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ベンチャーキャピタルが語る不動産テック最前線 ~アメリカの不動産テックは日本の不動産業界をどのように変えるか?〜 に、行ってきた!

自分が本業でやっている「不動産テック」に関するイベントの中で、最も人気の高いテーマのひとつがアメリカの不動産テック事情に関するものです。ソフトバンクによる大型の投資をはじめとした、資金調達に湧くアメリカの不動産テック事情と日本との比較を勉強しに行ってきました。

■概要
日時:2019/6/17 19:30〜21:00
場所:インキュベイトファンドオープンスペース
   東京都港区赤坂1-12-32 アーク森ビル3F
https://realestatetech-617.peatix.com/

■登壇者
株式会社TERASS 代表取締役CEO 江口 亮介 氏
インキュベイトファンド General Partner 村田 祐介 氏

勉強会&ディスカッション

目的
不動産テック先進国アメリカで置きてきた変化、及びこれから起こる変化を知ること。

不動産テックの定義

不動産テックに対する投資金額は近年増加傾向にある。2018年で約2兆円、全体の1/7。明らかに昨年スイッチが入った。
不動産テックに置けるカバー領域はとても広く、リスティングサービスからデータビジネスまで多岐に渡る。主なプレイヤーは「リスティング」と「マーケットプレイス」。iBuyer(アイバイヤー)と呼ばれるマーケットプレイス事業者が伸びて来ているのが特徴的。
大きく注目されている不動産仲介/売買関連プレイヤー(コンパス、オープンドア、等)における変化について、本日は着目する。

アメリカ不動産テックの潮流

アメリカの不動産テックに置ける大きなトレンドは以下のとおり
1.リスティングメディア戦争
2.次世代仲介プレイヤーの成長
3.iBuyer覇権争い

リスティングメディア戦争

代表的なプレイヤーは「Zillow」。物件情報は無料で掲載可能、上位表示させたい事業者から課金させるリスティングモデル。同様のサービスが増え、中でも不動産価格の査定を行う「ゼスティメイト」が台頭。査定エンジン自体はコモディティ化しやすく、各社いかに独自のデータを収集出来るかが競争力の鍵。

次世代仲介プレイヤーの成長

ここ2年で次世代仲介会社の上場・高評価が相次いでいる。代表的なのは「レッドフィン」「コンパス」「eXp」の3社。
アメリカの不動産仲介モデルは
①情報のオープンネス
②取引に置けるエージェントの役割
③フィーモデル
の3点が日本と異なっている。

レッドフィンの特徴
ブローカーながら限られた地域にもかかわらず全米4位のメディアも運営。物件の内見予約がリアルタイムに可能。
1.ディスカウントmodel
  仲介手数料が通常6%のところ4%で済む
2.エージェント業務の分業化による若手活用・効率化
3.データ解析によるユーザへのレコメンド機能提供
強烈な売り手へのディスカウントを提示。さらに、事務作業等を全てオンライン化し、買い手エージェントをつけないレッドフィンDirectを開始、さらにディスカウント強化。売り手1%買い手1%のサービスを開始。

eXpの特徴
1700名のエージェントが在籍するもオフィスは実質存在しない。コスト削減分をエージェントに還元している。
1.バーチャル勤務の実現
  全てのコミュにコミュニケーションを仮想現実上で実施
2.新しいエージェントフィーモデルの導入
インターネットとの相性の良さからか、ユーチューバーにはレビュー動画が多数上がっている。アメリカのエージェントは大体YouTubeもインスタもやっているため、彼らのプロモーションにつながる。

コンパスの特徴
1.カスタマー向けの集客メディア
  物件・エリア情報が充実した購入者向けポータルサイト
2.エージェントの業務効率化支援
  エージェントが顧客と話す時間の最大化、物件広告の作成支援等
3.好待遇によって優秀なエージェントを囲い込むことがビジネスモデル
  他ブローカーと比較して破格の好待遇。100%コミッション制度。
アメリカでは、トップエージェントがコンパスに移籍したことがニュースになるほど、エージェントの影響力が強い。

エージェントあたりのパフォーマンスを比較して見える各社の戦略
レッドフィン:超効率化モデル
コンパス:ハイエージェント/高額物件特価モデル
eXp:大量エージェント管理モデル

iBuyer覇権争い

iBuyer=家が数日で現金化出来るサービス
ビジネスモデルは価格査定アルゴリズムを活用して最短2日で売り手から直接物件を買い取り、不動産在庫を抱え転売するモデル。
従来型売却:マーケット適正価格でほぼ売れるが、いつ売れるかわからない。業者の収益源=手数料収入
iBuyer:素早い現金化と手数料カットが可能。その分、安い価格になる。業者の収益源=転売利ざや

iBuyerのビジネスモデルは適用可能な地域が限定される。
4社存在するが、展開エリアは米国内でも限定的で各社似通っている。

iBuyer成立の4つの条件
・ここ20〜30年で住宅開発が進んだ地域(極端な築古ではない)
・平均的な価格、スペックの物件が多い都市
・ハリケーンや地震などの災害が少ないエリア
・適度に安定した景況感

今後は家を売れる・資金力のあるプレイヤーがより高値で買い付けることができるため、Zillowが有利なポジションにあると考えられる。
既存ポータル事業とのコンフリクトを覚悟すれば、買い手集客力資金力にまさるZillowが有利か?

日本の不動産業界の変化の見立て

日本の不動産環境、商慣習はアメリカと大きく異なり、情報の非対称性が存在する。
情報のオープンネス
・日本では2週間以内の登録、また、契約形態によっては登録しなくても済む。データベースに登録されていても、ネット掲載不可とされるケースも存在。
・会社に情報が蓄積されるため、エージェントでは無く不動産会社が強い立場。業務の提供価値は、情報提供や内覧の調整といった事務業務が中心。
エージェントのビジネスモデル
・売り主、買い主がそれぞれ3%ずつ手数料をエージェントに支払う。取引においてはエージェントが買い主・売り主両社の間に入ることが出来る
・いわゆる”囲い込み”が起きる
中古売買回数
・米国は9割が中古物件の取引であるのに対し、日本では3割程度。
・米国では生涯で約3回弱家を買うのに対し、日本では1回強。
・日本では、はじめての不動産購入、売却の顧客が市場の大部分を占め、不安要素が強いことから、財閥系の大手不動産会社が有利。

日本の不動産テックトレンド予想

日本の不動産テックトレンドは5年前のアメリカに近い状況。今後はオペレーション・マーケティングエクセレンスを効かせたプレイヤーが出てくる。

1st Wave リスティングメディア戦争
不動産会社からデータを収集する必要があり、営業力があるプレイヤー(SUUMOやHOMES)が台頭。

2nd Wave 次世代仲介プレイヤーの成長
オンライン査定、仲介手数料の削減によって大手仲介会社と差別化。大手のデータ、顧客囲い込みによりDisruptしきれていない状況。カスタマーの意識変化によって今後市場を取れるかに注目。

3rd Wave iBuyer覇権争い
すむたす:アイバイヤーモデルが登場。
日本はアメリカ以上に物件ごとの個別性が高いため、リスクを見込んで適正価格よりも割安して買う必要がある。そこまでして早く売りたいユーザーのパイがどの程度存在するか。

次世代仲介プレイヤーとしてディスカウンタープレイヤーが出てきており、順調に成長中だが、アメリカほどの破壊的プレイヤーになるのは時間を要する。

日本版オープンドアの「すむたす」は創業1年で資金調達を実現。直近は対象ユーザーを不動産オーナーから不動産仲介会社へ拡大。
事業概要
・2018年1月創業、10月・12月に資金調達実施
・独自査定アルゴリズムにより最短1時間で買取価格を提示
・これまで類型価格査定額は400億円を超え、そこから複数件買い取りに至る

今後は仲介業務の効率化・自動化がメイントレンドになる。加えて、規制変化による需要取込みやアイバイヤーの勃興、データオープン化が国内で注目すべきトレンド
1.仲介業務の効率化・自動化
2.規制変化をドライバーとした需要創出
3.アイバイヤーの勃興
4.データオープン化

近年は個人情報保護法や働き方改革、民泊新法といった規制変化に対応したスタートアップが伸長。アケルン、スペースマーケット、など。

国内不動産情報プラットフォームとしてブロックチェーンを活用したコンソーシアムが関心を集めている

TERASSの紹介

不動産営業が今よりも「楽に稼げる」世界と、家さがしユーザーがよりよい接客を受けられる世界を目指す。(スタートしたばかりでプロダクトは開発中)
1.高級不動産に特化
2.特化型集客メディアプレイヤー
3.テクノロジーを駆使した業務支援システムの開発

まとめ

向こう5〜10年で、日本におけるイケている不動産領域と取るべきスタンスは何か?
1.業務効率化SaaS 特に顧客対応、契約書作成業務領域がポテンシャル大
2.上記を自ら活用した、特化型不動産プレイヤー(アメリカにおけるレッドフィン、eXp、コンパス)
3.時代と規制の変化は要チェック

Q&Aセッション

完全なCtoCモデルは成功するか?
成立はするし、昔から存在はする。ただ、高額かつ専門的な領域であるため、エージェントのサポートは必要であるため、スケールはし辛い。

日本のディスカウンターに対する既存事業者の反応
安かろう、悪かろうという反応はよくある。

不動産テックが浸透した後の世界で不動産会社が果たす役割、存在意義とは
不動産業界はFintech業界の後追いになると考える。金融業界でもほぼ全てオンラインで手続きが出来るようになったが、プライベートバンカーのようなトップティアに対する働き方は残っている。

OYO LIFEなどのサブリスクプションサービスが日本でどれくらいスケールすると思いますか?
時間がかかると思う。現状は価格が高いが、一度OYOを使ってそこから離脱しないユーザーのし上を囲い込めれば伸びるとは思う。ただ現状、賃料設定が高く、元が取れる18ヶ月以上住み続ける顧客層がどれほどいるのかは疑問。

データのオープン化について、情報の非平等性の歪みで食べている既存の不動産業者は非協力的なイメージです。彼らが積極的に協力したくなるようなインセンティブモデルを提供している会社は日本ではまだないようにおもいます。海外でそのようなモデルがあれば教えて頂きたいです。
罰則規定を設ける等する必要がある。LMSは罰則がある。
アイバイヤーのように、エージェント側にメリットが有るような施策も有りうる。

感想、その他。

特に流通領域において、アメリカと比較して日本で不動産テック事業をスケールさせる際のハードルになるポイントは以下の3点だと思う。
1.消費者側の不動産取引頻度が極端に少ないこと
2.オープンデータ(物件、取引履歴情報等)が存在しないこと
3.中古物件流通を”阻害”する様々な法規制
1〜3のどの障害をとっても、いちスタートアップ企業の力でそれを乗り越えることは難しく、日本では以下の3つのパターンの不動産テックが存在しえると考える。
A)iBuyerのように、既存の不動産プレイヤーが自らの取引きをテック化させる、または、不動産テックスタートアップが既存の不動産プレイヤーの傘下に入る 
B)既存の仕組みや枠組み、ルールから外れたところに新たな市場創出を目指す
C)既存プレイヤーの業務効率化を目指しつつ、業界に浸透し、来る変革の時を待つ
Aのパターンが最も堅実であるものの、VCからするとあまり面白みがない案件なのではないだろうか。
Bのパターンは、一見、スタートアップ的なアプローチで可能性がアリそうではあるものの、セミナーのQ&AでOYOについて言及があったように、新たな市場が立ち上がればよいが、それまでに不動産テック企業が持ちこたえることが出来るのか、また、その市場に対して新たな法規制が入り、持ちこたえる意味すらなくなる可能性は無いのか(Airbnbと民泊新法、OYOとサブリース規制)、そもそも本当に新たな市場なのか(OYOとマンスリーマンションって何が違うんでしたっけ??)等々、事業によって新たに創出される市場の解像度がかなり鮮明に描けており、かつ、半年〜1年くらいの時間軸で垂直立ち上げされるもので無い限り、既存プレイヤーからの抵抗やそれに伴う法規制等により無力化されるリスクのほうが高いのではないだろうか。
CのパターンがAに次いで堅実なように思うが、既存プレイヤーの業務に寄り添えば寄り添うほど、対象となる市場の規模は細分化され、なおかつ、市場を取る上でエンタープライズ向けに受託に近いカスタマイズ対応にリソースを割かざるを得ず、結果プロダクトのスケールに時間を要するというジレンマに陥りがち。
アメリカでの不動産テックへの投資熱の高まりなど、夢のある話をもたらすのも良いとは思うが、不動産という超絶ドメスティックな業界を対象とする以上、どこまでが横展開できる要素で、どこまでがそうでは無いか、また、プロダクト開発以外のアプローチ(ロビーイングや法改正まで含め)、事業価値の算定方法、等、日本ならではの不動産テックの考え方やアプローチ手法があっても良いのでは無いか、と思いました。

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