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未来館ビジョナリーキャンプを振りかえる 特別編「ビジョナリーって、どんな人?」

未来館ビジョナリーキャンプ

未来のビジョンを描き、それを実現するアイデアを考え、周囲を巻き込みながら自らも行動できる人=ビジョナリーとして集った15~25歳の若者たち。

2019年3月に未来館で行われたイベント、未来館ビジョナリーキャンプ。
現代の若者たちが未来を思い描き、行動を起こしたように、かつてそこにあった課題を見つけ出し、社会をよりよくするために率先して行動した人々もいたはずです。

キャンプに参加したデータ・アナリストが、あるアメリカ人の話をしてくれました。
その人は、「世界中の人が道路で命を落としたり、傷ついたりしない社会」という未来社会のビジョンをもつ、まさにビジョナリーでした。

今回は、その人がどうやって周囲の人を巻き込み、ビジョンを実現させたかを紹介しましょう。

道路で人が傷つく社会

ガソリンエンジンが登場するまでは、いわゆる交通事故で亡くなる人はほとんどいませんでした。自動車やモーターバイクが庶民の手に届くようになるにつれ、交通事故死も増えていきます。

2008年の世界保健機関(WHO)による178か国での調査によると、毎年120万人以上の命が交通事故で失われ奪われており、交通事故の90%は中低所得国で起きていることが明らかになりました。2014年における年齢別の死因では、交通事故は5歳~14歳まででは死因第2位、15歳~29歳まででは死因第1位、30歳~44歳まででは死因第3位となっています※1交通事故を防げば、若い年齢層の多くを救えることがわかります。その一方で、多くの国が、急増する交通事故に対処できずにいました。タイもそうした国の1つでした。

しかし、2017年、私がタイの各地を訪れたとき、道路で身の危険を感じることはありませんでした。WHOの調査からの10年間に、タイでいったい何が行われていたのでしょうか。

※1: GLOBAL STATUS REPORT ON ROAD SAFETY 2018 TIME FOR ACTION
(WHO:World Hearlth Organization)
p14. Table 1. Leading causes of death by age, world, 2004


測定できるのなら、管理もできるはずだ!

WHOの調査結果にショックを受けたそのアメリカ人は、2010年にWHO、世界銀行、Global Road Safety Partnership(国際赤十字赤新月社連盟が運営するNPO組織)とチームを結成し、交通事故による死亡者/負傷者を減らすための法整備やインフラ整備の支援を開始しました。

まずデータに基づき、交通事故が深刻化している都市を選び出しました。都市ごとに交通事故の背景や事故の状況を調べ、事故を防ぐ有効な解決策を考えるためです。

データから、東南アジアではモーターバイクの事故が多いことがわかりました。

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出典:GLOBAL STATUS REPORT ON ROAD SAFETY 2018 TIME FOR ACTION
(WHO:World Hearlth Organization)

事故が多発する国の一つ、タイ王国では、多くの地域で道路や公共交通機関が十分に整備されておらず、そのような地域では、二輪または三輪で走行するモーターバイクが人々の移動手段になっていました。それでは、なぜそれが交通事故死亡者や負傷者の増加につながったのでしょう?


めざしたのは変化、ではなく変革

原因の一つはヘルメットにありました。見た目は正規品と変わらなくても、保護機能がほとんどない「にせものヘルメット」を使っている人が多く、転倒したときに頭部を守れないことが死亡や負傷につながっていたのです。背景には、高価な正規のヘルメットを購入しない人、できない人が多いという状況がありました。

そのアメリカ人は、正規ヘルメットの普及は死亡や負傷を防ぐ効果が高いと判断し、(死亡リスクを42%に、負傷リスクを69%に下げられるという報告がある※2)バンコク市や警察と連携してヘルメット普及キャンペーンを行いました。認証を受けていない "にせものヘルメット" をかぶることを違法とし、正規のヘルメットで頭部を守る重要性をテレビコマーシャルで伝え、希望者には正規のヘルメットを無料で配布したのです。

※2 
Helmets for preventing injury in motorcycle riders
Bette C Liu, Rebecca Ivers, Robyn Norton, et al  Jan 23, 2008
Cochrane Database of Systematic Reviews
Publisher:John Wiley and Sons


人間の行動をサポートできる社会

モーターバイクに乗る人間へのアプローチを行う一方で、事故リスクが特に高い区域を調べ、道路の改修にのりだしました。交通量や事故の多い交差点に、信号を設置したり、バイクの減速を促す凸凹を道路につけたり、Uターン防止のフェンスを設置しました。その結果、交通事故による死亡者、負傷者は減少し始めました。

バンコクでは、著名人や僧侶も参加して、ヘルメット着用を呼び掛ける"ヘルメットヒーローキャンペーン"が展開されています。タイでは僧侶は人々の尊敬を集めているので、彼らからの呼びかけは効果的でした。こうした活動は現在も続けられています。

https://thailand.savethechildren.net/news/save-childrens-7-project-presents-helmet-heroes


課題と向き合い方、ある視点

その人の名前はマイケル・ブルームバーグ。

情報サービスとメディアを統合した企業、ブルームバーグL.P.の創始者であり、ニューヨーク市長を2002年~2013年まで3期にわたって務めた人でもあります。2019年現在、ブルームバーグ氏は、世界中の人々が、より豊かで、より素晴らしい人生を送れる社会をめざし、アート、教育、環境、政策革新、公衆衛生という5つの分野を中心に慈善事業を続ける傍ら、国連の気候変動対策特使として地球温暖化という課題に取り組んでいます。

https://www.bloomberg.org/about/

1人の力、100億人の力

社会では、小さな変化ではなく、大きな変革が求められるときがあります。
地域社会が深く関わりあっている現代のグローバル社会。
一人の手で課題に取り組むのは難しいかもしれません。
しかし、大勢の人が力を合わせれば、できることは増えていきます。

どこかの地域で起こった問題に率先して向き合い、解決への道すじを共有することで、私たちはたくさんの人の力で課題を克服し、思い描く未来社会に向かうことができる。

一人のビジョナリー、マイケル・ブルームバーグ氏は、そのことを私たちに示してくれているのかもしれません。

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