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人生を変えた男


僕の人生を変えた男。


最初、別に大した興味もなかった。
好みの顔ではあった。
そこから彼のことを調べた。
いつの間にか、彼に惹かれていた。

恋人の話では無い。
彼はアーティストである。
アイドルだ。

彼の動画をひたすら見て、CDを聴いて。
いつの日かライブに行きたい。
そう思っていた。

彼は僕の憧れだった。

彼がきっかけで、僕は他のアイドルにもはまっていった。

趣味も増えた。友達も増えた。
彼が僕に見せてくれた世界は、とても広く、僕に新しい生きる力を与えてくれた。

彼が世界に発信している沢山の音楽。
熱狂するファン。
一度に数万人を魅了して、笑顔にした。
僕もそのうちの一人だった。


2017年12月18日


彼は遺体で発見された。
練炭自殺だった。


後日、友人によって遺書が公開された。

そこにはひたすらに「疲れた」と書いてあった。

僕は、ただただ何日も何日も泣いた。
受け入れられなかった。
彼が亡くなったという事実が。

僕が見ている画面の前では、いつも笑顔だった彼が。
心に大きな闇を抱えて、自らの命を絶ってしまったということを
僕は恥ずかしながら、その遺書を読んで知った。

それから、生きるということについて意識するようになった。



1年以上が経ち、僕は不運にも彼と同じ闇を抱えることになった。

今になって読み返す遺書や、彼の音楽は、今の僕には刺激が強い。
遺書を公開しているサイトの中には
心を病んでいる人は読まないように
と注意書きがあるものもあった。

それほどまでに、彼が世間に放った言葉は影響力を持っていた。
皮肉なことに、彼はそれを自分の命と引き換えに放った。

今の僕は、何があっても同じ道を辿ってはいけない、と
彼の作った音楽、彼に宛てた音楽を聴き
彼の置かれていた境遇を何度も繰り返し読んだ。

何回読み返しても同じことが頭を支配する。


生きるとは何だ。
辛いことを受け入れることなのか。
それができないのは、生きる資格が無いのか。
痛みは耐えないといけないのか。
いつまで耐えればいいんだ。
僕ももう疲れたよ。
ジョン、答えてよ。
君は何に絶望したの?
僕は君が耐えなれなかった世界で強く生きないといけないの?
僕は君ほど強くない。
君ほど辛くはないのかもしれないけど。
それでも僕ももう疲れたよ。
ジョン。
君だって、明日頑張ればいいと歌ったじゃないか。
大丈夫だよ、と歌ったじゃないか。
僕も僕で精一杯だよ。
どうかもう一度、大丈夫だよ、と歌ってよ。
録音された音声じゃなくて。
そしたら頑張れる気がするんだ。
疲れたんだよ。
ねぇ、ジョン。
僕は今日も君が大好きだよ。
疲れきった心で、傷だらけのため息を吐いて
それでも僕は生きていないといけないの?

それでも僕は生きていく。
死ぬ勇気なんてないんだ。
だから僕は生きていく。
ただ、生きていく。
大きな目標もない。
生きていく意味もはっきりとわからない。
だけど僕はただ生きる。
死ぬことができないから生きていく。
消去法の生き方。



jun.

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