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ヴィシー留学記 シャロルー(2017.3.1)

フランスに来てから、2週間が過ぎた。ヴィシーは北海道に比べて、ずいぶんと温かい。もちろん町の人は「寒い、寒い」と言っている。でも、僕にとってはずいぶんと温かい。

ただ、水曜日にシャロルーに行った日あたりから、天気は急に下り坂になった。長くて細い雨が降り、渦を巻く風が吹き始めた。僕はそのせいで少しだけ体調を崩した。今は、もう一度、自分のリズムを取り戻さなければいけないと思っている。

シャロルーはヴィシーから車で1時間ほどの場所にある、フランスの美しい村だった。とても小さく、1時間も歩けば、村の全てを把握することができた。ただ、この村を歩いていても住民に会うことはない。過疎化が進み、もはや400人ほどしか住んでいないという。この村は、かろうじて生きながらえている。

村の変遷を見続けてきたのは、1549年から時を刻み続けている教会の時計だ。彼は1秒ごとに秒針を進ませ、500年以上に渡り、この村の様子を見守り続けている。

村には中世の雰囲気が残っていた。しかし、実際によく見ると、パイプを修復したり、ペンキを塗り直した跡が所々に見てとれる。この村は、過去の美しさを保存することで自らの命を繋いでいるのだ。

もちろん、姿を変えたものも多い。かつて剣兵たちが見張っていた城塞は、今ではその役割を終え、ただの小さな村を取り囲む壁になった。敵を防いでいたはずの八つの門も現存している物は二つだけで、その門も今は常に開かれている。もう閉じることはないのだろうか。閉じる必要がなければ、それで良いに決まっている。

正直に言えば、シャロルーについて書くべきことはそれほど多くはない。それだけ小さい村だったし、それだけ短い旅だった。ただ、僕がこの村を訪れることはもう二度とないような気がするから、書かなければならない気がした。

「Adieu」

このフランス語は、もう会わないと思う人に言う、さよならの言葉だそうだ。きっと多くの人がシャロルーに「Adieu」と言うだろう。ただ一方で、一時間前には「Bonjour」と言っていたのだ。

シャロルーから帰ってくると、まだ夕方だったので、僕は少し買い物をするついでに、ヴィシーの公園をぶらぶらと散歩した。

目の前の川は穏やかに流れていた。僕は寒い中、少しだけベンチに座った。そして、ため息をつき、しばし体を丸めて、川を眺めていた。