見出し画像

日銀「YCCの柔軟化」サクッと解説

■金利0.5%を「めど」に1%まで認める?


28日に開いた金融政策決定会合で長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の修正を決めました。今回の政策修正から「今後、日銀は引き締め的な方向にこれからなっていくのか?」と一瞬、マーケットは受け止めましたが。答えは「引き締め方向ではありません」

植田総裁の会見を拝見して分かったことは、これからも、金融緩和を継続しますし、その枠組みの1つとして、いま、導入しているYCC(イールドカーブコントロール)(金利のコントロール)をこれからも続けていくという意向です。長期金利を微調整することは、非常に難しく、他国では、どこも成功していません。過去にオーストラリアがYCC導入後、すぐに撤廃してしまったことがあります。日本だけが出来ている政策です。コントロールを可能にしているのは、物価上昇が起きていないからです。ただ、氷のように固まっていた日本の物価が溶け始めたいま、これからも金利のコントロールを可能にするために、先手を打ち、長期金利の上限に余地を認めるとしたのです。

■なぜ、今回、YCCの柔軟化に?

では、なぜ、今のタイミングで修正をしたのか。
ちなみに、会見で植田総裁は「柔軟化=修正」
言葉の意味に差はないとしています。つまり、同義です。

修正の理由は、日銀の物価見通しが外れたからだとはっきりと植田総裁は話しています。今回、23年度の物価上昇率の見通しを2.5%に上方修正しました。日銀が想定していたよりも、23年度は物価上昇率が上振れしたこと。それを、4月時点では(23年度を1.8%を想定)見通すことが出来なかったことを理由に挙げています。そうなれば、日銀が想定しているよりも、もしかすると、これからも、物価上昇が続くかもしれないという不確実性を感じ取ったわけです。慎重な日銀、植田総裁としては、今の物価見通しの難しさを認めつつ、今回、外したことを、外したで終わらせずに、先手を打つ判断をしたわけです。物価上昇が起きてから、金利の上昇を認めては遅すぎる、マーケットに押されてしまい、日銀のコントロールが効かなくなる。そうした懸念を今の段階で芽を摘んでおきたい意図です。また、「投機」=ヘッジファンドには踊らされないという日銀の姿勢は明確にしています。

■短期金利は触らない

長期金利の上限は0.5%を「めど」、1%も念のため上限を設けるスタンス。

これまでは、0.5%を上回らないように、コントロールしてきましたが、今後は、0.5%を緩やかに超える場合も容認するとしました。そして、今の段階では到達するとは思えないものの、もし、1%を超えるような水準にまで、長期金利が上昇した場合は1%を超えないように、金利をコントロールするとしています。

そして、短期金利=政策金利に関しては、触らないとしています。短期金利を引き上げとなると、これは完全に引き締め・利上げです。

引き締めをしない理由として、賃金上昇が伴う物価上昇の目標からは、ずいぶんと距離があるためです。日銀としても、何としても、これまで氷ついた日本の物価・賃金を溶かして上昇させたい。そのために、金融緩和を継続していく意向に変わりはありません。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

日本金融経済研究所 
代表理事 馬渕 磨理子

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?