小林連載タイトル

ファイル19熊谷愛染堂寺カフェ講中(埼玉県熊谷市)大城圭佑さん、長谷川樹生さん

 空き家や空き店舗などが地域の課題となる一方で、そうした古民家・古建築等を活用して、まちづくりの活動を展開したり、商売につなげたりする若者も増えています。そうした若い世代の姿を2年間にわたりリポートした、日本住宅新聞での小林真さんの連載を、さらに加筆して順次配信していきます。2回目はファイル19熊谷愛染堂寺カフェ講中の大城圭佑さんと長谷川樹生さんです(2017年5月取材)。

2月26日の「縁日」。かつて50年に一度だった市指定有形民俗文化財の「愛染明王」の公開期など、観光資源としては課題も多い

 
 「オープンキャンパスだったか最初に熊谷に来た時、『ここは関東圏だけど、地元より何にもねえぞ』って親がいってたのをよくおぼえてます」
 寺カフェ代表、静岡市旧由比町出身の大城さんは熊谷の第一印象をこう語る。それが立正大学地球環境学部での3年が過ぎ、
 「卒業後ですか? 寺カフェの動向を見守りながら、熊谷で仕事したいですね」
 というようになった。
 寺カフェのホームは、2019年のラグビーワールドカップ会場である「スポーツ文化公園」すぐ近くの法乗院愛染堂。台座底からの高さ3.5メートルの愛染明王像を納めるこの堂は「藍染め」に通じると、昭和中期まで地元の熊谷染めをはじめ関東一円の染色業者から篤い信仰を集めた。
 ところが高度成長期以降、業界の衰退とともに参拝者は減少。愛染堂は屋根が崩落するほど激しくいたんだ。
 そこで15年、愛染堂保存修理委員会が発足してクラウドファンディング(CF)をまじえた募金活動を展開。CFは達成されなかったもののテレビなどPR効果は大きく、市からの500万円含めた約2400万円が集まって16年9月に修復工事が完了した。従来は50年に一度公開という秘仏が秋の雨の中、本堂に戻される落成法要は、地方都市のほっとする話題になっている。
 大城さんはCFを先導した後藤真太郎教授から修復がなって12年ぶりに縁日も復活した愛染堂の話をきき、柿沼慧さんと二人で「寺カフェ」を起ち上げた。
 「環境とともにコミュニティのあり方に興味があったので、何ができるか考えました。インターネットや本で調べてたどり着いたのが現代の駆け込み寺という都内の寺カフェです。それを愛染堂の地域でやるにはとあれこれ考えました」
 市街から離れた農村部の下川上。コミュニケーションツールとして子どもたちに喜ばれるけん玉やベーゴマなど昔あそび、ドリンクやお菓子以外の商品には絵馬を選んだ。絵馬に使う愛染紐の三つ編みワークショップもある。
 学科を越えて「おもしろそう」と集まったメンバーは10人ほど。2017年2月26日の縁日と、5月3日の隣接する伊豆三島神社の「ささら」の日の2回開催している。
 「今回は子どもたちと地域の家々を回る『悪魔払い』にも参加しました。今後は大学の3Dプリンタを使ったキャラクターグッズも考えています。縁日がニュースになって、市内のほかの寺社からのオファーもありました」
 檀家の少ない農村部のお寺と自治体。耳慣れないCFや大学生たちの活動が受け容れられるには時間がかかる。こうした動きを知ったわたしは、熊谷市が公益的な市民活動のスタートを上限10万円で助成する「はじめの一歩」を紹介した。
 締切前日。「あまりに急ですが」という提案に大城さんは、
  「是非参加したい」
  と応じてくれた。夜11時過ぎ、「けん玉、竹とんぼなどの用具の費用が欲しい」というメッセージに「その金額なら消耗品で」と助言。一晩で書き上げた申請書は無事受け付けられ、あとは5月24日のプレゼンテーションを待つ。

昔あそびは竹とんぼ、かるた、だるまおとし、けん玉など。5月の「ささら」では「悪魔払い」もいっしょに回った子どもたちに浸透しつつある

  
◇ ◇ ◇

「学生食堂をやりたいんですけど、学生だと継続性がないんで何か団体にした方がいいって先生にいわれたんです…」
 長谷川樹生さんがわたしの職場、市民活動支援センターを最初に訪れたのは昨年の6月。学生食堂のプランはペンディングとなったが、次にきいた長谷川さんの消息は、商工会議所主催「熊谷発ビジネスプランコンテスト」学生部門最優秀賞受賞のニュースだ。
 「熊谷で『さしすせそ』をつくろうと思って、まずは砂糖だなと。それでてん菜など3種類の原料を試作して、いちばんよくできたサトウキビの栽培から五家宝など既存製品や農業体験との組み合わせを『くまがや砂糖』のプランにしました」
 メディア時代。地方都市発のニュースはポータルサイトやSNSを通じて広がりやすい。寺カフェや熊谷を盛り上げようという学生サークル「くまちゃれ」にも参加する長谷川くんは、プチ有名人となった。
 4年生になっても就職活動はせず、ぶつぶつ交換で日本一の長者になる「熊谷わらしべ長者」のようなプロジェクトを遂行する。卒業論文は伊豆大島の外来種キョンの調査の予定。4月から週に数日、市民活動支援センタースタッフにもなっている。夜間、若年層の利用を増やすのがミッションだ。
 「生きてればいいじゃん、って思えば何でもできますよね。(ビジコンなど)就活のネタがいっぱいあっていいねっていわれますけど、そういう気になれないので」
 市内妻沼地区に畑を借りて、学生食堂プランの仲間とサトウキビ栽培も始める。大城さんの1年先輩。車で1時間ほどの群馬県桐生市の実家に帰ることはほとんどなく、卒業後も熊谷で何かしたいという。
 こうした発言をきいて、彼らが生まれてもいない1980年代に立正大進学で熊谷に移りそのまま居ついてしまった「残党」と呼ばれたOBたちが今も熊谷には少なくないことを思い出した。何もないといわれる、日本一暑い地方都市も「顔見知りになった人がけっこういれ」ば、住みよいまちなのだ。

 ◇ ◇ ◇

 「新幹線なら都心からすぐで、秩父観光なんかの拠点になる熊谷でゲストハウスやりたいです。下が居酒屋が理想ですね」
 という長谷川さんの話をある人にして、駅から10分くらいの築50年ほどの商店2階をコワーキングスペース開業希望の支援センターの40代スタッフとみにいった。オーナーは40年以上続けた商売を近くたたむつもりで、店舗を当時の自分のように起業する若い人に活用してほしいという。
 「4年生だと、来年になってかしら」
 「いえ、可能なら大学行きながらでも始められます」
 学生がまち中で起業するのは、かんたんではないだろう。だが、先のオーナーのような気持ちの人も少なくはなさそうだと、20代と40代と話しながら帰った。
 未活用の物件が多い地方都市は案外、希望だらけかも知れない。


【2017年10月の愛染堂寺カフェ】
 寺カフェ代表大城さんは後藤教授のスパルタ指導のもと、10月21日に星宮地区コスモス祭りで寺カフェを実施。シニア中心の紙芝居グループ「紬の会」の参加もあり、子どもだけでも20名ほど参加と盛り上がった。現在3年生。自然史に興味があり、博物館員めざし学芸員の資格取得を考えたり、少しずつ就職活動もしなければと思い始めている。

コスモス祭りでの寺カフェ

 4年生の長谷川さんは、就職活動に背を向けた。伊豆大島の外来種キョンをテーマにした卒論、10月21日には立正熊谷キャンパス50周年につなむ「何でも50」という風変わりはイベントを主催するなど我が道を行く。イベントは41円の黒字だったという。

「何でも50」での神経衰弱


大城圭佑(おおしろけいすけ・右)
1997年静岡市旧由比町出身。立正大学地球環境科学部環境システム学科3年。寺カフェ講中を起ち上げ代表を務める。趣味は作詞作曲やイラスト制作。
長谷川樹生(はせがわみきお・左)
1996年桐生市旧新里町出身。立正大学地球環境科学部地理学科4年。「くまがや砂糖」で「熊谷発ビジネスプランコンテスト」学生部門最優秀賞受賞。市民活動支援センタースタッフも務める。

法乗院愛染堂
熊谷市下川上33
アクセス:熊谷市ゆうゆうバス:ムサシトミヨ号(熊谷駅南口発車時刻7:50、10:47、13:52)バス停「下川上」下車徒歩5分 国際十王バス 犬塚行(熊谷駅北口)「下川上」下車徒歩8分

小林 真(こばやし・まこと)
1963年埼玉県深谷市出身・在住。学習塾蘭塾塾長、編集者・ライター、本庄NINOKURA広報。深谷、本庄でまちづくりや色などの活動にたずさわり、2014年から17年まで熊谷市非常勤「共助仕掛人」。17年4月からNPOくまがや理事として市民活動支援センター所長




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