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「崖公園」

 私、団地の2-3に住んでたんですね。2-3って団地の中ではけっこう端っこの方だったんですけど、2-3と2-2の間に細長い公園があって、子どもの頃はそこでよく遊んでたなぁって。そこに大きな木があって、その木に登るのが好きでした。
 私の好きな場所はどこだったかな、と思って、先週、昔よく行ってた場所を見てきたんです。ちょっと思い出しに。街は、すごく変わっていたり、変わっていなかったり。なんですけどその木がまだあったのは嬉しかったですね。そこの木がやっぱり一番なんか、「たまプラーザ」というか、昔のことを思い出すと「好きな場所」っていう感じですね。けっこう大きい木で、よく登ってたのは小学生の時でした。もう今は登れないと思います。小学校の、確か高学年まで登ってましたね。小さい時はもうちょっと手前にあるちっちゃい木に登ってました。木登りが好きだったのかな。その木の下に、こう、円形のベンチがあって、そこに登って木に登る、みたいな感じだったかな。根本はふたつに分かれてて、最初低学年の時はそこまでしか行けなかったけど、だんだん上まで登れるようになって、もうそれ以上は行けないというところまでは登ってたと思います。高いところまで行くと、街がバーッと見えて。

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 その細長い公園、「崖公園」って呼んでたんですけど…、なんで崖公園だったんだろう。二街区と三街区の間の大きな通りを行かずに反対側の細い道を、2-1のところから、こう、くねくねと入って行って、木の間とかを通って行くと、左側が崖になってる。あ、だから崖公園っていうのかな、ほそーい公園があって、その突き当たりにそのおっきな木があります。崖っていうんですかね、駅から来て団地がちょっと小高くなっているところ。その公園は、多分あの辺に住んでる人しかほとんど通らないんじゃないかな。そこがうちから一番近い公園だったんですよね。だからなにかっていうと行ったりして。そこには昔、対面で椅子があって全体が揺れる箱ブランコがあって、みんなで遊ぶ時はそれで遊んだりして。それは案の定もうなかったですけど。
 子どもの頃、団地の集会所でいろいろ行事があって、多分まだ幼稚園に行くか行かないかぐらいの頃だと思うんですけど、初めてその集会所からひとりで家に帰らなくちゃいけない時があって、そしたら集会所を出てすぐに野良犬に会ってしまって。当時はいたんですね、野良犬が。野犬狩りもありましたね。で、そういう時走っちゃいけないって言われてたから、走らないようにしようと思うんだけれど、もう怖くてしょうがないので、だんだんやっぱりこう早足になって、家の隣の棟ぐらいまで来たらもうがまんできなくなって、その崖公園のところを、ばあっと泣きながら走って、こう、母親を呼んだら、母が多分そろそろ帰ってくると思ってたんでしょうね、団地の4階だったんですけど、窓をガラッと開けて私を見つけて、すぐにばあっと降りて来て犬を追い払ってくれたっていう思い出があります。母いわく、私はもう大泣きで、ママぁっていう感じだったんですけど、犬はすごく楽しそうに一緒に遊んでるっていう感じだったらしいです。

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 私は幼稚園に入る前に団地に引っ越してきて、そのまま小学校2年生まで団地にいました。その後父の転勤で、3年間別の場所に住んでたんですけど、また5年生の時に同じ場所に帰ってきて、だから前の友達とまた同じクラスになったりして。引っ越してすぐ東急ができたんですよ。だから帰ってきた時、街がけっこう変わったなって感じましたね。私が小さい頃は駅前が原っぱで、あそこの盆踊り大会に行ったり、ピクニックに行ったりとかしてたような気がします。そして高校2年生まで団地に住んでました。高校2年の時に引っ越したので、団地には十二、三年っていう感じですかね。でもなんか結局、両親はたまプラーザがやっぱり好きで、五、六年前にまた、たまプラーザに引越して来て。私は今はだいたい週1回くらい帰って来ています。 
 たまプラーザは、なんていうか、ニュータウン的な街なんだと思いますけど、私にとっては「故郷」ですね。すごくいいところだし、両親もいるのでいつか帰って来るのかなと思ってます。「田舎が恋しい」とか「田舎に帰る」っていう、その「田舎」の形としては多分だいぶ違うんでしょうけど。
 さ
っき団地を通って来る時に、夕方の団地の感じ、ちょっとこう晩ご飯の匂いとかがしてくるような感じが、凄くもう本当に懐かしいと思って、ああ、この感じがいいなぁって思いました。

笹川みちる 2

インタビュー:2019年 夏

このおはなしは2019年No.006号に収録されています。冊子をご希望のかたはご連絡ください。冊子は無料、送料180円でお送りします(5冊まで送料は同じ)。「街のはなし」プロジェクトを、スキやサポート,snsのフォローなどで応援していただけましたら大変励みになります!どうぞよろしくお願いします。

企画・文: 谷山恭子
写真:藤井本子

編集・校正: 谷山恭子・藤井本子・伏見学・街のはなし実行委員会

発刊:街のはなし実行委員会

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