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【MMU2019】 はじめてますか? ファンベース - 佐藤 尚之

「人をつなげ、未来を創る」をテーマに開催された株式会社yappli主催の「Mobile Marketing Update」
今回はそのオープニングセッションとなった「はじめてますか?ファンベース」のイベントレポート。

3行でまとめると

時代的背景などから、今後の日本で新規顧客を獲得することは難しくなるため、すでに商品やサービスについている固定のファンを大切にしていく重要性が増してくる
そのようなファンベース施策を進めていくために、商品やサービスの情緒的価値をユーザーに伝えていくなど、いくつかの重要なポイントがある。
いざファンベースを始める際に、まず最初にすべきことは実際にファンに会って、ファンのことをよく知ることだ。

そもそもファンベースとは何か
ファンを大切にし、ファンをベースにして、中長期的に売上や価値をあげてく考え方

登壇者について

佐藤尚之1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・ディレクターとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。2015年にはコミュニティ運営の会社(株)4thも立ち上げる。

佐藤さんは25年間電通に勤務し、さまざまな案件で「いかに新規顧客に対して企業や商品のメッセージを伝えるか」を常に考えてきた。そんな彼が今提唱する、ファンの重要性とは何か。

講演のアジェンダ

・なぜファンベースをはじめるべきなのか
・ファンベースで大切にすべきポイント
・ファンベースは何からはじめればよいか

なぜファンベースをはじめるべきなのか

ファンベースをはじめるべき理由は大きく3つ。

・時代的背景
・売上
・類友の力

【なぜファンベース1】 時代的背景
少子高齢化など様々な要因が関連し、これからの日本では消費量が減少する。企業にとっては売上をつくることが難しい時代になり始める中で、ファンという土台をもつことは企業にとって重要となる。

今後の企業にとってのビジネスを難しくする要素
【人口減少】 新規顧客の減少
【高齢化社会】人生が長くなるため、お金を使うことにより慎重になる
【独身者急増】ライフスタイルや消費行動が大きく変化
【超成熟市場】市場は商品で溢れかえり、競争は激化

このような厳しい市場の中で、競合どうしで新規顧客を奪い合うのは不毛な争いになりがち。
すでに一定数のファンがいるのであれば、彼らを一番大事にした方がいい。

【なぜファンベース2】売上におけるファンの重要性

・パレートの法則
経験則として、ほとんどの売上は上位20%程度の熱狂的なファンによって作られているという理論

・ファンのLTV最大化が売上UPへの近道
売上を増やすとなると、ついつい顧客数自体を増やす方向に考えがちです。しかし、パレートの法則などを踏まえると、熱狂的なファンたちのLTVを増やすことができれば、効率的に売上をあげることができます。

LTV最大化の事例

【なぜファンベース3】 類は友を呼ぶの力
購入意欲をかきたてたり、商品などを拡散する上で、ファンの口コミのパワーはとても強いという話です。

情報洪水の時代ともよばれる現代において、地球上に流通している情報量は世界中の砂浜の砂粒よりも数が多いと言われている。
その中で、企業がユーザーにメッセージを発してもそもそも届く可能性が限りなく低い。届いたとしても一瞬で忘れられてしまうのがオチだ。
じゃあどのようにすればいいのだろうか?

そこで重要になるのが
友達や家族など、身近な人からのオススメだ。

友達や家族など身近な人は自分たちと一緒に過ごしている時間が長いため、価値観が近く、信頼を置ける存在のため、『彼らがオススメするなら買ってみよう』という心理が働きやすい。

さらに、オススメをしてくれる身近な人が何かしらのファンであった場合には熱意のあるプレゼンをしてくれるため、単純なユーザー認知を目的とした広告施策よりも、口コミの方が購買意欲を刺激してくれる。
ファンこそが、購入意欲の高い、または質の高い新規顧客を集めてくれるといっても過言ではない。
ファンが新たなファンを呼び、自然とファンが増えていくような仕組みを作ることがファンベースのゴールでもある。


ファンベースで大切にすべきポイントは?

なぜ今ファンベースに取り組むべきかがわかったところで、つづいては実際に取り組むうえでの大切なポイントです。

・今いるファンを大切に
・機能的価値よりも、情緒的価値
・Through the community

【ポイント1】今いるファンを大切に
ファンベースを始める際によくある間違いとして、ファンの母数自体を増やそうとしてしまうことがあります。

「現状20%の人たちが熱狂的なファンであるならば、残りの80%の人たちをどんどんファンに変えればいいんでしょ?」

このような思考になってしまうと、ついつい新規顧客に向けた施策や改善を行いがちになり、場合によっては固定ファンには違和感を与えて離脱につながるリスクもあります。
新規顧客の人数を増やしていくことも大事ですが、ファンを大事にして継続的に付き合っていくことも重要です。
全員にファンになってもらうことはとても難しいです。
ファンが好きになってくれているポイントをよく考え、そこを伸ばしていくような改善・施策をうちましょう。そうすることで、「そうそう、これこれ!この商品のここが好きなのよ」という共感の気持ちが生まれやすくなり、ファンはずっと使ってくれるようになります。

【ポイント2】機能的価値よりも、情緒的価値

現在どのような市場も成熟しており、機能的価値で競合と差別化をはかることは非常に難しい。仮に物理的な競合優位性をつくれたとしても、後発商品がすぐにそのUSP(Unique Selling Point)をコピーし、さらに安い価格で商品を提供しようとする。
たとえばiPhoneは画期的なデバイスとして唯一無二のプロダクトとなったが、すぐにAndroidなどをはじめとする後発商品に価値をコピーされ、今となっては「スマホ」というジャンルとしてコモデティ化されてしまった。

そこで重要になるのが、「感情でファンになってもらうこと」。
たとえば商品の制作秘話や、開発者の熱い想いなどのようなストーリーを通して商品を紹介することで、ユーザーは商品に対する思い入れがつよくなり、愛着を持つようになります。
機能的な価値は、すぐに後発商品にコピーされてしまいますが、情緒的な価値を他社がコピーすることは難しいです。


【ポイント3】Through the Community

コミュニティに対して商品を売るのではなく、コミュニティを通じて商品を売りましょう。無理やりファンコミュニティに対して商品を売りつけてしまうと、ファンは気持ちが冷めてしまいます。
前述の通り、ファンは好きな商品を自発的に拡散するため、コミュニティから類友の力でさらに広い外部へ染み出していくよう意識をすること。

ファンベースは何から始めればいい?

実際にファンベースを始めたいと思った際に最初にするべきなのは、ファンに会ってファンのことをよく知ることだ。
ファンのことをよく知らずにファンベース施策を行うことは、見当違いな施策を打ってファンが離脱してしまうリスクもあるため危険である。
実際に面と向かってファンと話し、ファンは商品サービスのどのようなポイントを好いてくれているのかを把握しよう。
そこから得られたインサイトを活用することで、より精度の高いファンベース施策を行うことができる。

ファンミーティングの重要性
ファンはどのようなところに愛着や共感、信頼を感じているのかを調査するために有効な手段としてファンミーティングがある。ファンミーティングは、ファンベース施策のヒントにあふれている。
多くの企業はファンの声を聞くために、ユーザーインタビューやグループディスカッションなどの形式を使おうとするが、自然な声をその場から導き出すことは難しい。なぜならファンは基本的に言語化が得意ではなく、いきなり「弊社の商品のどこが好きですか?」と聞かれてもすぐに答えが思い浮かばないからだ。
一方ファンミーティングでは、カジュアルな形でファンどうしが商品・サービスについてアツく語り合っており、こちらから聞かなくても彼らがなぜ好きなのかというボイスに溢れている。

ぜひ、ファンに会うことからファンベースを始めてみよう。

【ファンどうしの会話をより自然にするためには】
①企業の社員は会話に介在しないこと。

社員としては質問をファンにたくさんしたくなるが、グッと我慢してファンたちの声に耳を傾ける。
②熱量の高い上位20%のファンだけを参加させること。
無料の特典目当てなどで熱量の低いファンがイベントに紛れ込んでしまうと、ファンどうしのコミュニケーションが盛り上がらなくなるため注意が必要

セッションについての感想

今となってはマスマーケティングの手法やSNSが普及し、それが当たり前となりつつありますが、流通・産業革命以前のかなり昔の時代では、商品やサービスのリーチできる範囲がとても狭く、今回紹介されていたような「ファンを大事にする」という行為が当たり前のように行われていたと思います。

ラジオやテレビ、電車や車などに代表されるようなマスマーケティングを可能にする技術の発展とともに、商品やサービスがリーチできる範囲が広くなり、徐々に「新規顧客獲得」という概念が生まれたはずですが、本来人と人がつながるという原始的な行為は人間にとってとても自然なものであり、また重要なものであるはずです。

マスマーケティングがある意味やりつくされたかのような現状で、そういった人間の本能的な要素を取り入れていくことは、差別化要素としてぜひ取り入れていきたいところです。

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