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実は、最初、弁護士に任意交渉を依頼しました。。。

はじめに:今回と次回のnoteは私の体験談を
本業が少々忙しく、あわせてこの暑さでヤル気も相当に失せ、noteをしばらくお休みしてました。リハビリもかねて・・今回と次回のnoteでは証拠説明書の話を離れて、私が本人訴訟を選択した理由をお伝えしたいと思います。本人訴訟を検討されている方は、参考にしてみてください。

私は、以前本人訴訟で元雇主の会社に対して労働審判を申立てました。本人訴訟を選択した理由は、恥ずかしながら、当時は弁護士を代理人として雇うための着手金を支払う経済的余裕がなかったからです。しかし、実を言うと、まったくの最初から自分一人で進めたわけではありません。その経緯を説明させていただきます。

1.労働トラブルに見舞われて、その解決を弁護士に依頼することに
労働審判ということで、私と元雇主に労働トラブルが発生したわけです。ちょっと特殊な背景はあるのですが(外国に駐在していた時の出来事 ⇒「準拠法」と「裁判管轄」「属地主義」については後のnoteで解説)、簡単に言えば未払い残業代に関するものです。額にして200万円強(未払い残業代の他に未払い経費なども有り)。詳細は、もしよければ著書をお読みください。

トラブルに直面しても、当時私には訴訟の経験はもちろん法律の知識さえありませんでした。致し方なく弁護士にトラブル解決(=未払い残業代の請求)を依頼することに。個人事務所をやっている弁護士に私の代理人になってもらったのです。その時支払った着手金は15万円(税別)。成功報酬は、経済的利益があった場合はその15%とのことでした。金額は良心的です。日当や時間課金、実費の請求はありませんでした。人柄も、弁護士だからと言って偉ぶるわけでも上から目線で物言うわけでもなく、けっして悪くはありませんでした。

2.トラブル解決への段階的方針
打ち合わせを経て、その代理人弁護士が立てた段階的方針は、

① 未払い残業代の支払いを求める内容証明郵便を元雇主へ郵送する
② 未払い残業代の支払いを求めて元雇主と任意に交渉をする
③ 任意交渉で解決しなければ、裁判所へ労働審判を申立てる
(*「内容証明郵便」や「任意交渉」については第23回のnoteを参照。)

というもの。おそらく一般的なプロセスだと思います。そして、ここで重要なのは、③の裁判所まで行くことなく、できるだけ①⇒②で決着をつけるという戦略。

元雇主も訴訟沙汰にまではしたくないだろう。自分自身も訴訟はちょっと・・・。最初、私はそんな気持ちでした。弁護士も付けたことだし無難に進めてもらって、何が何でも請求額満額支払えと言うわけではなく、未払い残業代の8~9割が戻ってくればよい。それなら、弁護士費用(=着手金+成功報酬、詳細は第3回note参照)を払っても、手元に100万円を軽く超える金額が残る。そのように目論んでいました。

そのために、私が代理人弁護士に期待したのは交渉力です。私から法的に有効な証拠・材料を収集してもらって、それをもとに戦術を策定・実行してもらい、①⇒②のプロセスで有利かつ出来るだけ早期に決着をつける。雇用契約書、給与支給明細書、タイムカードという証拠三点セットもほぼ存在していました。私の主張も、法外な値段を請求したり無理難題を言ったりするわけでもありません。なので、弁護士が付いたからには、程なくしてトラブルは解決されるだろうと楽観視していました。

方針通り、まず代理人弁護士から内容証明郵便を送ります。その骨子は未払い残業代など200万円強の請求書です。私の振込先銀行口座も提示しました。しかし、10日程経ったにもかかわらず、それを受け取ったはずの元雇主の会社の代表からは連絡が来ません。仕方なく、代理人弁護士からその代表へ電話をかけます。すると、代表曰く「これから代理人を探すから、もう少し待て」。動きの遅さに私のイライラもつのってきます。数日後、やっと元雇主の代理人弁護士から私の代理人弁護士へ「回答書」がFAX送付されてきました。

「回答書」はとてもシンプル。「(元雇主には)いかなる支払い義務も存しない」と書かれています。つまり、全面否認。ちなみに、「存しない(ソンシナイ)」という用語は一般にはあまり使われませんが、法曹界ではよく使われるようです。

3.任意交渉での力関係
元雇主の全面否認はある程度予想していました。交渉術としては当然でしょう。最初は全面否認して、私に請求額を下げさせて、結局合意する額を低額に落ち着かせるという手法。

私には、経済的余裕があるわけではありません。できるだけ早くキャッシュがほしい。逆に、元雇主は会社ですから、資金的には少なくとも私よりは余裕があるはず。元雇主はそういった力関係を見越したうえで、このような交渉手法をとったのでしょう。

一方で、私には証拠(一部)がありました。未払い残業代が発生したという事実を立証することができます。元雇主はこのことを理解しているはず。ただ、任意交渉の段階では、証拠は、その能力を最大限発揮するわけではありません。しかし、もし証拠が民事訴訟や労働審判のステージへ持ち込まれるなら、状況は違ってくるでしょう。つまり、私サイドとしては、民事訴訟の提起か労働審判の申立てをちらつかせながら、元雇主に対して、任意交渉の段階で解決した方が得策だとプレッシャーをかけるわけです。

ここのところが、代理人弁護士の経験と能力の見せ所でしょう。労働トラブルの解決を③の裁判所にまで持ち込むことなく、①⇒②のプロセスで決着をつける戦略。「孫子の兵法」で言えば「戦わずして勝つ」という方針。依頼人の私としては、代理人弁護士に戦わずして勝ち切ってほしかったのです。

4.「労働審判を申立てましょう」
いずれにせよ、私からの請求への元雇主の回答は全面否認。残業自体の存在を否認するのか、それとも残業の存在は認めながらも、未払い残業代という賃金債務の存在を否認するのか、必ずしも明らかではありません。しかし、全面否認ということは、少なくとも、私が請求した金額は支払わないという元雇主のスタンスははっきりしたわけです。

対して、私の代理人弁護士はどう出ることをレコメンドするのか?請求金額を下げるのか、それとも請求金額はそのままで労働審判の申立てや民事訴訟の提起をより強くちらつかせるのか。①⇒②のプロセスで決着をつける戦略をとる限り、そのどちらかでしょう。

しかし、意外なことに、私の代理人弁護士のレコメンデーションは「労働審判を申立てましょう」だったのです。つまり、先の段階的方針で言えば③。当初①⇒②で解決しようということでしたが、いきなり戦略の変更ということになります。その理由は、私の代理人弁護士によれば、「回答書」からは元雇主に交渉の余地がまったく見られなかったこと、よってこのまま任意交渉を継続しても実りなく無駄に時間が経過するだけの可能性が高いこと、それならば原則3回の期日で終了する労働審判に持ち込んだ方が効率的、ということでした。

もう少し何かしらの交渉をしてもよいのでは・・と思ったところですが、私の代理人弁護士なりの経験に基づく考えがあったのでしょう。確かに、「回答書」の全面否認のトーンからは何か確信犯的なものも感じたので、このまま任意交渉を続けても何の結果も出ないかもしれません。それに、元雇主から請求金額を下げることを要請してきているわけではない限り、私から金額を下げる提案をすることには抵抗感もありました。完全に足元を見られると思ったからです。

そして、私は代理人弁護士を通じて、任意交渉の打ち切りと裁判所を利用して労働トラブルの解決をはかることを、元雇主へ通告するに至ったのです。

5.「二回目の着手金は払えない」
私と代理人弁護士は、管轄の東京地方裁判所へ労働審判を申立てるに際して「労働審判手続申立書」の内容や証拠について詰めていこうとしていました。私が代理人弁護士が指定する証拠を準備し、弁護士は申立てに必要な書面を作成するという役割分担でした。

そんな時、弁護士から書類と請求書が送られてきました。書類は、労働審判事件で弁護士が私の代理人になるに当たっての委任契約書です。署名捺印とのことで問題ありません。問題は請求書の方です。請求項目は着手金、金額は15万円。「あれっ、着手金って最初に振り込んだよな」。私はそう思いました。弁護士に確認すると、受任毎・審級毎に着手金を支払う必要があるとの回答。つまり、前回支払ったのは任意交渉のための着手金、今回の請求は労働審判のための着手金というわけです。

私としてはまったくの初耳。最初にちゃんと説明してもらっていて、私が聞き漏らしていたのか。実際どうだったのかわかりませんが、審級毎に着手金が必要ということは、もし労働審判で解決せず民事訴訟に移行した場合、さらにはその民事訴訟の第一審で解決せず高裁での控訴審に移行した場合、それぞれに弁護士への着手金がかかってくるということ。そうなってくると、経済的負担は相当なものとなってしまいます。

いずれにしても、私に、追加で15万円の着手金を支払うという選択肢はありませんでした。経済的に余裕がなかったこと、家族の理解が得られないことが理由です。それに、審級毎に着手金が必要なのであれば、任意交渉を経ることなく、いきなり労働審判を選択することもあり得たわけです。私は弁護士に「二回目の着手金は払えない」旨を説明し、委任できないことを告げました。元雇主へは、弁護士から「(私の)代理人を辞任した」ことが伝えられたはずです。

6.弁護士のコスパはどうだったのか
正直なところ、どうにも納得がいきませんでした。弁護士が私のトラブル解決のために行ったことは、内容証明郵便1通とFAX2通ほど元雇主へ送ったこと、元雇主の会社の代表へ1回電話をしたこと、元雇主の代理人弁護士からFAX1通を受け取ったこと、私との3回の打ち合わせ、そして私との電子メール数通のやり取りです。弁護士が元雇主へ送った内容証明郵便やFAXも、その素案は私が作成したものでした。弁護士自身は、さほど稼働していないはずなのです。

結果としては、任意交渉は失敗。そして、労働審判へ。であれば、最初に支払った着手金15万円のコスパはどうだったのか。そう思わずにはいられません。割安な金額なのでこの程度か。他にも案件を多くかかえ多忙を極める弁護士とはこういうものなのか。もちろん、弁護士もボランティアではないということも理解しています。しかし、どうしても、もやもやとしたものが残ってしまいました。

その2へ続く)

街中利公

本noteは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。



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