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〜ラーメン・うどん・牛丼から学ぶ〜 売り上げをあげるためのCX戦略入門

※この記事は、Makuake Product Team Advent Calendar 2018 18日目の記事として書かれたものです。
普段はMakuakeというクラウドファンディングサイトにて、UXデザイナーとして働き、日々プロダクトの改善に取り組んでいます。

最近ここ日本でもCX(カスタマーエクスペリエンス)というワードをよく聞くようになり、CXをテーマにしたイベントもいくつか開催されるようになってきました。
先日も、mercariが主催しているCX Nightというイベントに参加をしてきましたが、たくさんの参加者で賑わいを見せており、CXに対する世間的な関心の高さを感じることができました。

CXはUXと響きが似ているし、両方ともユーザーの体験について考えるものなので、同じようなものだろうと個人的には思っていたのですが、どうやらまだまだ勉強不足のようでしっかりと理解ができていませんでした。

今回は、そんなCXとは何であるかを、個人的な備忘録としての文脈も含めてまとめてみました。

売り上げを上げたいならCXに取り組むべき

CX戦略は欧米を中心に広まっていますが、年々その重要性は高まっているようです。CXに関して、いくつか面白いリサーチがあるので、参考程度に引用しておきます。

 ① CXとユーザーの購買意欲に関するリサーチ (Oracle)
・米国人の86%が、より良いCXを得られるのであれば、より多くのお金を支払うと回答
・米国人の89%が、悪いCXを体験した企業との取引を停止したことがある。
http://www.oracle.com/us/products/applications/cust-exp-impact-report-epss-1560493.pdf
② CXと収益の関連性を示すリサーチ (Forrester)
CXに取り組む企業の株価は7年間で77.7%伸び、CXへの取り組みが遅れている企業では-2.5%と低いhttps://www.forrester.com/report/The+US+Federal+Customer+Experience+Index+2015/-/E-RES120202

CXは収益と相関があることがすでにわかっており、「CXは売り上げをあげるためのエンジンである」とまで言われています。欧米諸国などでは既にCXに取り組んでいる企業とそうでない企業の間には明らかな収益の差が生まれている事例も出て来ているとのことです。個人的には海外の記事で、まだCXに取り組んでいない企業のことを「CX Laggards 」と呼んでいるのが印象的でした。ちなみに、「Laggard」には、「のろま」や「ぐずぐずしている」といった意味があります。


そもそもCXとは何ですか?

では、そこまで重要と考えられているCX戦略とはどのような考え方なのでしょうか?

CXとは・・・
様々な種類の商品・サービスが溢れかえる現代において、物理的な競合優位性により顧客を獲得することは難しくなりつつあります。

心理的・感情的な価値を、体験を通して顧客に対して提供することによって、中長期的な顧客のロイヤルティを高め、収益をあげていくような戦略をCX戦略と呼びます。

これが、CXの基本的な考え方のようですが、もう少しだけ簡単にいうと、

「物理的な価値で短期的に売り上げを上げる時代は終わりを迎えました。良い体験価値をユーザーに提供して、企業の大ファンになってもらいましょう。長い間商品・サービスに愛着を持って使ってもらうことで収益を最大化しましょう。」という考え方なのではないかと解釈しています。

世間一般的に有名な「大規模な広告で大量にユーザーを集客して売り上げを上げよう」といった戦略とは対照的な考え方だなと思います。

ここから先は、この考え方についてもう少しわかりやすく見ていきます。

CXについて理解する上で大切な「コモデティ」というワード

冒頭のCXに関する説明で、

「様々な種類の商品・サービスが溢れかえる現代において、物理的な競合優位性により顧客を獲得することは難しくなりつつあります。」

という一文がありましたが、これはどういうことなのでしょうか。
この理解を助けるのが「コモデティ化」という経済用語です。簡単にいうと、最初は珍しかった商品・サービスがユーザーにとって「あたり前」になることを言います。

たとえば、インスタントラーメンとして有名なチキンラーメンは貧しい戦後の時代に発明されましたが、当時の人々にとってはまったく珍しく新鮮な商品であり、食料が足りないこともあいまって、人気が出たと言われています。
しかし、それから数十年後の現代ではチキンラーメン以外のメーカーがインスタントラーメンを販売し始め、もはや私たちにとって当たり前の商品となりました。
このように、最初は新鮮で珍しかった商品・サービスが、競合参入などによって当たり前の状態になることをコモデティ化と呼びます。

コモデティ化した業界での競争の難しさ

そして、コモデティ化が起きた業界では、競合どうしの競争が激しくなり、その中で勝つことが難しくなっていきます。
たとえば、今コンビニに行けば、カップラーメンのコーナーにはたくさんの種類のカップラーメンが並んでいます。これはまさに競合どうしが激しく競い合っている状態と言えます。そして、それぞれのカップラーメンは味や量などで物理的な競合優位性を作ろうとしているように見えますが、正直、一般的な顧客から見れば、どのカップラーメンも大差ないように見えるかと思います。「こっちのカップラーメンの方が30g多いのか!それならこれにしよう」とはならないと思います。
上記の例からもわかるように、コモデティ化が進んだあとでは、物理的な競合優位性は顧客にとってあまり価値を持ちません


物理的な価値ではなく、体験価値で競合に勝ちに行く

コモディティ化は様々な業界で進んでいます。
コモデティ化が起きたあとには、複数の製品のあいだで競合優位性をなんとか作ろうとする戦いが起きますが、正直言ってユーザーから見ればどれもそこまで大差がなく、「どんぐりのせいくらべ」状態になります。
さらに、今回触れる外食産業では、市場自体が縮小しているそうです。
競合との競争は激化する上に、物理的な価値は顧客視点から見ても意味がない。さらに市場自体は縮小中。そんな絶望的な状況を打破できるような考え方がCX戦略です。

CX戦略では物理的な競合優位性についてフォーカスすることをやめ、体験価値自体を競合優位性として捉えます。
魅力的な体験によって心を掴まれたユーザーは、ずっとこのサービスを使い続けたい!という愛着を持つようになり、何度もリピートします。そこから長期的に収益を得ようとするのがCXの考え方です。


CXに取り組むことによるメリット

企業のファンとなったユーザーから多大な売り上げがもたらされますが、CX戦略のメリットはそれだけではないようです。

新規顧客獲得が楽になる
高い満足感を得たユーザーは、友人知人や、SNSのフォロワーにそのことをおすすめしたり、自慢したりするようになります。そこから得られた新規ユーザーは、大規模な広告などでランダムに得られたユーザーよりも質が高く、新規顧客獲得のより良いサイクルを作ることができます。

カスタマーサポートのコスト削減
顧客満足度があがるような施策を実施し続ければ、自然とユーザーからのクレームが減るようになり、カスタマーサポートのコスト削減にも繋がります。

CXに取り組まないことによるデメリット

売り上げが伸び悩む
デメリットとして一番大きいことはもちろん、取り組んだ場合と比較して売り上げが上がりづらくなることです。

積極的で一貫性のある、ブランド関連のカスタマー・エクスペリエンスを提供しないことで生じる平均的な損失は年間売上の20%に上る可能性があると予測している。

その他にも、悪い体験をしたことで、顧客が別のブランドに乗り換えたりなど企業としては深刻な問題が生まれて来るリスクがあります。


響きが似ているけど、UXとCXの違いは?

さて、個人的に一番気になっていた部分です。CXとUXは響きがとても似ていますが、何が違うんでしょうか?結論からいうと、新しい概念のため明確な定義はまだない状態だと思います。
UXデザインなど新しい概念が生まれると必ず、それぞれの領域を定義しようとする流れが生まれますが、個人的には線引きについて考えすぎることは本質的ではなく、それぞれの概念から重要なことを学ぶのが大切であると感じています。

そのため今回CX定義の断定は避けますが、ひとつ個人的にしっくりと来る解釈の記事があったため引用しておきます。

引用している記事では、CXはUXよりも広いスコープで顧客の体験に向き合うと解釈しています。
UXは主にWebサイトやアプリなどの「プロダクト」を通じたユーザーの体験であり、
CXはプロダクトに限らず、カスタマーサポート、オフラインの店舗、TVのコマーシャルなど、顧客がそのブランドと関わるすべてのチャネルを対象とした際の体験について考えるようです。


CXは部署を超えて取り組まなければ意味がない

顧客が関わるすべてのチャネルにおいて改善に取り組んでいくのがCXと述べましたが、その場合には様々な部署が連携して施策に取り組まなければ本当のCX活動をすることができません。例えば最高の広告を見てサイトにランディングしたらUXが最悪だった場合、ユーザーはリテンションが高まるどころではなく離脱してしまいます。多部署で連携して、一貫した体験価値をユーザーに届けることによってCXによる売上アップは作られます。


どのように体験価値をつくるか?

今回の記事は概念の説明にとどめるため、どのようにユーザーにとって価値ある体験をつくるか、という部分に関しては細かい内容に触れませんが、重要なのはユーザーの行動や心理などについて深く調査・理解することです。ユーザーのことを知らない状態で体験価値を設計しようとしても企業目線のひとりよがりなものができあがってしまうリスクがあるからです。


【事例】 吉野家の経営方針転換

ここから先は事例の紹介をしていきます。
意外にもかの有名な吉野家も、CX的な文脈で経営方針を転換していて興味深いです。

記事の導入部分では、牛丼業界におけるコモデティ化が語られています。

当社は「早い、安い、旨い」を価値として提供し続けてきました。

しかし、「早い」を求める客はもう吉野家には来ません。本当に忙しい人は、コンビニでご飯を買ってオフィスで食べていますから。

「旨い」についても、味には特許が取れないため、小回りが利く小型店にすぐにまねされます。「安い」についても、寡占化して価格決定権を持たない限り、規模の効率性ではもはやもうかりません。

つまり、これまで吉野家の提供しているニーズでは不十分になったということです。

「早い・安い・うまい」がコンセプトとして有名な吉野家ですが、
彼らのこれまでのコンセプトは物理的な競合優位性を象徴していると思います。
しかしそのような物理的な価値の追求を続けても、ファストフードの牛丼が当たり前の存在となった現代人にはこれ以上あまり興味を持ってもらえません。そこで吉野家は新しい長期経営ビジョンを発表しています。

「ひと・健康・テクノロジー」です
「おいしいだけの牛丼を一生懸命作る時代は終わった」と記事の中で語られているのが印象的ですが、興味深い点は牛丼自体の価値ではなく、牛丼を食べることでユーザーにどのような体験価値が生まれるかについて考えるようになっている点だと思います。

 ――具体的にどうやって他社との差別化を図っていくのですか。
一つは「健康」。当社は、血糖値の上昇をおだやかにするサラシノールを含んだ「サラシア牛丼」を販売しています。ただの食事ではなく、そこに付加価値を持たせることが重要になってきます。


【事例】丸亀製麺の戦略

コモデティ化の波はうどん業界にも押し寄せています。
その中でも、うどん業界ナンバーワンの売り上げと店舗数を誇る丸亀製麺が取っている戦略にも体験価値を競合優位性にするCX的な考え方が垣間見えます。
彼らが取っている戦略は、競合と戦わずに、業務の非効率化をあえて進めるというとてもユニークなもの。
一般的なチェーン店の飲食店では、セントラルキッチンで食品を大量に加工し、各店舗のキッチンで簡単に調理するというのが一般的な運用ですが、丸亀製麺では、生地をこねる過程から麺をゆでるところまですべてお客さんから見える店頭のキッチンで行なっています。

また、麺匠と呼ばれる社員が一人だけおり、うどんの作り方を全国の店頭スタッフに伝授したり、味などの品質管理を行なっており、一見するとこれも非効率に見えます。しかし、かけるべきところにコストをかける戦略の結果として、他のチェーン店ではなかなか味わうことのできない、出来立ての本格的なうどんが気軽に味わえるという体験提供が消費者の心を掴み、業界No.1の売り上げをつくりました。



最後に

吉野家や丸亀製麺がCXというコンセプトを意識しているかどうかはわかりません。おそらくCXを意識していないと勝手に予想していますが、重要なのは、このような体験としての付加価値を競合優位性として、中長期的な競争に打ち勝っていこうとする戦略が、1つのトレンドになり始めている点だと感じます。

CXという考え方自体は、まだ発展途上の段階にあり、具体的な部分では、これからも何回かアップデートが行われていくのではないでしょうか。
数年後にはCXという言葉自体が変わっているかもしれませんが、物理的な面で商品やサービスが飽和している現代社会において、形は変わっても同じ戦略は残り続けるのではないかと予想しています。

そういった意味でも、今後もCXについてはウォッチしつづけたいと思います。

参考書籍

本記事を執筆する際に参考にさせていただいた書籍の紹介です。
野村総合研究所の方が、CX経営戦略について豊富な事例を交えつつも、読みやすくまとめられている書籍です。日本語でCXについて書かれている書籍はまだ少ないため、入門書として最適です。


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