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【イベントレポート】まちと宿ラボ #1 まちと共に生きるこれからのお宿

2019年9月4日、第一回「まちと宿ラボ」を開催しました!

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はじめに、「まちと宿ラボ」とは?

近年世界規模で観光への機運が高まっており、昨年は訪日外国人観光客数が3000万人を突破。特にここ京都市は、季節を問わず多くの観光客で賑わっています。このような状況で「観光客の『来てよかった』と市民の『住んでいてよかった』どちらも満たされた、持続可能な地域とお宿の未来の姿とは?」「そのためにどんな取り組みができるだろう?」を考えていく「まちと宿ラボ」をスタートすることになりました。

初回のこの日は地域と調和したお宿や観光に関わられている3人のゲストをお招きし、「まちと共に生きるこれからのお宿」というテーマでお話を伺いました。


ゲストのお話:京都観光まちづくり公社代表理事 
森川 哲巳(もりかわ てつみ)さん

01_森川さん

最初にお話頂いたのは不動産販売や宿泊施設経営を経て、現在は京都市民泊アドバイザー・京都府観光アドバイザーを務めながら、京都観光まちづくり公社代表であられる森川哲巳さんです。

森川さんは清水寺の参道にある「京都東山荘」や、市内の観光名所近隣で一棟貸しのお宿を複数営まれています。趣ある空間で京都滞在ができることから、人気を集めています。

02_森川さん東山荘

それらを経営する中で数年前、「お宿だってこの京都の一員。観光客ばかりじゃなく、まちのことにも目を向ける必要があるんじゃないのか?」という疑問が生まれてきたそうです。

同じタイミングで偶然「京都市未来まちづくり100人委員会」の第5期に参加。幅広い市民が集まって、京都の未来について議論・提言・実践まで行う経験を得ます。

100人委員会を通して、市民自ら集まって知恵や意見を出し未来を作っていくまちづくりというプロセス、そして心強い仲間と出会った森川さん。そんな100人委員会の仲間と、以前より参加されていた京都観光未来塾のメンバー、京都大学×京都市の観光経営学チームと共に、京都観光とまちづくりの振興を通じて京都全体の発展を目指す「京都観光まちづくり公社」を立ち上げました。

03_森川さんまちづくり公社スライド

現在、京都観光まちづくり公社では空き家活用事業を行われています。学区ごとの空き家情報を集約するだけでなく、空き家活用希望者と所有者の間に入り、活用希望者には地域の魅力と共にルールについても理解した上で入居するよう働きかけたり、所有者には利活用の方法を提案したりしています。

そういった活動のかいあって入居者が地域の活動に積極的に参加する姿がみられる等、所有者も安心して貸し出すことができるようになっています。

04_森川さん空き家事業スライド

また、民間初の観光案内所設置に向けた準備の真っ最中だそう。有識者会議「京都の新しい観光を考える会議」の一員として、宿泊施設と観光客をつなぐ大手ウェブサイト「Airbnb」と、観光客と地域がよい関係性を築くための情報と共に京都の魅力を発信していく観光案内所を目指しているそうです。


六原自治連合会事務局長 
菅谷 幸弘(すがたに ゆきひろ)さん

次にお話くださったのは長年家業と地域活動に尽力され、観光客の「排除ではなく共存」するための取り組みをされている六原自治連合会事務局長の菅谷幸弘さん。

05_菅谷さん

六原学区は周りを祇園・高台寺・清水寺に囲まれており、京都駅からもほど近いところにあります。古くからの町家が何軒も続きその間を細い路地が走って…まさに京都らしい風情あるまちなみを見ることができます。

06_菅谷さんまちなみスライド

そんな六原学区で宿泊施設が急増したのはおよそ5年前、民泊自体まだメジャーではなく世間に知られ始めている時期でした。突然のことに地域は混乱、菅谷さんのもとへ様々な声が寄せられました。

「事前説明もなしに突然宿泊施設ができた」「夜中ににスーツケースの音が響く」。そういった不安の声は募り、気づけば「観光客を排除・取り締まるべきではないか」という空気が地域一体に広まっていました。

一方、2020年の東京オリンピックもあり観光ブームはしばらく継続が見込まれること、観光ブームによる恩恵の一端を受けていることも確かです。「排除だけではない、違う発想が必要かもしれない」と考えた菅谷さん率いる町内会は龍谷大学のゼミとタッグを組み、六原学区における観光の実態調査に乗り出しました。

07_菅谷さん部会スライド

調査によって地域内宿泊施設の約半数が未認可であること、更には不安の声を上げていた地域の人も未認可民泊を運営したこと等が判明します。

また、地域の声を詳細に聞いてみると「観光客とそのホストの顔がわからない」「連絡先が不明確」等顔の見えない関係性への不安が浮き彫りになると同時に、観光客と交流することに興味がある人も一定数いることがわかりました。

そこで、菅谷さんたちは「排除ではなく顔のみえる関係性づくり」へと舵を切ります。宿泊施設開業にあたって、まず地域住民の声を町内会が集約・事業者(宿泊施設運営者)へ伝達、地域と事業者間で協議・合意形成を経て開業というように、丁寧にやりとりを重ねていったのです。

そうして出来上がったのが1階がカフェ、2階が宿泊スペースというゲストハウス「青春画廊」。オーナーは地域のよく知った人がつとめ、観光客と地域の交流や地域活性化につながる仕組みを取り入れています。

08_菅谷さん青春画廊

このような合意形成のプロセスを支援する冊子も作成。民泊の現状や設置に当たり地域の人が気になる点に加えて、「こんなときどうする?」というトラブル対応までまとめられています。

09_菅谷さん六原冊子

「頭を抱えることばかりだった観光ブームだが、もしかしたら大きな可能性も秘めているのでは」と、菅谷さん。現在は地域内雇用の創出や新しいサービス発掘など、地域に還元されることが生み出せないか模索されているそうです。


HOSTEL NINIROOMオーナー 
西濱 愛乃(にしはま あいの)さん

最後に、当日の会場でもありました『HOSTEL NINIROOM』のオーナーの西濱愛乃さんからお話を伺いました。

10_西濱さん

設計事務所でデザインの仕事をされていた愛乃さんと、企業で宣伝・広報をされていた妹の萌根(もね)さん。異なる視点から「宿」を眺めていた姉妹によって「友達の部屋に遊びに行く感覚で、何度も訪れたくなる場所を作ろう」とできたのが「NINIROOM」です。(「NINI」は、ご近所さんから西濱さん姉妹がそう呼ばれているとか)

11_西濱さんNINIリノベ

長らく空きビルとなっていた築40年の印刷会社ビルをクラウドファンディングで184名・355万円の支援を得てホステルへリノベーションし、2017年の12月にオープン。単なる宿泊施設にとどまらず、こころに残る体験ができたり、思いや活動の交流がうまれる場所として運営されています。

実際に、お客さんと話していると長野で同じく宿泊施設を営んでいる方だと発覚!半年後の昨年10月、NINIROOMで長野の食材を堪能する「羊ナイト」が開催されました。

12_西濱さん羊ナイト

その他にも日曜朝に屋上を解放して行うヨガイベントなど、地域にひらけたイベントを初年度から年40回以上開催。そこには「宿泊施設を拠点に、旅行者と地域をつなげる」という想いがありました。

その取り組みの一つとして、「おとなりさんと、よそさん」というWEBメディアを運営。平安神宮や京都国立博物館等有名なスポットが多い岡崎エリアについて、「人」を通して発信。観光名所巡りとは全く違う奥深さや魅力を届けています。

13_西濱さんおとなりさんとよそさん

 そしてこの夏、NINIROOMで地域の地蔵盆を開催しました。「でもね、最初の年に地域の人に提案したら『あんたらナニモンかようわからへんし…』と断られたんですよ」と、笑いながら話す西濱さん。

しかし、地域の催しへ参加したり(運動会ではスタッフ総出で優勝に貢献!)、日々のご近所付き合いを重ねたりしていくうちに地域との距離も縮まってきたところで再アタック!「じゃあ今年はお願いしようかな?」と今年の開催が決まったそうです。

14_西濱さん地蔵盆

当日は熊野神社の蔵に眠っていた祭壇や提灯を出し(これまでは路上のため使用できず、なんと20年ぶりだったそう)、町の人が集いました。提灯は子どもが生まれたら名前を書いて奉納するもの。「ああこれは誰々さんちの娘ちゃんが生まれたときやわ」なんていう会話も聞こえてきたそうです。

「旅行者と地域をつなげる存在となる前提として、まずは地域の誇りであるNINIROOMでありたい。だから、今回地蔵盆をここで開催できたことはとても嬉しかったです」と、西濱さんは話されていました。

最近では地域を飛び出し、西陣エリアにおける新しい人との出会いや学びを提供する「西陣シネマ」の企画運営も行われているそうです。


3名のお話を伺って…

15_グラレコ

参加者の皆さんからは「自分の地域に外国人オーナーの宿泊施設が突然できた。これからどうしたらいいんでしょう。」「いまや市内に限らず京都府全域で観光客・宿泊施設が増えています。郊外ではどう対応していったらいいんでしょうか。」などの質問が上がりました。

その後、ゲストも混ざっていくつかのグループを作り感想や参加者自身のケースについてなど自由に意見交換する時間は、会場が熱気でいっぱいに。終了の合図までどのグループも絶え間なく話が続いていました。

16_ディスカッション

平日昼間にも関わらず、宿泊業の方や自治会・町内会の方、更には観光客向けのサービス提供されている方や観光の研究をされている学生さんまで、「まちとお宿」を取り巻く30名もの方にお越しいただきました。


次回は12月!(10・11月も小さく開催…?お見逃しなく!)

「持続可能なまちとお宿の未来」への関心の高さと可能性の大きさを感じられることとなったこの日。当初年内は2回程度・次は12月の予定でしたが、10月・11月も小さな企画をできないかと考えています。続報をしばしお待ち下さい!

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<まちと宿ラボ プロジェクト -地域協働・貢献型宿泊施設促進事業->

Writing by Hazuki Asai
Photography by Nobufumi Higashi
Designed by Miki Kuramochi 
Planning by まちとしごと総合研究所
sponsored by 京都市


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