見出し画像

米銀行破綻後の世界経済の見通し【1】(対策編)

はじめに

NHK「日曜討論」に出演させていただきました。米国の銀行破綻から広がる金融システム不安について、専門家の皆様とあらゆる側面からリスクを分析し、現状を把握することで、今後の世界経済・日本経済への影響について議論させていただきました。

あらためて日本金融経済研究所としての見解を文章としてメッセージを残したいと思います。

「日曜討論」出演にあたり、自分なりに頭の整理をし、言葉をひらたく、専門用語を使わずに、専門的な内容を話すことを、どう工夫したらいいのか。時間をかけて準備しました。その一部をnote に記載させていただきます。

危機やリスクを専門家だけの議論に留めずに、だれもが分かりやすくアクセスできることがこれからの時代、特に大事だと思っています。

ご参考にしていただければと思います。

これらの論点をまとめます。
1.アメリカの相次ぐ銀行破綻はなぜ起きたのか
2.なぜ事前にリスクを見抜けなかったか
3.銀行破綻が広がる可能性
4.米 信用不安はどこまで ノンバンク系
5.米経済の見通しと日本経済

メッセージ・総括

銀行がたった数日で突然死に至ったことが驚きではありますが。誰もがSNSに慣れ親しむ社会において、信用不安の拡大スピードは速まっています。
金融・経済は通常であれば利益を追及するという合理的な仕組みで動いています。しかし、経済が破綻に至る最後の最後は「人の心」に「不安という火が放たれた時」です。不安という心の問題です。合理的には説明し尽くせない「信用不安」が社会の仕組み自体を最後は壊していく可能性があります。
SNSが普及したがゆえに、自分たち一人一人の行動や発言によって、私たちの大切な社会を自分たちで壊してしまうこともあり得るとも感じています。
だからこそ、リスクを適正に認識し、どのように対策をしてくべきなのか、仕組みが壊れないように規制を強化する必要性を伝えていくことの重要性を感じています。

馬渕 磨理子

では、以下で論点・リスクを簡潔にまとめます。

1.アメリカの相次ぐ銀行破綻はなぜ起きたのか

シリコンバレー銀行、シグネチャーバンクと2つの銀行が短期間で相次ぎ破綻しました。破綻した銀行の特徴は3点です。

1. 預金の調達先が偏っていた
1つ目が、預金の調達源が極めて偏っていた点です。預金の1,730億ドルの預金の殆どがベンチャー企業やファンド等からの大口預金で約50%を占めていました。また、預金の保護対象となる預金保険の上限を超えているものが約90%を占めていました。調達先が偏っていると、取り付け騒ぎが起きたときにバランスシートが容易に傾きやすい状態です。

2.債券運用の偏りと運用の失敗
2つ目が銀行として運用の失敗です。預かり資産の57%を債券運用に回していました。通常の銀行業務は預かり資産を企業に貸し出して利ざやで儲けますが、シリコンバレー銀行の場合は多くを債券に投資していました。債券価格は金利が上昇すると、債券価格は下落します。金利が低い状態の時に発行された債券は利回りが低いです。米国の金利は上昇が続き現在の政策金利は5%です。このタイミングで発行された債券の方が、利回りが高く魅力的です。簡単に言えば、少し前に発行された債券価格は値引きしなければ売れないため価格が低下します。

ただし、世界中の他の銀行も債券投資は行っていますので、含み損を抱えている状況は破綻した銀行と状況は同じです。破綻した銀行の何が問題だったかというと、含み損を確定して資産を売却しなければならないところまで追い詰められた点です。債券は満期まで保有していれば、元本は返済され、利回りのリターンもあります。取り付け騒ぎが起きたことで、満期まで保有することを許されずに損失を確定しなければならなかったのです。

顧客の預金引き出しが加速と当時に、資産サイドに金利上昇による損が拡大し、バランスシートの維持が難しくなりました。金利上昇等のシナリオ分析によるストレステストとそれに対する備えが不十分だった点は、今後の再発防止に役立てる必要があります。

3.SNSによる信用不安が拡大のスピード
財務がそこまで懸念されていなかった銀行が、数日で破綻した時間軸の速さは今回の最大の特徴です。預金の流出のスピードが従来の経験則では予測できない事態となりました。米国で、金融規制や監督の強化への具体的な内容は5月に発表される予定ですが、SNS対策も含めて論点に入れる必要性を感じます。

2.なぜ事前にリスクを見抜けなかったか 

1.銀行の健全性の審査「ストレステスト」の対象となっていなかった
リーマンショックの教訓からドッド・フランク法(金融規制改革法)が成立し、銀行には自己資本や流動性などで高いハードルが課されていました。しかし、トランプ政権の時に、中堅・中小の銀行にとって規制コストが重すぎるとして、ストレステストの対策となる銀行は資産規模が2500億ドル(約33兆円)以上に引き上げられました。

具体的には、資産規模が2500億ドル以下で預金による資金調達が大部分を占める銀行は資金流出に対処するための「流動性カバレッジ比率」を満たすという要件から除外され、かつ、ストレステスト(健全性審査)の頻度も年1回から2年に1回に減らしていました。
破綻した2つの銀行は去年12月の時点で1000億ドル以上2500億ドル以下の資産であり対象ではありませんでした。

2.第三者機関の評価
破綻直前に、大手会計事務所がシリコンバレー銀行の会計状態に「お墨付き」を付けています。ただし、破綻前に、「監査上の重要な事項(CAM)」として、融資で損失が発生するリスクについては注意喚起をしていました。ただ、監査意見では保有する債券の含み損と、こうした債券の保有を続ける能力については触れていませんでした。

ここからは私の見解になりますが、債券含み損の拡大を監査法人が警告することが事態を最悪のケースである破綻に向かわせるとの判断があったのではないかと考えます。

また、格付け機関ですが、破綻前のシリコンバレー銀行の格付けはムーディーズとS&Pでそれぞれ、A1、BBBと、いずれも十分投機適格とされていました。

第三者機関の役割はリスクを認識し、注意喚起を促す役割がありますが、今回のスピード破綻においてはその役割を果たすことが出来なかった点は否めないでしょう。

3.銀行破綻が広がる可能性

銀行破綻移行、現在も銀行から預金者の引き出しが続いています。一方で、銀行側は貸し出しの基準を引き締め始めています。これは、ドルが循環しない状態です。

ドルの目詰まりがおきると、どこかで破綻が起きかねません。

そこで、3つの大きな対策を取っています。

1.中央銀行が民間銀行の資金を融通
米国では取り付け騒ぎがおきた対策として中央銀行が市中の銀行に対して、資金が枯渇しないように資金供給をしています。市中の銀行が持っている米国債など質の高い証券を担保に中央銀行が貸し付けを行います。具体的には3月12日に発表されたBTFP(銀行ターム・ファンディング・プログラム)という仕組みです。

ようは、FRBが銀行に米国債など質の高い証券を担保に額面満額で最大1年貸し付けるオペをしています。しかし、米国の中小銀行のバランスシートで預金の残高はおよそ5.4兆ドル(負債)、一方で、国債などの有価証券の保有残高は9300億ドル(資産)で預金に占める割合はまだ17%程度。預金流出がおきたときに、BTFPだけで吸収することは難しいと言われています。そこで、次の対策があります。

2.民間金融機関同士が連携して中堅銀行を守る
2つ目の対策が、3月17日に発表された、米大手銀行11行が協力し合うという、異例の支援です。

JPモルガン・チェースやバンク・オブ・アメリカなど大手銀行11行が中堅銀行ファースト・リパブリック・バンクに対して合計300億ドル(約4兆円)を預金すると発表しました。

米国内で、中堅銀行からの預金が流出して、大手銀行に一部預金が集まる動きがあります。信用不安の拡大により、国民の考えとしては大手銀行の方が安心だとの心理が働くわけです。ただ、この動きが加速すると、正常なハズの中堅銀行のバランスシートが傾くことで破綻する可能性を否定できません。大手銀行としては、金融システム全体の安定を計るためにも、中堅銀行を破綻させない事を望みます。そこで、大手銀行から中堅銀行へのドルの供給を行い、国内でドルの循環を作っています。

3.日米欧の6中銀、ドル供給強化で協調
最後に、世界レベルでドルの循環を作っています。
3月19日に日米欧の6中銀、ドル供給強化で協調を発表しています。

FRB、欧州中央銀行(ECB)、日銀、カナダ、英国、スイスの各中銀の6つの中央銀行が連携してドルを融通し合います。具体的には、FRBがほかの中銀に対してドルを融通するスワップ(通貨交換)を強化しています。銀行破綻以前は、各中銀がドルを供給するタイミングは1週間おきでしたが、毎日行うことを決めました。

こうして、世界レベルでも連携してドルの資金繰りで目詰まりが起きないように対策を早期に打ち出しています。

3月10日にシリコンバレー銀行が破綻してから、たった9日以内にこれら3つの対策が早急に打ち出されました。

リーマンショックでは対策が後手に回った教訓から、今回の当局の対応は非常に早かった点が特徴です。株式市場の値動きを見ていると、これらの発表以降、落ち着きを取り戻している点から、一旦、は信用不安を落ち着かせる効果があったと言えます。

ただ、完全に火種が消えたわけではありません。
中堅銀行のバランスシートにはバラツキがありますので、財務上の懸念が引き起こされた場合に迅速な対応を取ることが求められます。危機が個別企業の事象に留まれば、金融システム全体に不安が拡大するまでには至らないというのが今の考えです。


【全編】
1.アメリカの相次ぐ銀行破綻はなぜ起きたのか
2.なぜ事前にリスクを見抜けなかったか
3.銀行破綻が広がる可能性
4.米 信用不安はどこまで ノンバンク系
5.米経済の見通しと日本経済

一般社団法人 日本金融経済研究所
https://jrife.or.jp/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?