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記事一覧

憧憬

憧憬

La nostalgie

濃紺のみなもに
銀の絨毯が敷かれたみちを
おまへの手をとり
駆けてゆきたかった

裳裾を垂らしたやうな
細く白い雲、澄みゆく大気

耳もとで囁かれるのは
すべてが 残酷な結末である
#詩 #散文詩 #文学

フレア

フレア

月明かりさへ霞ませる
燦然たる光は
橙色をして
ぼくの心臓を震わす

光はあまりに眩しく
肋骨のすき間を洩れ
辺り一帯に
恒星のリュクスを
撒き散らすやうだ

八月の夜の静寂に
燃え盛る星が叫ぶ

ぼくは此処にゐて
それから
恋をしてゐると
#詩 #散文詩 #文学 #8月31日の夜に #夏

憐憫

憐憫

淡色の花々を抱(いだ)きながら
それらを一つ残らず手折り
埋めてしまいたいといふ衝動

あゝ 憐れな命よ

芽吹き 開花させたるは
紛れもなく
ふたつの胸のふくらみの
深部であるといふのに
#詩 #文学 #散文詩

雲行き

雲行き

薄雲の透き間から
そっと手をのばし
あのひとの運命を
変えられないだらうか

曲がり角をやさしく手の平でふさぎ
遠く朝の光を目指して
硝子玉の転がるやうに 真っ直ぐ
#詩 #散文詩 #文学

薔薇の色は

薔薇の色は

昨夜贈られた
一輪の薔薇
この連なる花弁が
その目には何色に映るか

あなたも知っているはずだ
必ずしも薔薇が
望まれた色をもって咲かないことを

聖堂でひとり
ぼくは祈った

願わくばそれが
白薔薇であるようにと
#詩 #散文詩 #文学 #哲学

北極星

北極星

砂粒の混じる風が頬を強く打ち、熱の籠もる痛みが唇を震わせた。草木の萌える土はなく、乾いた地の裂け目は暗く深い。とうの昔に枯れ果てた灌木にとまる黒々とした鴉(からす)の群れの、虚しい笑い声だけが残響するさまは、しかし現である。
果てない荒野を歩みながら、わたしは外套の内にかくす青い星の存在を常に想った。「この仄青くかよわい光を、守ってゆかねばならないのだ。」唯一残された使命の断片と、傍若無人な風だけ

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飴色の目

飴色の目

真夏の日暮れ
夕立の前に似た
張り詰めた気配

或る少女が
ひとり空を見上げ
鈍色の髪を
濡れた空気に浸す

雨雲の狭間
遠くで稲光が
見えたような
それとも幻か

振り返りざま
少女の目が
わたしを捉えて閃いた

其れは
飴色の目であった

誰も彼もが
少女の緊迫した挙動
指し示す方角から
目を逸らせない

飴色の目は
胸の奥底に沈む
革命への憧憬
知的昂奮への欲望

掻き立てられた

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透明な祈り

透明な祈り

冬の夕べよ
どうかあの女(ひと)の
焦がすように熱く
猛る血の流れるからだを
薄暮のやさしい闇で
包んでおくれ

夜明けの澄んだ地平線を
ともに見つめ
そのみずみずしい指先に
触れられるように

冬の夜よ
どうかかの女(ひと)の
紅いルビーの唇
ヴィオロンの音を奏で
まっすぐに射る言葉を
露台を吹きわたる風で
受けとめておくれ

楽園に生るという
甘く熟れた柘榴に
震えず口づけられるように

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駆ける詩人

駆ける詩人

詩人は駆ける
天蓋の閨にねむる
貴方の烟る横顔
薔薇色の頬のため

綴られた韻律
揺れ惑う抒情
斬り閃く散文
円やかな調べ

蒼ざめた唇に
匙でそっと
親鳥のように
言葉をはこべば

たちまち
春が咲きこぼれ
冬が雪解けて
頬に紅みさす

夢見るような瞳と
慈しみのまなざしは
焚べられた詩の
其々が灯す炎

金星の差延べる手をとり
詩人は旅する
腕一杯の詩篇と倶に
銀色の砂浜を駆け

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