見出し画像

2.決意表明

人の気配があまり感じられない地下1階を、心を奮い立たせて歩く。
お店のシャッターは、軒並み閉まっている。とてもじゃないけど、カフェがある雰囲気じゃない。

でも、あった。
一画に、ちゃんとオープンしてるお店。

ショーケースのケーキに目を奪われつつ、席に着く。
オーダーは迷った末、奮発して一番高いオムレツのあるメニューにした。

気合をいれたかった。
どうしても入りたかった会社。
ようやく漕ぎ着けた最終面接。

これから、たくさん嘘をつかないと。
自信のあるふりをして、堂々と胸を張って「私はできる」ってアピールしないと。

もちろん、そういうのはカッコ悪いって知ってる。
でも、採用されるならどうだっていい。
そもそも採用されなければ「ありのままの自分」とやらを発揮する機会すら得られないんだ。

ほんとの自分で勝負──知ったことか。
そんなの、無責任な外野が、安定した場所にいるから言えることなんだ。

私は負けない。だまされない。
苦笑いされても、つまんない見栄と虚勢を張って、最後まで嘘をついてやるって決めたから。

ブレンドコーヒーが運ばれてきた。
一口、口にして、カバンから経済新聞を取り出した。
なんか、さっぱり意味分からないけど、今はそれでいい。
たぶん、そのうち、意味が分かるようになる。
最初は苦手だったブレンドコーヒーも、今はちゃんとミルクなしで飲めるようになったし。
きっと、人間ってそういう生き物だ。

自分に言い聞かせたところで、モーニングメニューが運ばれてきた。
オレンジジュースで苦味を消して、ドレッシングたっぷりのサラダを口に運ぶ。
やっぱり一番心惹かれるのはオムレツだ。トーストにのせて、一緒にかぶりつくと間違いなく美味しいやつ。
けど、我慢して、フォークで一口サイズにカットした。
こうすれば、新聞を読みながらでも食べられるはずだ。
とにかく、今は一面記事だけでも頭のなかに入れておかないと。

視界を、ちらりと昨日のプロ野球の結果がよぎった。
隣のおじさんが読んでいるスポーツ新聞の見出しだ。
おじさんは、ニヤニヤしながら、満足そうにソーセージにかじりついている。
ケチャップがしたたり落ちて、みっともない様なのに、たぶん本人は気付いていない。

かすかな苛立ちを覚えながら、オムレツを口に運んだ。
本当は少し物足りなかったけど、あえて「よし」と呟いた。

※この物語は8割の嘘と2割の事実でできています。
 以下は、物語の舞台(のモデル)となったお店について。


ここから先は

609字

¥ 100

見つけてくださって、ありがとうございます! 執筆時、飲み物必須なので、お茶代として活用させていただく予定です。