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夏産まれの娘の名前は「市夏(イチカ)」という。

娘には「市夏」になる前にもうひとつの名前があった。

妊娠初期,私たち夫婦のもとに訪れた初めての命。それはそれは嬉しかった。まだ自分の親指の先もないサイズの頃から,その存在が愛おしく,私たちはお腹の子の呼び名をつけることにした。

私は特に根拠もないが,なんとなく男の子が生まれる気がしていた。私と夫はそのお腹の子に「一才(イッサイ)」と名付けた。
なんでもいいので,自分で1つ才能(得意とするところ)を見つけることができれば,それで食べていくことが出来ればオールOK。そんな感じで決まったお腹の子の名前。

私たちは彼の事を「いっちゃん」と呼ぶようになった。

ちょうど5ヶ月が過ぎたある日,私は健診で産婦人科の先生にこういわれた。
「ママ,お腹の子,女の子で確実だから。もう名前決めても大丈夫よ」

息子は娘だった。

帰宅して,息子が娘だったこと,「一才」では具合が悪いので,女の子の名前を考えないといけないことを夫に伝えた。
「かと言って,今から花ちゃんとか呼べんよな(笑)」
私も夫の言葉に同感だった。この子は男だろうが,女だろうがもう「いっちゃん」なのだ。

そして,私たちの「いっちゃんの名前探し」が始まった。

「いっちゃん」と呼ぶためには「い」から始まる名前でないといけなくて,もっと言うと,おそらく2文字目は「タ行」に収めるのが自然だった。「いおりちゃん」や「いずみちゃん」という名前の子を「いっちゃん」と呼ぶのは,私たち夫婦には少々違和感があったからだ。

そんなわけで,選択肢は少なく「いっちゃん」が「いちか」になるまでに,そう時間はかからなかった。

名前が決まったら,次は漢字だ。
「いちか」にしたのは響きが気にいったからだった。「いちか」に,どういう漢字を当てはめると,さらにしっくり来るのか,まだ顔も見たことのない我が子にどういうイメージをつけようか,そんなことを思いながら,お腹が少しふっくらしてきた私は,スマホ片手に名前の検索をしていた。

当時,私調べではあるが「いちか」という名前に良く使われていた漢字は「一花」と「一華」だったように記憶している。ある記事では,SMAPの「世界に一つだけの花」から来ているというものも見たことがあった。

“ナンバーワンにならなくてもいい,元々特別なオンリーワン”

他聞に漏れず,私たちの子どもも私たち夫婦にとって特別な「オンリーワン」に違いは無かったのだが,少しイメージから外れていた。
そんな時に夫から送られてきたラインが孟子の言葉だった。

「市に帰するが如し」孟子 梁恵王下

その意味を早速調べた。

“市に人が集まるように、仁徳のある人のところに人々が慕い集まる。”

すぐに気にいった。
「いちか」の「いち」は「市」にしよう。そう決めた途端,娘への思い,勝手な親の願いがどんどん出てきた。

市場には人も集まるが,モノも集まる。それも多種多様だ。
娘という市場に,いろんな人やいろんなモノ・コトが出入りするようになって欲しい。そしていろんな人のいろんな気持ちが分かる人になって欲しい。

駄菓子やジャンクフードも食べるし,高級料亭のたっかい食事も食べる。
野宿やテント泊もするし,ラグジュアリーなホテルや旅館にも泊まる。
そんな感じで,良い意味で雑食で,どんな環境でもどんなモノでも楽しめる人になって欲しい。

いずれ・・・・・・いや,すぐに私の手を離れる娘だから,いろんなモノに触れ,いろんな人に出会い,辛くなった時に自分自身を支えるモノ,自分が頼れる存在を早く見つけて欲しいと願う。

孟子の本来の意味とは少しずれるが,そうやって娘が娘の市場で積み重ねる経験が,彼女が人徳を積むということに繋がるんじゃないかと思う。

幸いにも残った「か」には,夏産まれの彼女にうってつけの字があった。

こうして決まった我が家の娘「市夏」。彼女の市場にどんな人やモノが出入りするのか,これから楽しみで仕方がない。

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