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フルーツサンドの天使、あるいは⑨

 「岡崎さんは、どのくらい彼氏いないの?」
「私、実は1ヶ月前に彼氏と別れたばかりなんです」
「本当に最近だね。何で別れたの?」
「振られたんです。他に好きな人ができたって。その子が大学時代の私の友達で。最悪ですよね。」
「それは…災難だったね」
「その子、なんかつかみどころがないと言うか、ふわふわした雰囲気で、なに考えているのかわかりにくいタイプなんですよね。男の人って、何で不思議ちゃんが好きなんですかね」
いつものあっけらかんと明るい発言とは違って、ふてくされているような言い方が面白かった。

「俺は岡崎ちゃんみたいな明るい元気な子が好きだけどな。そういえば、おまえの彼女も不思議ちゃん系だよな」
 知らないふりをして黙っていたのに、宮島が急に話を振ってきたから、焼酎を噴出しそうになった。
「まあ、ちょっと、変わった子かも。会話がいつもずれているというか、かみ合わないんだよね。」
「おっ! いつも彼女のこと褒めちぎるのに、倦怠期か?」
「だって、毎週必ずフルーツサンドを食べさせられるんだぜ。毎週だよ? 最近正直きつくなってきてさ。2年間ずっとだぜ……」
 自分の発言に驚いた。これまで、はるかとの日々を嫌だと認識したことはなかった。
「うーん、毎週はきついかも」
「だよな、やっぱり普通じゃないよな」
 宮島が同意してくれたことにほっとして、自分の本音を許すことが出来そうだった。

「断ればいいじゃん」
「必ず二人分買ってきて、断れない雰囲気出して来るんだよ」
「それって」
 僕と宮島の会話を黙って聞いていた岡崎さんが突然口を開いた。
「ちょっとしたメッセージじゃないですか?これを食べているうちは私を裏切るなよ、的な」
「うわ、こわ、牧村の彼女、こわっ」
 宮島が茶化す。
「ははは、まさか、俺の彼女、そんなキャラじゃないって…」
 苦笑いしながらも、それ以上につなぐ言葉が見つからなくて、微妙な沈黙の間が出来てしまった。
「ごめんなさい、彼女さんのことをそんな風に言って。私彼氏に振られてからネガティブ志向で…。」
「いやいや、まあ、その方がドラマっぽくて面白いかもね」
 なんとなく別の話題に移ってその話題は終了したが、岡崎さんの言葉がその後も頭から離れなくて、会話に集中できなかった。

はるかは、いつもとぼけた様子だから疑うこともなかったけど、実はすごく執着心の強い子なんじゃないか、今までの彼女はすべて計算なんじゃないか、様々な出来事が影を持って頭によみがえる。胸にできた引っかかりを流し込むように、酒のペースを上げた。
                            ーつづくー

※画像は、あずき様の作品を使用させていただきました。素敵な作品をありがとうございます。

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