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息抜きの息継ぎ:11



『フィレンツェのダビダ

おけしょうしないデヴィッド・ボウイ

モロー描くオーフェイス

ベニスに死すのアンドレセン


みんな足して
四で割る、

森蘭丸とは彼のこと!!!』



F式蘭丸、(フロイトしきらんまる)という漫画作品内で、

主人公の少女が、クラスメイトから
(あなたに恋人など居ないだろうという意味合いで)からかわる

→恋人なら居ると答える

→どんな恋人なのか言ってみなよ、という流れで

彼女の口から出てきた台詞です。


つまり、
『超絶にめちゃくちゃかっこいい完璧な森蘭丸という人が私の彼氏だ!』

という返しな訳です。


フィレンツェのダビデ像(ダビダと表記)と
デヴィット・ボウイ以外
何のことだか分からない私にも

このセリフ、リズム感は
強烈なインパクトでした。


今日は大好きな
大島弓子作品について書きます。



「F式蘭丸」(←タイトルからもう秀逸すぎる)をネタバレさせながら

主人公を男子にして
以下10秒でストーリーを説明します。


『鮎川まどかのきまぐれスタイル

ランカ・リーとシェリル・ノーム

五等分の花嫁全員分の顔!


全部足して4で割る、

森蘭子とは彼女のこと!』


呆れるクラスメイト。
「は?妄想も程々にしろよアニオタが。」

ですが、クラスに森蘭子、正にその人がすっと現れます。

クラスメイトは黙り
主人公は彼女と共に、
どや顔で楽しい時を過ごします。

しかし
蘭子は主人公が生み出した空想上の人物でした。エンド。


―――主人公をアニメオタク少年に置き換えると
あ、やっぱり、なストーリーに思えますが


これが
大島弓子の手にかかれば、
現代の一級の文学作品より上なんじゃないか、というレベルの
叙情を含んだ素晴らしい物語として読み進められます。



主人公は葉月よき子、
クラスの中ではちょっと冴えないタイプの女の子です。

ある日
父と死別し長いこと独り身だった母親から
急に『再婚したい恋人が居る』と告げられ

同時にクラス1かっこいい男子に言い寄られ
それを目にしたクラスメイト達に茶化される、という事態が起こります。


(よき子は
どうせゲーム、ネタ的な告白だ、
と思い込み、

それに対抗する形で、その場で恋人蘭丸の存在を宣言します。)


物語後半で、明かされていきますが、

「森蘭丸」は
子供のままでいたいのに
急に現実を突き付けられ
好いた惚れたと大人びていく周囲についていけない
よき子の気持ち、寂しさが生み出した空想の産物なんですね。

読者にそれと分からないように展開させる物語の運び、
いずれ消える運命にある蘭丸の独白の台詞、などが
本当に素晴らしいんです。


初めてこの作品を読んだ時
まだ中学生だった私には、よき子の心理がすんなりと理解出来ました。

(大島弓子は元は母が少女時代に好きな作家でした。F式蘭丸は1970年代の漫画です。)



*先日私がブログに書いた文を引用します。↓

『中学時代、テスト前になると
決まって母の部屋にある大島弓子選集に手を伸ばしました。

今(当時)の流行りを全て無視して
私が私である、と確認出来る場所。

戦いの前の休息、息継ぎ。


漫画の中で展開する

「見たことのないような世界」
「読んだことのない言葉たち」

は、当時の私にとって
追い込まれた時に逃げ込める
一番安らかな場所、シェルターでした。

今でも
大島弓子さんは、私の一番好きな少女漫画さんです。』



*ツイッターに書いたメモ↓

『試しにフォローした大島弓子botの台詞の9割はすぐにどのシーンか浮かぶ私。
ガチ勢に入ると自覚した

言葉で魅せる。
詩言葉で展開させる。
この人以上に素敵な言葉を使える漫画家さんは居ません。』



ともすると強調されすぎたり、大げさになりがちな
同性愛や性別の区別に関する表現を

自然な形で違和感なく物語に織り込ませていく部分や

少女漫画でありながら、
男子が主人公の物語が多いのも
大島作品の好きな所です。


私にとってはどの作品も
漫画の域を越えています。

文学絵本的詩集物語、と捉えています。

興味を持たれた方は
ぜひ読んでみて下さい。

新しい発想をくれる作品ばかりです。



今の漫画に慣れ
初期の絵柄に抵抗のある方は、

80-90年代のサッパリした絵柄の作品

金髪の草原(2001年に実写映画化)
あまのかぐやま
毎日が夏休み(94年に実写映画化)

などから入ることをおすすめします。


(後期に向かう程、SF要素のある作品も増え、今の感覚で読めるものが多くなります。)


世代を越え、10代のうちに大島弓子作品に触れ、
『そこにしかない世界』から様々なものを吸収できたこと、
大人になった今でも、とても感謝しています。



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