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銀ちゃんといっしょ 36

エンジェル

フラッシュバックを経験しました
ネットで調べると
繰り返し起こるような感じに書いてあったけど
とりあえずは一度だけ
また何かのきっかけで起こるんでしょうか?

そもそもフラッシュバックだったのかな…?

今〝55歳の普通のオバチャン〟を
ちゃんとやってる私

そのオバチャン
惚れっぽい性格で
その昔はたくさん花を咲かせました

二十歳の頃
好きになった人は
二股 三股をしていました

それぞれに全てがバレて修羅場になりました

プライドが人一倍高い私が
そんな人 そんな状況でも〝切る〟事ができない

大好きな同じ歌が頭から離れない

街に降る雪が切ない

遮断機の赤い点滅と鳴り響く警告音が突き刺さる

かかって来る電話を切る事ができない

お国訛りの語尾が頭の中で響く

そういう煮え切らない日々を過ごしていると
その人は地元に帰る事になりました

私はいつも引っ越して行く立場でした
いろんなものを置いて
自分が去って行く立場でした

はじめて置いて行かれる事になりました

〝一緒に帰ってくれると?〟

そんな言葉は真に受けません
他の二人にも言っているはずです
もちろん揺らいだ事もありました
でも現実として受け入れる気持ちには
最後までなれませんでした

本命だった人と地元に帰って行きました

一人暮らしをしていた私
あまりの寂しさに涙も出ませんでした
涙を流して泣く事ができませんでした
一粒の涙も出なかった…

それが春

数ヶ月過ぎて夏の真っ盛りに
電話がかかって来ました
今のように携帯電話なんて誰も持っていません
仕事が終わり帰宅したのを見計らうように
かかって来ました

地元からでした

〝仲良くやってる?〟
〝う~ん…なかなかうまくいかんとね〟

心はざわついたけれど
日本列島半分の距離のおかげで
他愛ない会話をする事ができました

数日おきにかかって来るようになりました

毎回なんでもない会話です
今思えば
そんな夜になんでかけて来られたんだろう
彼女が夜の仕事でもしていたんでしょうか
そんな事さえ聞きませんでした
ただ毎回なんでもない話をしていました

少し真夏の暑さが和らいで来た頃
私の父親の転勤が決まりました
一人暮らしをしていたものの
お針子さんの見習いの身
自立はできていません

それに何より
その人からの電話が辛くなり始めた頃でした

父親の転勤先は今住んでいる所でした
ふるさとのない私には
中高生の時に暮らしていた この場所が
〝帰る〟という感覚の土地

親と一緒に帰る事に決めました

その人との物理的距離はぐっと縮まる事になるけど
連絡先を伝えなければ
完全に連絡が取れなくなります
そうやって自分を追い込まなければ
辛い気持ちがずっと生々しく続くだけ

引っ越す事
〝帰る〟事を伝えると

〝ほんと?近くなるね~また会えるね~〟と

数少ない荷物をまとめて
唯一つながれるその電話とさよならする前夜
他愛ない会話の後に連絡先が決まったら
連絡する事を約束して電話を終えました

終わった瞬間に
電話機を壁に向かって投げつけました

去年の秋
電話機を壁に投げつけたあの日から
30年以上の月日が経っています

単純に〝若かりし頃の思い出〟というだけの話
逢いに行こうと思った事もないし…
そもそも連絡先も何もかも捨てていたので
過去の思い出としてしか存在できませんでした

それが…
ある事で悩んでいる日々を送っていた私

メールで聞いてもらっていた人が
あの人のいる地方の人でした
言葉の端々に時々出て来るお国訛り

今の気分はこんな感じじゃない?と教えてもらった
歌詞の素敵なバンドをネットで検索してみると
ボーカルがあの人にそっくりの人でした
口元以外は酷似
似すぎてる
年齢的にあの人の息子じゃないかと思うぐらい

何かのスイッチが入りました

何が悲しいのかわからないけど
涙が出て来る
〝そんな気分〟という訳ではなく
本当の涙がポロポロ ポロポロとずっと出て来る

家族に悟られたら説明のしようがないから
隠し続けて…

それが3日間 続きました

その間に
降るはずのない雪が
舞っているのが見えた気がしたり

身近にない遮断機の音が聞こえてきたり

寒かったり暑かったり
春の花の薫りがしたり……

これ以上続いたら気が変になりそう…の手前で
全ての情景が消えました

怖かった

あの時に流す事のできなかった涙が
出たんでしょうか

信じるも信じないも
本当に起こった事でした

しばらくはそのバンドの歌を聴き続けました

自分自身をとことん追い込むタイプなので

今はもう聴いていません
自然に聴かなくなりました

ずっと私が
子どもたちや家にやって来た犬猫たちの
子守唄にしている歌があります

その歌はその思い出のあの人と
ふと一緒に歌った歌
呟きのような歌

大好きな歌

主人には内緒です

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