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ひとり語り

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わたしだけのお人形がほしい

わたしだけのお人形がほしい

ああ、わたしだけのお人形がほしい。
夢に見るほどほしい。

お洋服を着せかえて、髪を撫でて、いつも一緒にいられる分身が。

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 ドールという存在への憧憬が溢れてとまらない。どういうわけか、前々から抱いていたこの憧れが、ここ最近、どくどくと脈打ってわたしを駆り立てる。それも、リカちゃん人形のようなものではなく、「球体関節人形」といわれる類いのものがほしい。あんまり考えすぎるので、ついに夢にま

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青ざめたやさしさ、そしてASDのこと

青ざめたやさしさ、そしてASDのこと

わたしは、長年にわたって自分の“やさしさ”がコンプレックスだった。これがあるために出来ないことが多すぎるし、表現の幅も自ずと狭くなってしまうから。
それに、やさしさは社会一般の印象として“女性らしさ”に繋がる。だから、わたしのやさしさが露呈したとき、多くの人は「女の子らしくて素敵だね」と褒めてくれた。その度にわたしは、どうしようもなく悔しい気持ちで大人を見上げるしかなかった。このやさしさが「女

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少女性を愛せない

少女性を愛せない

わたしにとっての「少女性」は、必ずしも愛すべきものではない。むしろ、嫌悪の対象である。
そう気づいたのは24、5歳くらいで、遅い自我の目醒めと同時期だった。以前の自分はどちらかといえば少女趣味に近い「女の子らしい」服装を好んでいたので、この発見は意外でありショックでもあった。いかに少女らしく振る舞えるかを美徳としていたのに、自らその聖像を破壊してしまったのである。
きっかけは、今でもよく分からない

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ニコラ・ド・スタール、調和の果てに

ニコラ・ド・スタール、調和の果てに

近頃の息苦しさは梅雨の煮詰まったような空気のせいだろうか。
何だか息をするたびにごろごろとした夾雑物が肺に取り込まれ、そのまま大きな花に生長してしまいそうな季節である。

先日、初めてニコラ・ド・スタール(1914-1955)という画家を知った。
日本ではあまり知名度はないが、作品のどれもが力強さと繊細さをあわせ持つ、未だかつて見たことのない抽象画だった。

わたしは部屋に「飾れる絵」と「飾れな

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春と狂気

春と狂気

今年も花の香りを薄めた風が吹く季節になった。
あちこちで緑が芽吹き、花々が淡い色を取り戻しはじめている。
しかし、どれだけの人が気づいているのだろう。
この春の営みにおいて、無視することのできない異様な存在が、巨塔のようにそびえていることを。

それは、狂気である。

春のもつ狂気性は、生々しいどころではなく、この世で表現できうる限りのリアリティをもってわたしたちに迫り来る。

古今東西の芸術家が

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「世紀末ウィーンのグラフィック」展

「世紀末ウィーンのグラフィック」展

くすんだ黄金色の、長い手足の女性たち。
散りばめられた星や月、うっとりと閉じられた瞳。
まちがいなく同じ世紀末芸術であるのに、フランスのそれとは何かが違う——

退廃、幻想、神秘、異教といったフランスの世紀末文化に親しんでいただけに、ウィーンのグラフィックから発される力強い「大義」に圧倒されてしまった。
デザインの表象は似ているのに、決して本質は唯美主義ではない。むしろ、正反対にある。

19世紀

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ようこそ、わたしの熱い色

ようこそ、わたしの熱い色

平成最後の冬は、ちょっとエキセントリックな気分で。

髪を、生まれて初めて青色に染めた。

昼は浅瀬、夜は深い海に見える不思議な色に。

光の当たり具合によっても、その色彩は刻々と変化する。

8ヶ月間、会社に勤めて、社会と共生するということ、自分は何者であるか、あまりに考えることが多く、その中で「自分を表現する」意味を今でも追い続けている。

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行きつけの美容

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「上着の折り返しが絹だったり、昼間の靴がエナメルで塗られていたりということが、詩的才能を証明する。テオフィル・ゴーティエの髪の毛やリシュパンの深紅のベルト付きコートと同じくらい議論の余地のないやり方でね。」(ピエール・ルイス『三声書簡』)
わたしが服装にこだわりたい理由の原点。

わたしが夏を好きなわけ

わたしが夏を好きなわけ

今年の夏をひと言で表すなら、「轟音」。
色々なものを薙ぎ倒しながら、音を立てて猛スピードで走り去るような…
その音は耳を塞いだときに聞こえる血流の音にも似ているし、急行列車の通り過ぎる音にも似ている。

ところで、わたしが夏を好きなわけについてお話ししよう。
今まで、わたしが出会った人で好きな季節を夏と答えるのは、体感で1〜2割。

なぜ?
暑いのがいやだから。

これに尽きると思う。けれど、夏に

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