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「管理者には残業代は出ない」にだまされるな!

今回のコラムで言いたいこと。それは、「課長や部長など管理職には残業代は支給されない」は必ずしも正しくはないってことです。

労働基準法第41条には「労働時間等に関する規定の適用除外」が定められています。その同条2号に基づけば、管理監督者や機密の事項を取り扱う従業員であれば、残業をしても普通残業については割増賃金を支給する必要がありません。これを「管理監督者性」と言います。確かに、労働者が管理監督者であるならば、普通残業代は支給されないということになるのです。 

しかし、だからといって、課長や部長など管理職には残業代は支給されないとすることは、正しくありません!!!

未払い残業代の請求者(=労働審判の申立人、ないし民事訴訟の原告)は、長時間労働をしなければならない程でしょうから、店長、課長、リーダー等など何らかの役職名が付いていることが多いでしょう。そうした場合、労働審判や民事訴訟になった際、未払い残業代を請求される会社(雇主)に付く代理人弁護士は、未払い残業代の存在を否認し、「(請求者、申立人、ないし原告は)管理監督者の地位にあったのだから、労働基準法第41条2号に基づけば、会社(雇主)には残業代を支払う義務はない」として反論してきます。

以下に、この反論に対抗するポイントを述べていきます。

まず、そもそも、労働基準法第41条2号に基づけば、真の管理監督者には普通残業代は支給する必要はありませんが、深夜残業代は支給されなければなりません。深夜残業とは午後10時~翌午前5時までの残業。労働省労働基準局長通達「昭和63年3月14日基発第150号」にて、深夜残業代については、管理監督者に対しても支払義務があるとされています。 

では、普通残業代については、管理監督者なら支給されないものとあきらめなければならないのか。いいえ、そんなことはありません!

それは、管理監督者の法的な範囲は思っているよりも相当に狭いからです。仮に課長や部長などの役職に就いていたとしても、そのことと法的に管理監督者であることとイコールではありません。そこで、労働審判や民事訴訟では、未払い残業代の請求者たる申立人ないし原告の「管理監督者性」が争点になってくるのです。では、法的に、管理監督者とはのどのような立場の従業員なのでしょうか。

会社法で定められる取締役や監査役などを別にすれば、会社には、通常、部門長、本部長、部長、課長、主査・係長、次長、マネージャー、店長、工場長などの役職があると思います。どこからが管理監督者なのか。その定義が明確に定められた法律はありません。会社ごとに、役職の責任も異なり、管理者か管理者でないかも違ってくるでしょう。係長を管理者とする会社もあれば、管理者は課長以上とする会社もあります。とすれば、労働基準法第41条2号が言う管理監督者をどのように捉えるべきなのでしょうか。

その点、労働省労働基準局長通達「昭和63年3月14日基発第150号」によれば、「労働基準法第41条第2号に定める『監督若しくは管理の地位にある者』とは、一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものである。」とされています。つまり、管理監督者性は、「○○課長」や「○○マネージャー」といった「名称にとらわれず」に「実態に即して判断すべき」ことが原則です。特に、「経営者と一体的な立場」との文言は意義が大きいです。単なる課長や部長の立場では、経営者と一体的と言うことには無理があるケースもあるでしょう。

なお、行政による通達は国会がつくる法律ではありませんが、実際の労働審判ないし民事訴訟では、この「昭和63年3月14日基発第150号」は常識的に重きを置かれることになると思います。

仮に読者の皆さまの役職が課長や部長や店長であったとしても、それによって即管理監督者ということにはならないのです。未払い残業代の請求を思いとどまる必要はないのです。

それでは、その「実態」をどのように捉えればよいのでしょうか。管理監督者性を明らかにするに際して「実態」を把握するために、三つの視点からのアプローチが有効です。一つ目は、勤務時間や出退勤時間の視点。二つ目は、給与・手当・待遇の視点。そして、三つ目は、職責や職務内容の視点です。

勤務時間や出退勤時間の視点とは、勤務時間や出退勤時間に裁量が与えられているか否か、ということです。例えば、朝9時前に出勤することが決まっていたり、自分の部下と同じ勤務時間であったり、遅刻に対する制裁が適用されたりといったことであれば、管理監督をする立場の者とは捉えられにくいでしょう。

給与・手当・待遇の視点とは、基本給、役職手当、時間単価などが一般の従業員と比べて優遇されているか否か、ということです。真の管理監督者であれば長時間労働をした場合でも普通残業代は支給されませんし、組織や部門としての業績・成果を期待されるでしょうから、その分基本給や時間単価が手厚かったり、当然に管理者手当が支給されていたりするでしょう。そうでなければ、管理者とはただの呼び名に過ぎなくなります。

そして、職責や職務内容の視点とは、会社の経営にかかわる重要な職務と権限が付与されているか否か、部下がいて組織を統括しているか否か、指揮命令・人事考課・採用や配属などの権限をもっているか否かということです。部下がいないとか、経営にかかわるような権限がないとか、部下や組織編成の人事にまったく関与していないとかであれば、名ばかり管理職と言われても仕方ありません。

もし読者の皆さまが何らかの役職にあって、未払い残業代を請求しようにも、会社(雇主)から「あなたは管理監督者だから残業代はでない」と言われたなら、「自分は法的に管理監督者に該当するか」を冷静かつ丁寧に考えてください。その時、上の三つの視点からアプローチしてみてください。実際には、これら三つの視点からすれば管理監督者の範囲は相当に狭くなるはずですし、ましてや「経営者と一体的な立場」ともなるとさらにそのハードルは高くなるはずです。仮に課長や部長であっても、未払い残業代は請求できるのです

労働審判や民事訴訟では、未払い残業代を支払えと主張する申立人ないし原告は、労働審判手続申立書や訴状に「自分は管理監督者ではない、何故ならば・・・」とあえて詳しくは書く必要はありません。それは、訴えを起こされた相手方ないし被告たる会社(雇主)から「答弁書」が提出されて、その中で「(申立人ないし原告は)管理監督者なので残業代支給の対象にならない」といった反論が必ず入ってくるからです。申立人ないし原告は、それを受けて初めて、「準備書面」で「自分は管理監督者の立場にはない、何故なら・・・」と反論していけばよいのです。いずれにせよ、このあたりの書面のやり取りについては、後のコラムで詳しく解説する予定です。

今回は、相当な長文になってしまいました。しかし、この管理監督者性の概念は非常に重要なものです。ぜひご理解いただき、ご自身の武器にしてもらえればと思います。次回は、固定残業代制や裁量労働制について解説したいと思います。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

街中利公

本noteは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。

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