キャンプファイヤー写真4_アートボード_1

サウナのボドゲができるまでの話。

すべては満員のサウナから始まった。

その日、ぼくはいつものようにホームサウナ「北欧」でととのってやろうと意気込んでいた。いつものようにエレベータに乗り込み、フロントのある6階へと向かう。

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なにやらフロント前が妙に騒がしい。フロント前の椅子。こいつは普段使われているのを一度も見たことがない。その椅子に成人男性がぎちぎちに座っていた。なにか穏やかじゃないぞ。ぼくはそう思った。

下駄箱に靴を入れ、おそるおそるフロントに向かう。
「クイックでお願いします」

クイックとは3時間1,000円の超お得な料金プランのこと。今は増税の煽りを受けて1,400円になってしまった。悔しい。10枚綴の回数券が10,000円で売っているので、まだ購入されていないそこの君は急いで買いに行った方がいい。

「現在満席の状態で、お待ちいただくことになるのですが、よろしいでしょうか?」

サウナが満席になるということがあるらしい。変わったこともあるものだ。満席だろうと何だろうと、今日はととのうまで帰らない。固い意志をもって待ちの一手だ。それしかない。そう宣言すると、受付のお姉さんから整理券が手渡された。

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2年くらい北欧に通い詰めているが、整理券をもらったのは初めてだ。どうやらロッカーに空きがないため、入場制限がかかっているらしい。なるほど、それでうずうずとした様子の成人男性が、険しい顔つきで居座っていたのだな。だったらぼくも...と思ったが、ぼくの座る場所はない。椅子は満席だ。立ち姿勢でうずうずしながら待った。うずうず。

混んでいる理由にあたりはついていた。テレ東でドラマ「サ道」が放送されたのだ。初回放送は7月19日(金)。その記念すべき回に取り上げられたのが何を隠そう北欧である。ぼくが訪れたのは整理券を見る限り8月11日(日)。放送から一ヶ月が経とうとするそんな中、噂を聞きつけたサウナーたちがひしめきあっているのだ。そうに違いない。メディアの力は絶大だ。

そんな取り留めもない考え事をしたり、Twitterに整理券の写真をあげたりしていると、意外と早く番号が呼ばれた。20分くらいの待ち時間だった。ロッカーに衣類と荷物をぶちこみ、全裸で階段を駆け上がる。

北欧の脱衣所は6階にあり、サウナは7階にある。脱衣所とサウナの階層が離れているのはなかなかおもしろい造りで、全裸で階段を駆け上がるのが北欧の醍醐味のひとつとなっている。と勝手に思っている。

サウナの入り口には、バスタオルなどをいれておくための棚があるが、そこの空きも2, 3個しかなかった。館内着とバスタオルをねじ込んでサウナに入った。

サウナの中も成人男性であふれていた。北欧のサウナはそれなりに広い3段構えの造りなっている。ふつう、その1段目(床と同じ高さなので実質床)には人がいない。2段目と3段目に腰掛けてあったまるのが世の常だ。

しかしその日は異常なまでの人混み。1段目にあぐらをかく者、腕を組み、立ちサウナを決める者などが横行していた。やむなしである。ぼくも習い、あぐらをかいたり、腕組みをしたりした。これはすごいことになったぞと思った。なんだか楽しくなってきていた。

当然水風呂にも人があふれている。水風呂なんてものは、基本、1列だ。奥からつめて、大人が4人も入れば1列目のできあがり。もちろん2列目を形成できるスペースは残されているが、そこに入ると、1列目の人が途端に動きを制限されてしまう。2列目の人が邪魔で出づらい。

しかしながら、そんな道理は通用しない日だ。人ってやつは、そこにスペースが残されている限り、水風呂に体をねじ込むのである。気づけば小さな水風呂に6,  7人浸かっているなんてこともあった。

水風呂に入った後は、当然、休憩だ。北欧には露天風呂があり、そこでは外気浴も楽しむことができる。ぼくは寝そべることができるデッキチェアがすきだ。

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こいつに寝転がってお天道様を眺めれば、一発でととのうことができる。

だがこのデッキチェア、北欧には2台しかない。おわかりだろうか。こんなに混み合った北欧では、デッキチェアを勝ち取ることなど、到底不可能なのである。

この大都会東京のど真ん中で外気浴をすると言うのは気持ちよすぎる。そのため、中には本気で眠ってしまう人も現れる。そうなってしまうと、1台の椅子が平気で15分とか30分、占有されてしまうということも起こり得るのだ。戦況は絶望を極めていた。

露天風呂に来たぼくは案の定、デッキチェアにありつくことができず、普通の椅子に座って休憩した。どうにもととのわない。座って2分も経たないうちに、再びサウナに戻った。

このときサウナに入りながら、ぼくは次のようなことを考えていた。

このサウナにたくさんの人がいるとき、水風呂や休憩している人は少ない。水風呂にたくさん人がいるならば、サウナにいる人や休憩している人は少ない。休憩している人が多ければ、サウナや水風呂に入っている人は少ない。

デッキチェアに寝そべって休憩できる可能性を高めるには、このサウナに人があふれんばかりに収容されたタイミングを見計らうのだ。その絶好の期に外に出るべきだ。

ぼくの頭は、無意識のうちに戦略を立てていた。

その戦略が功を奏し、運も後押しして、数十分後、なんとかデッキチェアにありつくことができた。青空の下でととのいながら、ぼんやりと、この体験はゲームになり得るかもしれない。そういった静かな確信が芽吹き始めていた。

To be continued...


長くなってしまったので、続きはまた次回です。

この体験をもとに作られた、サウナーたちのととのいロワイヤルがボードゲームになりました。クラウドファンディングをやっています。応援していただけるとうれしいです。

それではまたサウナでお会いしましょう。


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