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タイのバスの中

家族と離れて、一人でチェンマイからスコータイに向かっている。一人で海外を旅するのは2年前のフランス以来だ。

そういえば、僕はいつからか旅を必要だと思わなくなった。それは、大きな間違いかもしれないが、どこに行っても、何を観ても日本と変わらないような気がしたからだ。景色というものが昔のように胸を打たない。僕は確実に年を取っている。

おそらく昔のように(と言っても2年前だが)、旅行記は書けないだろう。僕はこの2年間、ウィスキーを飲みすぎたのと、仕事をしすぎたせいで、神経が衰えてしまった。車窓から目にとまるのは、日本にはない種類の木々や、ブタが詰め込まれたトラック、真っ黒に日焼けした物乞いの姿など。僕が見るのはそれらの表面だけである。そこから何かしらの象徴的な意味を得ることはもはやできない。

僕が大学に入ってから4年が経った。大学で僕は何を得たのだろう。きっと失ったものの方が多い。

ひたすら同じ景色が続く道でしっとりと音楽に浸っていると、ふとそんなセンチメンタリズムが顔を覗かせる。大学で僕が得たわずかなフランス語と文学の知識はタイでは何の役にも立たない。僕はこの国では完全に旅人だ。

どうして僕は家族と一緒に帰らなかったのだろう。その理由がわかり始めている。チェンマイからスコータイの道は完全な回り道(un détour)なのだ。