見出し画像

マチブラ×美術研究会 札幌市再開発と美術の関連性 最終部「JRタワー編」

前回の「大通・札幌駅編」に続き、「JRタワー編」です。
ついに、最終部へ突入しました。ここまで続けて読んでくださる方々には、感謝しかありません。最後まで楽しんでくださると嬉しいです。

前回の記事をまだ読んでいない方は、そちらも合わせてご覧下さい。

黎明

最初はホテル日航へ続くJRタワー東モール一階のステンドグラスを見ていきましょう。

「黎明」

街:こちらのステンドグラス、ほとんどの人が意識して見ることなく通り過ぎてしまっていると思います。ですが、この作品も再開発とは関わりが深い作品なのです。

まずは、この作品の歴史についてご紹介します。

この作品は当初、ホテル日航へ続く廊下に設置されていたのではなく、1988年(昭和63年)から西コンコースにあった地下へ行ける階段の前に設置されており、また、今のように真っ直ぐな状態ではなく、折れ曲がって設置されていました。

しかし、パセオの竣工と改修工事に伴い、2011年(平成23年)に今現在のJRタワー東モール一階へ移されました。

「こんな大きな作品を移動させたのか?本当は最初からここにあったのではないのか」と思う方もいるでしょうが、このステンドグラスが西コンコースにあったことを裏付ける証拠としてパセオ郵便局の旧風景印にこの作品が写っています。作品中央にいる三匹のフクロウがしっかりと写っていますね。

パセオ郵便局旧風景印(郵便局HPより引用)

札幌駅にある美術作品の中では唯一引っ越しを経験しているそんな彼が場所を変えても見守ってきたものは、通勤通学をする人々ではないでしょうか。

1988年から2010年までは札幌駅で電車から降りて地下鉄へ乗り換える人々を、2011年から今現在まではJRタワーでバスターミナルを利用して通勤通学する人々を見守ってきたと考えます。

新幹線延伸でバスターミナルがなくなることによって、通勤通学する人々を見守ることはなくなりますが、これからはエスタ跡地に建設される地上43階建ての商業施設「マリオット」へ行く人々を見守ることになると思います。

彼はまた新たな風景を見ることになるため、彼の前を通りかかった際には、「これからも頑張れ」と心の中でエールを送りながら通ってみてはいかがでしょうか。

【マチブラメモ】パセオがなくなる2022年(令和4年)の9月までの風景印のデザインには札幌駅南口とJRタワーと特急スーパー白鳥(現:特急ライラック)が写っていました。

2022年9月までのパセオ郵便局風景印(郵便局HPから引用)

それでは、美術研究会さんにバトンタッチします。

美:この作品は、國松登さんという画家によって作られました。

國松さんは函館出身で、明治から大正にかけて何度も起きた函館の大火や戦争、戦後の混乱期を生き抜いてきました。そして、画家として北海道の気候や風土を題材とした作品を多く生み出しました。

まずは、

作品全体

をじっくり見てみましょう。

この作品はおよそ縦4メートル、横13メートルの非常に大きなステンドグラスで、『氷上のひと』『氷人』などと一連の作品です。

作品には、海や山、川、湖、木々の自然と、動物たちが描かれています。

暗く重い海と陰はまるで、北海道の長い冬のようで、永遠のようにも感じます。しかし、月明かりが真っ白な雪や水面の暗闇に光を差し、長い冬にも終わりがあるのだという希望を与えてくれる、そんな印象を抱きました。

國松さんはこの作品について「北国の冬は瞑想の季節であるが、春を育む期待の季節でもある。やがて訪れる北方の黎明期にほのかな光と希望が生まれ、21世紀がほのぼのと明けようとしている」と語っています。

北海道の苦しい時代を生きた國松さんの見てきた「黎明期の北海道」が表現されているということなのですね。

作品全体を見た後は、

細部

にも注目してみましょう。

細部その1
細部その2

通常ステンドグラスは、色のついたガラスを切り、組み合わせて作ります。この作品もおそらく大部分はそのように作られていると思うのですが、近づいてよく見てみると、一部に色むらのある部分や、まるで筆で描かれたような跡のついた部分があるのがわかります。

これはあくまで予想ですが、そのような部分は國松さんが自ら着色あるいは色ガラスにさらに色を塗るという方法で作られたのではないかと考えています。

ステンドグラスは平面であり、繊細な表現が難しいものです。しかし國松さんのこのような工夫が、作品に繊細さや動きをもたらしているのだと思います。ぜひ細部まで注目して見てみてください。

direction

最後は、JRタワー上層階からしか見えない作品である「direction」を見ていきましょう。読みは「ディレクション」、日本語訳で「方角」です。

「direction」

美:こちらの作品は、JRタワー開業に合わせ、JRタワーホテル日航札幌の客室から見えるように考案された、菊竹雪さんの作品です。

旅行者が街の方向性を一目で理解できるよう、市内の観光地や道内の主要都市がサインとしてデザインされています。

菊竹さんはグラフィックデザイナーとして、建築や空間、環境を活用した、パッと目を引くようなデザインを多く手掛けています。

この作品は、JRのホーム上のセンター屋外駐車場にある排気塔の屋根にデザインされています。他に誰が駐車場をアートにしようと思うでしょうか。約440台収容の広いスペースを活かした菊竹さんらしい、他にはない発想に驚かされます。

作品自体は白・黒・黄の三色でシンプルなデザインですが、駐車されている車の色によって、また降り積もる雪によって違った表情を見せてくれるところもこの作品の面白さかもしれません。

それでは、マチブラ部さんへバトンタッチします。

街:札幌駅南口を「星の大時計」が見守ってきたのならば、北口は「direction」が見守ってきたと言えるでしょう。この作品は、それくらい北口を代表すると言って良いでしょう。

まずは、作品についてご紹介します。

こちらの作品も「妙夢」や「星の大時計」と同じく、2003年(平成15年)に「JRタワーアートプロジェクト」の一環で設置されました。

今までの札幌駅北口は南口のように大きな広場やアピアドームなど地下商業施設への入り口がなく存在感の薄い場所でしたが、新幹線延伸計画によって「大地の架け橋」をデザインコンセプトとした外観の新幹線ホームが来る重要な場所となりました。

新幹線延伸が完了した2030年度以降は、それまで札幌駅の顔としてメディア出演の多かった南口に取って代わって札幌駅の主役となると思います。

JRタワー展望台からの景色

そんな未来の主役をdirectionはどのような気持ちで、何を見守ってきたのでしょうか。それは、「頑張る人々」であると考えます。

札幌駅北口付近は、会社の入ったビルや北海道大学に加え、秀英や駿台などの予備校が多く、仕事を頑張りに会社へ向かう人や勉強・サークルを頑張りに大学へ行く人、志望校を目指して努力しに予備校へ向かう人がたくさんいます。さらに、北海道大学が一般入試や共通テストの受験会場になった場合は、道内外の受験生が札幌駅北口を利用します。

ですので、彼は設置されてから20年間もの間に数多くの頑張る人々を見守ってきたといえるでしょう。

今後は創成川を跨ぐほど巨大な新幹線ホームが北口に建設され、道内外からのたくさんの観光客が北口を利用すると思いますが、「direction」は今まで北口を利用してくれた「頑張る人々」を見逃さずに見守り続けると思います。

間近でみた「direction」

JRタワーの上層階からでしか姿を確認できない人見知りな彼ですが、見つけた際は「お疲れ様です」と心の中で労いの声をかけてあげてみてはどうでしょうか。

これを読んでいるあなたも、実感がないだけで受験期の時や通勤通学時に見守ってもらった可能性は大いにあると思います。

【マチブラメモ】設置されてから2年後の2005年(平成17年)には、「direction」が鉄道関連施設のデザイン性の高さを評価する「ブルネル賞」の最優秀賞を受賞しました。この賞は、世界20カ国の鉄道施設のデザイナーが参加するグループで創設された賞であり、「鉄道のノーベル賞」という異名で親しまれています。

ブルネル賞を受賞した「direction」を称える碑

まとめ(全部のまとめも含めて)

今回は札幌市再開発と美術の関連性についてピックアップしてみました。

今現在、札幌市は新幹線延伸によって様々なお店や施設が閉店・閉業・解体が進んでおり、寂しい時期に突入しつつあります。

ですが、街の移り変わりと関連性の高い美術作品はお店や施設が閉店や解体されたとしても、その場所に残り続け、その場所には確かにそのお店や施設が存在したというモニュメント的な役割を持っており、人々がそれらを思い出すときの鍵になってくれるため、寂しい気持ちを逆手に取って感傷に浸りながら街歩きをしてみてはどうでしょうか。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
1~4部までお楽しみ頂けましたでしょうか?

この記事の感想や実際に行ってみた報告などは、北海学園大学マチブラ部公式Twitter又は北海学園大学美術研究会公式TwitterのDMに送ってくださると嬉しいです。

それでは良いマチブライフを・・・・・・

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?