大人になってもラップが好きって話。

子供の頃、大人は音楽を聴かないんだと思ってた。そういう大人が周りに居なかった。
電車にいるサラリーマンがイヤホンをしている姿はあまり見たことがなかったし、
親戚が集まって「勉強はどう?」「大学はどこに行くの?」「仕事なにしてるの?」はあっても、「最近楽しかったことは?」「どんな音楽聴くの?」なんて個人の関心を掘り下げられたことがない。
今の私は自分が大人だと思ってた年齢で、思ってたより大人じゃない自分に恥ずかしくなる時も、こういう方向で大丈夫と安心する時もある。音楽が好きなのは、そういう自分を肯定したい時間だ。年が離れた人とも、「どんな音楽が好き?」っていう会話って、仕事やお金の話よりもっと距離が縮まるのになあ、とぼんやり思う。

私は黒人文化の学問からストリートダンスの間口に入ると、ヒップホップの畑があることを知り、日本語ラップという種を見つけた。ライブに足繁く通ったり、disc unionでレコードをしゃしゃしゃしゃしゃ(ゆっくり)とチェックしたり、MCバトルをyoutubeで漁ったりして、20そこらの「B系の若者」から気付けば30手前で見た目もさほどイケイケしていない隠れヘッズになってしまった。きっとこういうアラサーは少なくないだろう。(希望)

ヒップホップを好きになったことで「うまい飯が食えた?」(=お金は稼げたか?)についてはNOでしかない。でも、好きになったから学んだことがたくさんある。どんな人間になりたいかという参考書の本棚みたいなものにもなっている。考える物差しにもなったりする。音楽の面白さも教えてくれる。
アラサーの地味女、ヒップホップで育ったってよ。(古)

そんな中、外に出て探しに行かずとも楽しめるのは昨今のラップブームだ。

去年から放映が始まったフリースタイルダンジョン(テレビ朝日)は気付けばヘッズでない人も夢中にし、次の日の話題になる。
伝説のイベントと名高いさんぴんCAMPの復活、テレビ朝日とamebreakでヒップホップシーンの基盤を支えてきたサイバーエージェントの共同出資によるabemaTVの配信開始、スカパーの番組バズーカによる「第10回高校生ラップ選手権」の武道館での開催。最近ではラッパーが昼間のワイドショーやゴールデンタイムのバラエティでラップを披露している姿も観る。
活発なのは映像メディアだけではない。
各音楽誌、果ては現代思想のユリイカまでもがこぞって特集を組んでいた。把握してないだけでR-25とかも取り上げているのかもしれない。今年の流行語大賞にラップ関連ワードが候補に上がってもおかしくない。(願望)

では、なぜそもそもこんなに「バズ」っているのか?
ヒップホップではない。日本語ラップが。
ヒップホップとは、その歴史を掘り下げれば黒人差別・貧困、音楽史に長く深い系譜を持っているので、一言で言えば、アメリカが裏庭で研いだカウンターカルチャーの代表格であり、ラップ、DJ、ブレイクダンス、グラフィティという要素の総称。もちろん文化だから、それ自体が変わってきていることは留意しておくとしても、今、日本ではラップだけが突出して盛り上がっているというのは明白だ。そして、それは母国語で。

まず理由はラップが「言葉」だということ。何を言っているかは知識がなくても理解出来る。勿論知識がついてくると尚面白い。
日本も俳句やら短歌という独自の言葉遊び文化があるので、音楽に乗せて押韻を即興で重ねていくのを聴いているのは単純にその頭の回転の速さやユーモアに感心する。フリースタイルダンジョンについては字幕があるので、一人で夜中に「おぉ~」となることもしばしば。
もう一つの理由は、格闘技を見ているような白熱感があるからだと私は思っている。
ラップバトルは「戦い」なので、相手の見た目やスキルを馬鹿にしたり、揚げ足を取ったりして、言葉で殴り合うケンカのようなもの。
友達や恋人とケンカになると「え?そんな事思ってたの?」みたいな事を言われる場面があると思う。それの連続、もしくは全く喋った事ない相手にいきなり
「お前のスキルはパッとしねえ首カットしてさっさと死ね(出典:チプルソ)」
とかディス(批判)られるようなものだと思っていい。(予測)
それをいかに音楽に乗せてユーモラスに韻を踏みながら時に熱く時にクールに相手より上手い事を証明する為に真剣にラップをする姿に夢中になっていた時、ふと、格闘技とかに熱狂する人の気持ちと近いのではないかと思った。実際の殴り合いとは違って基本的には血がでないけど、「人が傷つけ合っているのは見るに堪えない」という人もいるし、私自身はラップバトルも格闘技も出来ない。所詮は見て楽しんでいるだけのリスナーだけど、名バウト(試合)を見たとき、その人の美しさみたいなものを見たとき、尊敬や憧れに近いものを感じる。

人は何を基盤に物事を考えて、何を軸に成長していくのだろう。子供の頃は万能スポンジ宜しく良きも悪きも吸収するけど、大人には選択肢が全て自分にある。人間関係も、身の回りに置く物や音も。

この人はどんな人?と気になったとき、真ん中には何があるのか知ることが楽しいし、自分の中にあるその輪郭も改めてなぞってみたくて、noteを始めてみた。今日はフリースタイルダンジョンですよ。(ステマではない)

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