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「労働者」じゃなければ残業代は支給されない!

労働審判手続申立書の次は証拠説明書の解説に入りたいと思いますが、切りが良いので、ここで、いくつか大切な用語について説明をしておきたいと思います。今回は「労働者性」についてです。

「労働者性」とは、「法的に労働者として捉えられるための適格性」くらいの意味に考えてください。

私は、このコラムシリーズの第一回で、「労働者なら、法律で定められた一日の労働時間は8時間。8時間を超えて仕事をすると、それは時間外労働になります。時間外労働をすると、労働基準法にしたがって割増賃金(残業代)が支払われなければなりません。」と述べました。ここで大切なことは、労働基準法にしたがって残業代が支給されるのは、労働基準法で定められた「労働者」に対してです。逆に言えば、労働者でなければ残業代は支給されないのです。

では、「労働者」とは、一体誰を指すのでしょうか?

■ 正社員
■ 派遣社員
■ 契約社員
■ アルバイトやパートタイマー
■ 期間工などの期間限定の社員
■ 新入社員
■ 試用期間中の社員
■ 課長、部長、本部長などの管理職の社員
■ 創業者
■ 執行役員
■ 取締役
■ 会計参与
■ 会計監査人
■ 執行役
■ CEO、CFO、社長、専務などの経営陣
■ 理事
■ 監査役
■ 名誉会長
■ 相談役
■ アドバイザー
■ 嘱託社員
■ 委託業者の社員
■ 個人事業主
■ 株主
■ インターン
■ 国家公務員
■ 地方公務員

こうして思いつくままに適当に挙げてみても、「働く」人には実にいろいろな立場があるんだなあと改めて思ってしまいます。一つひとつこれらの意味を説明していきたいところではありますが、そうするとさすがに長くなり過ぎますし、本コラムの主旨とも異なってきます。ですので、元に戻って、労働に関係する法律が「労働者」をどのように定義しているかを見てみたいと思います。

労働基準法(第9条)では、「労働者」は「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」とされています。ちなみに、労働組合法(第3条)では、「労働者」は「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者」とされています。

似た表現ですが、少なくとも完全一致はしていません。また、学説上や行政による解釈・運用上も、両法律の定める「労働者」の間には違いがあるようです。労働基準法上ないし労働組合法上の労働者性についての裁判例が、いくつか事例として厚生労働省の資料にまとめられています。ちょっと難しそうではあるのですが、興味がある方は参考にしてみてください。

ここでは、労働基準法に則って「労働者」をとらえたいと思います。

労働基準法では、労働契約(=雇用契約)は「労働者」と「使用者」の間で締結されるものです。その時、使用者は、「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」と定義されています。ここで言う「事業」とは、労働省(現厚生労働省)の通達「昭22・9・13発基17号」によれば、「一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体」のこと。

以上をふまえれば、「労働者」とは、労働基準法上の労働契約(=雇用契約)が適用される者です。そして、「事業」を行う「使用者」の会社に対する「働く人」の専属性が強い場合、または「働く人」がその会社へ従属している場合、この労働契約が適用され、「働く人」は「労働者」ということになります。 

なお、労働基準法第116条2項では「この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない」とされ、家事のお手伝いさんや同居の親族の専従従業員は労働契約の対象から除外されることになります。 

労働契約では、労働基準法第2章に基づき、賃金の支払い・労働時間・休日など細かな規定が適用されます。また、労働契約を締結した「労働者」は、賃金からの所得税の源泉徴収、雇用保険や厚生年金保険などの適用の対象にもなります。 そういうわけで、「労働者」は、もし未払い残業代が存在するなら、それを請求する賃金請求権を持つことになるのです。

読者の皆さまに払ってもらっていない残業代がありそうな場合、以上のような観点から、まず「自分は労働者に該当するか」を考えてください。悪質な会社は「あなたは労働者ではない」との主張をしてくることもあるでしょうし、しろうとの無知をよいことに、あらかじめ労働者としての労働契約を締結していない場合(請負契約など)もあるかもしれません。そうした場合、専従性や従属性の観点から、本質的に考えてみてください。

今回は、ちょっと難しい内容になってしまいましたが、何とか読み解いていただければ幸いです。次回のコラムでは「管理監督者性」について解説したいと思います。この管理監督者性は、多くの労働審判や民事訴訟において、会社に付く代理人弁護士が反論に使用する概念です。本人訴訟を起こすしろうとにとって、必ず理解しておくべきものです。どうかお楽しみに。

街中利公

本コラムは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。



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