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労働審判の管轄と審理方法

今回は、労働審判の管轄と審理の進行について述べていきす。少し長文となりますが、ぜひ最後まで読んでいただければ幸いです。

まず、管轄の話。多種多数の裁判所があるなか、どこの裁判所に申立てをするかの定めを「管轄」と言います。労働審判の管轄は労働審判法第2条に定められていますが、次の3つのケースがあります。

第一に、相手方たる会社の本社や支店・営業所など事業所の住所を管轄する地方裁判所です。第二に、申立人が実際に勤務している事業所の住所を管轄する地方裁判所です。すでに退職した方であれば、最後に勤務した事業所の住所を管轄する地方裁判所となります。そして、第三に、申立人と相手方が合意して定める裁判所です。

労働審判の管轄について当事者が合意することは稀でしょうから(雇用契約書に管轄についての規定がある場合もあると思います)、一般的には、第二のケースに当てはまる方が多いのではないかと思います。在職中であれば申立人本人の職場の住所を管轄する地方裁判所、すでに退職された方であれば申立人が最後に勤務した職場の住所を管轄する地方裁判所に労働審判を申立てることになるでしょう。例えば、その職場の住所が東京都品川区であれば、労働審判の管轄裁判所は東京地方裁判所となります。

ちなみに、民事訴訟の管轄については、民事訴訟法第4条に「普通裁判籍による管轄」、同法第5条に「財産権上の訴え等についての管轄」として規定されています。

次に、審理の進行についてです。申立人が労働審判を管轄裁判所へ申立てて、労働審判手続申立書(← 後のコラムで改めて説明します)の副本が相手方へ郵送された後、裁判所の担当書記官が労働審判の一回目の日程調整を行います。当事者が労働審判に出廷するために裁判所へ出頭する日時です。これを期日と言います。期日は、当事者の希望もある程度反映されますので、強引に裁判所の都合だけで設定されるようなことはありません。しかし、期日は、土日祝日に設定されることはなく、必ず平日(午前10時から午後5時まで)になります。

労働審判の第一回期日にかかる時間はおおむね2時間。通常の民事訴訟であれば、法廷での口頭弁論期日では原告も被告もあらかじめ裁判所へ提出された書面をもとに「書面の通り陳述します」と言っておしまいです。実質5~10分程度。しかし、労働審判では、第一回期日の前半の1時間に、申立人が提出した労働審判手続申立書と相手方が提出した答弁書に基づいて、労働審判委員会と申立人本人、労働審判委員会と相手方本人の間で細かな質疑が行われます。事実関係や主張の確認などです。労働審判官の許可があれば、申立人と相手方が直接質疑することもあるかもしれません。前半は当事者と労働審判委員会の全員が一堂に会すので、申立人と相手方が互いに罵倒し合うようなこともあると聞きます。

訴訟なら、原告・被告ともに代理人弁護士が出廷すればよく、当事者は必ずしも出廷する必要はありません。もっとも、本人訴訟なら代理人弁護士は付いていないわけですから、もちろん本人が出廷しなければならないのですが。一方で、労働審判では、原則として申立人・相手方とも当事者本人が出廷する必要があります。仮に代理人弁護士が付いていたとしてもです。労働審判の場で、代理人弁護士が当事者本人に代わって熱弁をふるったり、プレゼンテーションをしたりする機会はほとんどありません。代理人弁護士は期日前には当事者本人へ労働審判のコツなどをレクチャーすると思いますが、実際の審理の場では一言も言葉を発しないこともあります。

第一回期日の前半の1時間を終える頃には、労働審判委員会はおおまかな心証を得ているようです。ここで言う心証とは、事実関係に関する労働審判委員会の心のなかの確信や認識と考えてください。第一回期日の後半の1時間は、労働審判委員会による調停(和解)の試みに使われます。未払い残業代に関する紛争の場合、労働審判委員会の心証にもとづいて、申立人は請求額を下げるように、相手方は支払額を上げるように、それぞれ譲歩を迫られて、当事者が納得できる妥協点を探るわけです。前半は当事者と労働審判委員会の全員が一堂に会して質疑が行われますが、後半は労働審判委員会が申立人を説得する時は相手方が会議室から退席します。また、労働審判委員会が相手方を説得する時は申立人が会議室から退席します。

第一回期日で調停(和解)が成立しない場合は第二回期日、それでも調停(和解)が成立しなければ第三回期日となります。第二回以降の期日は、基本的には、労働審判委員会による当事者の説得、調停の試みが目的とされます。労働審判委員会による事実関係に関する心証は既におおむね固まっているからです。ですので、要する時間は第一回期日ほどは長くはないはずです。それでも調停(和解)による解決に至らない場合には、第三回期日のその場で、労働審判官が口頭で「労働審判」を言渡します。訴訟で言う判決。労働審判の言渡しは、例えば「相手方は申立人に対して解決金50万円を支払う義務がある」というようなものです。後日、当事者はその調書を受領する必要があります。

なお、労働審判は原則3回以内の期日で終わりますが、例外的に第四回期日、第五回期日・・がもたれることもあるようです。

今回は長文をここまでお読みいただきありがとうございます。次回は、とくに本人訴訟の場合、民事訴訟ではなく労働審判を選択するメリットについて書きたいと思います。お楽しみに!

街中利公

本noteは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。

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