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「裁量労働制」で残業代をごまかされるな!

未払い残業代を請求された会社(雇い主)が労働審判や民事訴訟で「あなたとは労働契約を結んでいるわけではないので、あなたは従業員じゃない」、「あなたは課長なので、あなたは管理監督者だ」と主張してくることがあります。ともに、未払い残業代を請求された会社がその支払いを免れるための戦術。それぞれの反論ポイントは、前々回のコラムでは「労働者性」、前回のコラムでは「管理監督者性」について解説しましたので、そちらを参考にしてください。

今回と次回のコラムでは、やはり残業代の支払を避けるために会社が使う可能性がある戦術、「裁量労働制」と「固定残業代制」について説明します。

まず、今回は「裁量労働制」。これは、労働時間を実働時間で捉えるのではなく、あらかじめ決められた時間帯に労働者(従業員)が働いたとみなす「みなし労働時間」制です。みなすわけですから、出退勤時間の制約がありません。仕事の進め方や時間の使い方も労働者の裁量に任せられます。

専門業務型裁量労働制(労働基準法第38条の3)と企画業務型裁量労働制(労働基準法第38条の4)の2種類あります。それぞれの詳しい内容は厚労省のリンク先をご覧ください。ともに、適用される仕事の業種・職種が決められていますし、労働者と会社(雇い主)の間の合意が必須です。会社は、所定のフォーマットで労働基準監督署へ届け出る必要もあります。

本来、裁量労働制は、労働者が自分のペースで効率的に働き、かつ業務上の成果を出す、そして会社はその成果を正当に評価するための制度です。

しかし、問題もあります。それは、労働者にとって、みなし労働時間が設定されていることから、原則、実働時間に応じた残業が認められないということです。なので、サービス残業の温床になる可能性があるのです。

例えば、裁量労働制の労働者(従業員)が難易度の高い仕事をこなし、あらかじめ目標としたその日の成果を出すために、午前10時から休憩1時間半をはさんで午後11時まで仕事をしたとしても、みなし労働時間のみ働いたことになります。みなし労働時間が法定の1日8時間に設定されているなら、働いた時間はその8時間のみということ。つまり、普通残業代も深夜残業代も支給されないのです。逆に、仮に1日3時間の実働でも制度上は8時間働いたということになります。

ところが、人件費(営業費用)を低く抑えてより高い営業利益を出したい会社(雇い主)がこの裁量労働制を悪用するなら、実質的に、労働者には未払い残業代が発生する恐れがあります。残業代の支払いを免れることを目的として、会社が労働者に裁量労働制を適用する。みなし労働時間を仮に8時間としながらも、実際には8時間では到底終わらない業務量を課すといったケースです。

では、実際に会社が裁量労働制を悪用して、あなたに不当に長時間労働をさせようとする場合、どのようにすればよいのでしょうか。その対抗のポイントは次の通りです。

1.あなたの仕事の業種・職種は裁量労働制が適用される業種・職種か?
どのような業種や職種も、裁量労働制を適用できるというわけではありません。労働基準法上、先に述べた専門業務型と企画業務型の2種類のみ(詳細は厚労省のサイトへ)。あなたの業種・職種が裁量労働制が適用されないなら、本来的には、法定の1日8時間を超えて働いた場合は割増賃金(残業代)が支給されなければなりません。

2.あなたのみなし労働時間は8時間以内に設定されているか?
当然、みなし労働時間についても労働基準法は適用されます。労働基準法は労働時間を1日8時間以内ないし週40時間以内と定めています。もしあなたのみなし労働時間がこの法定の労働時間を超える場合、当然、超える時間に対しては割増賃金(残業代)が支給されなければなりません。

3.あなたと会社の合意はあるか? 会社は労基署に届出を出しているか?
裁量労働制は会社が勝手に適用できるわけではありません。先にも述べましたが、労働者と会社の間で合意が必要です(専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制では、その合意の形は異なります)。また、会社は、その合意を所定のフォーマットで労働基準監督署へ届け出る必要があります。もし合意がないなら、裁量労働制は適用され得ません。なので、本来、法定の1日8時間を超えて働いた場合は割増賃金(残業代)が支給されなければなりません。

4.出退勤時間が強制的に決められていないか。
繰り返しですが、裁量労働制では出退勤時間は強制されません。もし強制されるとするなら、それはもう法的に裁量労働制を逸脱しています。

裁量労働制の悪用には、会社が強引、不当、卑怯な方法を使って、裁量労働制適用の条件が満たされるように作出するといったこともあるようです。ですが、基本的には以上の4つが会社(雇い主)につっこみを入れる主なポイントです。

ただし、あなたのケースが以上の4つのどれかに当てはまって、あなたには裁量労働制は適用されないと考えられる場合、労働審判ないし民事訴訟でそれらを主張・立証したとしても、そのことがすぐに未払い残業代の存在の認定やあなたの未払い残業代の請求が認められることに結び付くか否かは、状況次第としか言えません。

少なくとも今言えることは、何よりも重要なのは、事前に裁量労働制の内容を理解しておくこと、そして裁量労働制を会社に悪用されて、あなたに未払い残業代が発生したり、後々残業代の請求が不可能になるようなことがないように注意しておくことです。

ここまでお読みいただきありがとうございました。次回は「固定残業代制」について解説する予定です。お楽しみに。

街中利公

本noteは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。

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