第2話 ケイ

「そういえば、まだ名前聞いてなかったね」

「え、それマジで言ってんの?ウケるんだけど」

「え?」

「忘れたの?キミを助けたの私だよ。倒れているの見つけて、救急車呼んであげたの。あー、覚えてないか」

覚えてないもなにも。

「ああ・・・そうなんだ。ありがとう」

「キミに死なれたら困るの。キミの力が必要なの」

えっ?えっ?何?何?

「だから見張ってたの、ずっと。あ、見守って、か」

おいおい。『ナチュラル・ボーン・キラーズ』かと思ったがむしろ『インフィニティウォー』のワンダとビジョン。そんな状況から、今度はネオか。じゃあ、君はトリニティなんだね?

「え、どういうこと?」

「そのうち分かるわ。私はケイ。みんなそう呼んでる」

そのうち分かるって・・・。

追手が迫っているような緊迫感もケイから感じられない。僕たちは何から逃げているのか?それともまだ、余裕で居られる状況なのか?


雑居ビルの一室。目覚めた僕は病衣のままそこに居た。どれくらい眠っていたのだろうか。

「用意して。行くよ!」

その時一緒に居たのがケイだった。どうやってここに来た?この娘(こ)が僕をここまで運んだのか?

自分で来た?それじゃあ夢遊病か、やっぱり記憶喪失?まったく事態が飲み込めない。

「何してんの!ほら、早く!」

「ちょっ・・・どこいくの?待って!」

「いいから。早く!」

言われるがままにケイの後に続く。


医師には頭を打っているかもしれない、と言われたが痛みはなかった。だが数時間、あるいは数日、定かではないがその間の記憶が抜け落ちている。ただ眠っていただけなのか?それとも、その間に何かが起きたのか?

間違いないのは、今頃、病院では大騒ぎになっているだろうということ。

ところが、僕の携帯電話はまったくもって大人しい。

が、この時はそこまで気が回らなかった。



ようやく早朝営業のコーヒーショップが開いたばかりの時間だ。駅構内はすでに混雑しはじめている。

「行きましょ。今のうちだけかもよ、ゆっくり食べられるのは」

僕らはまだ空いている店の中に入って行った。

「そうだね、あっと言う間に満席になるだろうからね」

「そうじゃなくて」


この先、何が待ち受けるというのだろうか。良いことでは、どうやらなさそうだ。



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