為さねば成らぬ、何事も。成らぬは人の、為さぬなりけり」という言葉を我々は知っている。難しいことがあれば故事に返ればいいのだ。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」と言い換えてもよい。否、よくないが。
展示会産業の抱える課題を他人事だと思わず、自分事として考え、そして解決に向けて真摯に考える。その当事者意識から逃げてはいけない。

さて。本稿の最後に、ぜひ皆様に知っていただきたい展示会がある。
業界団体が主催する展示会でありながら、果敢にも展示会アプリの採用に踏み切り、新たな収益モデルを探りつつ出展者と来場者が直接つながる場を提供し、更に、商談マッチングを実現するサービスも活用して事前のアポイントメント取得によるビジネスマッチングの促進で展示会の営業活動を会期の3日だか4日だかから何倍もの長期間に伸ばし、他にも招待状を電子化することで来場者誘致活動のフットワークを軽くし、ウェブサイトの出展者情報項目を細分化することで来場者に刺さる情報発信を促進するなど、非常にアクティブでチャレンジングな展示会がある。

名をば「JAPAN PACK -日本包装産業展-」となむ云いけり、「包む」にまつわる様々な産業から多くの企業が出展していると聞いた。
なんでも来場者の課題を解決する「包程式」を可視化しているようで、2019年10月29日から11月1日まで4日間、幕張メッセの2ホールから8ホールまでを使用して開催される大型展示会らしい。
主催者は(一社)日本包装機械工業会という業界団体らしいが、その固そうな名前に似合わず非常にイノベーティブな試みを実践しているとのことだ。
おそらく「この業界団体(展示会)の為になるかどうかは分からないけど、展示会産業の成長の為に必要だ」というマインドで展示会運営に携わる人物が主催者組織にいるのだろう。
そんな危険人物が今後どんどん増えていけば、必ずや展示会産業は再興し最高の催行となるだろう。

一体どのような展示会が開催されるのか。今後どう成長していくのか。是非とも展示会に足を運び、その目で成果を確かめて欲しい。

・展示会公式ウェブサイト:https://www.japanpack.jp/

・展示会公式アプリ:https://www.japanpack.jp/app/ ←是非ともダウンロードを!

と、言うことで。おまけに。
イベント業務管理士の尊敬すべき諸先輩方ならびに後輩諸賢。
展示会という産業はまだまだビジネスチャンスが多く眠っており、プロフェッショナルなイベントディレクターが活躍するに相応しい場だと私は信じています。
もし、ご自身の能力と知見を活かすフィールドを求めている方がいらっしゃいましたら、是非ともその力を展示会主催者として活かしてください。
ファーストペンギンも独りではただの危険人物です。しかし、束になればこんなにも心強いことはありません。そして私達の力で、展示会というイベントをアップデートしていこうではありませんか。
これは何も難しいことでも革新的なことでもありません。「人は城、人は石垣、人は堀。情けは味方、仇は敵なり」という言葉を私達は知っています。難しいことがあれば故事に返ればいいのです。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」と言い換えてもいいですね!否、よくないけど。

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