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自作何切る

はしがき

私も以前、少しだけ何切るを作っていたことがあります。ただ、最近はあまり作ってないので一旦、過去作をまとめておこうと思いました。

誰かの作った何切るがタイムラインに流れてくることも珍しくなくなりましたが、その作品がどんなアイデアで作られたのかという話はあまり聞きません。

これは市販の本でも変わらないと思います。その何切るの解答が正解である理由は滔々と書き連ねてありますが、これこれこういう構想で、こういう手筋を成立させようとしたとか、従来からある理論のおかしさを提起したかったとか、本当に何も切れないような何切るを見てみたかったとかそういう話には出会いません。

なので、まず自分がやってみようと思い立ち、作ったときに何を考えていたのかコメントを付けてみました。

出題

問1

2014.9.8

問2

2014.1.28

問3

2013.6.27

問4

2014.3.19

問5

2014.4.7

問6

2012.8.4

問7

2012.8.11

問8

2018.4.17

問9

2014.9.6

問10

2014.4.23

問11

2014.4.15

問12

2014.4.12

問13

2014.4.4

問14

2014.4.1

問15

2014.3.28

問16

2014.3.26

問17

2014.3.25

問18

2022.2.24

問19

2022.3.12

問20

2018.4.20

問21

2014.9.5

問22

2019.12.17

問23

2022.2.6

問24

2021.2.26

問25

2012.6.22

問26

2014.3.21

問27

2014.2.6

問28

2014.3.20

問29

2023.9.23 (2014.3.23を改作)

問30

2023.9.23(2023.2.6を改作)

問31

2023.9.27(2014.12.12を改作)

問32

2014.4.19

問33

2014.8.21

解題

問1 22224m223p222334s ドラ4p

https://nnkr.jp/8245

今まで作った中で1番気に入ってる作品です。

「三色同順と三色同刻の天秤が成り立つ形はどんなものか見てみたい」という気持ちで作りました。

カンの選択肢や、遠くに見える四暗刻、打2pの両面固定はタンヤオが不安定になる辺りが気に入っています。


問2 46678m5666p34568s ドラ7s

https://nnkr.jp/7431

「複合カンチャンを払うと何かしらデメリットが出るような手牌」というテーマで出来たやつだと思います。ドラ8sだと7sも1枚減るので打3sが成立しますが、本問だと3sは少し厳しいのかもしれません。

問3 1112m122234p1355s ドラ2m

https://nnkr.jp/7428

「一番しょぼい黄金のイーシャンテン(一通と三色の天秤の形)はどういう形か」という興味から出発して、ぐじゃぐじゃいじくってるうちに、三色とドラと三暗刻のバランスで中間点を模索してできあがった作品だと思います(後で知りましたが、黄金は良形のみを指すようでこのような形を「黄金」とは呼ばないみたいです)。

5sを赤くすると1pを切りやすくなるかもと思って悩んだ末に黒5sにした覚えがあります。

問4 1333m1234678p112s ドラ2m

https://nnkr.jp/7409

これも問3と同じ一通と三色の中間点を模索しました。こちらは一通の形が残ってます。打2sが最善と出ていますが、私は信じていません。

問5 567m4456p4577899s ドラ8s

https://nnkr.jp/7574

打4sでキットカットのように、ポキっと愚形固定が成り立たないだろうかという問題意識で作ったのは覚えています。

当時は「亜両面は大体切って良い」と言いふらしていた時期なので、その例外も探していて、この形に落ちついた記憶があります。

打4pの他に打7sや打9sもありますが、そこはドラを8sにすることで切りづらくしてみたつもりです。

問6 222334m13556p123s ドラ7p

https://nnkr.jp/5714

問2と同じで、「ドラ受け、三色のトレードオフがあるけど愚形固定できますか」と言うテーマで作った気がします。

tacosさんから「切りたい牌をドラにした何切る」とか言われたのでドラ受けにした記憶があります。

今見ると、打6pなら副露もできるしいいんじゃないでしょうか。

問7 2333577p3357789s ドラ2p

https://nnkr.jp/5710

おそらく自覚的な何切るとしては第一号作で、「ドラを切るとイーシャンテンにはなるけどゴミになる形」というイメージからとにかく牌姿を考えました。シャンテンが進むことに反対する理由は中々難しいんですけど、「本当にイーシャンテンにしてもいいのか」という問いです。

当時、「平面の一向聴なんてそんなに割れないだろ」みたいなことが言われていて、「平面一向聴で割れる何切るを作りたい」という気持ちだけで辿り着いたような記憶があります。

その後は、「平面の一向聴は何切っても大差がない」とか、「大事なのは二向聴だ」とか、「序盤の何切るこそ大事だ」と言われ始めたような記憶があります。

問8 5678m3455678p788s ドラ5m

https://nnkr.jp/14215

両面トイツに4枚形をくっつける形の優劣を調べていて、「4枚形じゃなくて三面単騎をくっつけたらどうなるのか」という問題に取り組んでいたときの副産物だと思います。

結論としては「両面トイツ+~」の形に受けたいので、(三面単騎>4連形なので)形だけなら4連形を否定する形なので、とりあえず5mをドラにして678を加えて8mを切りづらくして、タンヤオが付かないけど打8sの両面固定に平和のオプションを付けてバランスをとったような覚えがあります。

https://nnkr.jp/7606  これもそのうちの一つです。

問9 2344445m223p3456s ドラ6s

https://nnkr.jp/8241

この形も問1に似ていますが、345を見せることで悩ましくしたいと思ってました。問1と違って打2pというマックスでもないし安目も発生する、どことなくぼんやりとした選択が最善っぽいのが面白いと思っています。

問10 2345m3445p234455s ドラ6p

https://nnkr.jp/7663

4枚形の優劣を整理しているときに、どうしても四連形が強いので3者をフラットに持っていくにはどうするのがいいのかを模索しているときの副産物だと思います。4連形を一路ずらして弱くし、亜両面にはトイツ、中膨れにはドラ受けをくっつけてそれぞれを強化して、三色を混ぜて3つの形のバランスを取りました。

問11 6778m5678p567788s ドラ7m

https://nnkr.jp/7616

問10と同じようなコンセプトで作りました。打7s派が結構いたのは覚えています。この作品は期待に反して反響がありました。

やはり三色は麻雀の華なのでしょう。大した差もないとは思いますが印象には残っています。

ちなみにプロトタイプはこれ。moji君がこれの4年後に似たような鳳東だかの何切る(334456mになってる形)を挙げていたのはなぜか覚えている。

プロトタイプを7巡目時点でシミュレーターにかけると打7pが一位で、打5mとの差はなんと親で800点近くなる。

問12 112334m2345p2344s ドラ東

https://nnkr.jp/7601

問10と同じようなコンセプトでしたが、ヘッドレスに受けず、打3mで「ヘッド固定をしてくっつきに受けた方が強い形はないのか」考えて、暫定的な形を探してきて、それを徐々に弱くしていったような記憶があります。

問13 67889m677899p899s ドラ8s

https://nnkr.jp/7554

これもなんか苦労した記憶は残っていますが、何をどうしたかったのかが浮かんでこないので、そこら辺が苦労の原因だったんじゃないかと思います。

ある日のセットでリツミサンとかいう人が序盤に123だか789を鳴いてて、「なんだあの鳴きは」と思ってなめてたらジュンチャン三色ドラ1に刺さったのがめちゃくちゃ痛くて、「俺もそういう何切る作ろう」と思ったことがあったような気がします。

ジュンチャン三色にチートイを混ぜて6mや6pを入れて678も見せることでバランスを取ったのかも知れません。

似た形が問16でまた出てきます。

問14 5567m778p3456678s ドラ東

https://nnkr.jp/7515

問8と似ている形です。この778pの形が677pなら打7pで簡単です。タンヤオが不確定になることで、678とタンヤオの選択を迫るような良さがあります。

これも「わからないときは亜両面切り」の例外を探したときの形だと思います。私の何切るはここに問題意識があるのでしょう。

また、778pだと打8pでのタンヤオルートが出てきて意外に難しいかと思って色々とこねくった記憶があります。

問15 3445m3455p345667s ドラ6p

https://nnkr.jp/7497

困ったときの亜両面切りの例外を探してる時にできた作品です。今見るとほんの少しですが優位な差が出てるようにも見えます。出した直後にゴミクズさんに褒められたの覚えています。

問16 67788m899p788899s ドラ8p

https://nnkr.jp/7486

問13に似ています。チートイや鳴いてジュンチャン三色ドラ1、あるいは四暗刻まで含めた悩ましい形にしたくて、プロトタイプは789のみを使った形でしたが、6mを入れてジュンチャンを確定させなくしたら手牌がだいぶ不安定になりホッとしました。

不安定になることでホッとするというよくわからない経験をした記憶の残っている作品です。

問17 344m1234p1123345s ドラ5m

https://nnkr.jp/7451

これも四連形(4枚形最強)と亜両面(4枚形最弱)の強さ比べをしているときに作りました。

四連形を4pに毛が生えた程度にまで弱くして、123、234、345を残すことで諸々切りにくくしたような記憶がありますがよくは覚えていません。そこまで印象にも残っていません。

問18 7899m1236778p778s ドラ5p

https://note.com/madarasensei/n/nb692756e1529#cf14aee3-ff64-4841-ad5d-adffa64e4627

4枚形のnoteを書いたとき、演習問題が必要になってパラッと作った何切るです。

四連形>中膨れ>亜両面の例外形(大体亜両面切りの例外)に三色とドラ受けを混ぜました。結果、どれも大差ないことがわかりました。

問19 4556m4456p445789s ドラ3m

https://note.com/madarasensei/n/nb692756e1529#cf14aee3-ff64-4841-ad5d-adffa64e4627

上に同じで、上よりさらに4sを切りにくくして釘を差した作品です。

問20 34456788m4r56p455s ドラ5s

https://nnkr.jp/14236

完成はしていませんが、両翼noteの姉妹編として構想したハンモック形(34456788みたいな形)のnoteのために出来た作品です。

一人麻雀練習機等は副露をうまく判断できないので、そこを問題意識として、鳴いても満貫の形にしたような記憶があります。

最初にこの何切るを発表した場所で7m切りをそこそこ強硬に主張してみたのですが、大した支持は得られませんでした。当時は打7mに確信に近いものがあった気がしましたが、今見るとこちらの頭がおかしくなっていたのかもしれません。

問21 556m678p34456778s ドラ3s

https://nnkr.jp/8234

両翼形の中でウイング崩し(本問での打7s)が成り立つケースを模索した作品です。ウイング崩しは打点による例外を除けば、相方の6枚部分が複合形(例えば344555pとか、1メンツ+両面トイツないし複合トイツの形をここで複合形と定義します)だと成り立つ気がしています。

問22 34467889m456667s ドラ8s

twitterアプリ「診断メーカー(shindanmaker)」を使って何切るを勝手に作れないかと思いつき、ゴチャゴチャいじくって出てきた形を、少しアレンジした作品という意味では思い入れがあります。

診断メーカーはマンズ・ピンズ・ソーズの3種類だと上手く組み合わせることができないので、あらかじめ作っておいた「7枚形(3枚形+4枚形)+7枚形」をシャッフルさせることで14枚形を出力しました。

本問はシャンテン戻しが正着と思います。

問23 57m567p445567788s ドラ6s

https://note.com/madarasensei/n/n571aeef48dd5#a99c3dca-0551-48f4-9ad0-34f7749b30b5

両翼note内で発展問題を作ろうとして出会った形ですがあまり覚えていません。今見ても感慨はわきませんが、実戦で7sが切れるのかと考えると結構むずいのかもとは思います。

問24 224667m34677p234s ドラ3m

https://nnkr.jp/19965

3トイツnoteを作ってる最中の副産物で、なんと二向聴問題です。これも自分では気に入っています。

何切るを作ると、どうしても一向聴になってしまうので二向聴問題も増やしたいと常々思っています。

問25 3456m5667p116678s ドラ北

https://note.com/madarasensei/n/nb692756e1529#318ec550-2a7b-48df-92e6-c965468ec3b6

これは何切るを作りたいというより、4枚形(4連形、中ぶくれ、亜両面)同士の形の優劣がどうなっているのかを調べている中で出会った形です。

テーマをわかりやすくするために、4枚形の三種類を並べてヘッドをつけて、「6m6p6sのうち、どの6を切ったらいいですか?」という形で問うことにしました。

当時は難しい何切るよりも基本的な何切るを収集していて、こんなにも自分で何切るを作ることになるとは全く思っていませんでした。

これを発表してから、自分が思っている悩ましさを具体的な何切るという形で表現することの楽しさが少しだけわかった気がします。そういう意味では思い出深い作品です。

ちなみに、この形の前提や現麻p68に採用されていること等、詳しくは亜両面のnoteに書きました。

問26 12234m12235p2345s ドラ4p

https://nnkr.jp/7424

2023.9.21 問26~28を追加しました。

この問題は当初ドラ6sだったんですね。のちに4pに変更していました。2pのパターンもありますが大差はないようです。

いまだ上手くできてる感じがしませんが、一生懸命やった記録として残しておきます。

12234m1223r5p1234s ドラ2p等の修正案も考えましたがいまいちしっくりは来ていません。

問27 67889m122344667p ドラ3p

https://nnkr.jp/7419

本問は、作成時にたまたま一緒に天一でリチウムさん(黒柱勃樹という鳳東九段)とラーメンを食べていたので、この問題を聞いてみたら「先生、先生、なんすかこれーwww」と言われたのだけ覚えてます。

安定した形だとドラの3pが捕まらない形にしてみました。この構造自体はそんなに失敗はしてない気もしますが、結局、満貫ないとあんまり考える気が起きない気はしてます。愚形でしょぼいと解く気が起きなくなるのかもしれません。

問28 778m6789p5667889s ドラ西

https://nnkr.jp/7420

ツイートの②番です。これは今見ると多少良くできてるかもしれません。本問のテーマは4連形の弱さとシャンテン戻しです。

個人的には③のしょぼい愚形ドラ1の形なんだけど微妙に何切って良いのかわからない形の方が当時は好きだったんですけど、今見るとこの③はわりと何切ってもいいんじゃないかって気がしてます。

問29 r56m456p346677788s ドラ7m

2023.9.23

2023.9.23 問29、30を追加

発想としては問5と同じで、456の目を見せて打3sの「キットカットの手筋」が成立しないかを考えた作品です。

当初は赤がなくドラが北でした。その際の計算機の結論は、打7sで出来合いのイーペーコーを残して、両面両面のヘッドレスに受ける形でした。

当時は、まあそりゃそうだと思って捨てたようですが、最近見返してみて、赤を混ぜてドラ表に6mを一枚消費して7mをドラにして、打8sの一見ぼんやりとした一手の成立を目指した方が問題として面白いかもと思い変えてみました。ここに残しておきます。

問30 33456677p223334s ドラ2s

2023.9.23(2023.2.6を改作)

この問題の発端は、ずんだもんさんの牌効率動画で出た「33456677p233345s」という形を引用リツイートしながら、かつて両翼形をまとめたときに残してきた「ウイング崩し(23345667の3を切る形)はどのようなときに成立するのか」という問題を絡めて考えてみようとしたことでした。

私見では、ウイング形は基本、両面トイツをトイツ固定しておけばよくて、これは両翼形の中では例外です。両翼形自体がヘッドを作りやすい形なので(元々はヘッド流動形と呼ばれていました)、原則は両面トイツがあればそれを両面固定しておけばよいからです。

ヘッドが作りやすい形なのにわざわざトイツに固定するのはだいぶ変わってるというわけですが、詳しくは「9枚ウイングは両翼か」参照してください。

結論としては、「ウイング崩しは打点がらみを除けば、ウイング形を除いた残り6枚が6枚形を作っているときで良形のタンヤオが付きそうなとき(222334sとか)に出てくる」のではないかと思っています(結構レアです)。

翻って、「では、(ウイング形ではなく)両翼形の相方が6枚形ならどうなるのか」というのがこのときの問題意識です。ちなみに私はウイング形を両翼形の特殊な形と定義しています。

この結論らしきものも上のツイートのツリーを見てもらえばわかりますが出てません。

途中、一応は

①両翼形は原則両面固定
②ただし、両翼の相方がエントツに取れる場合はヘッド固定
③ただし、両翼の相方がタンヤオ+イーペーに取れるときは両面固定

と結論しましたが、両翼形の形の違いでまたこねくっています。

ただ印象では、良形には受けようとするけど、タンヤオが見える時はタンヤオに振れるし、タンヤオが否定されるような受け方(233444sからの打3sのような形)はそれだけで期待値がマイナスになるのでしないみたいなものを持っています。

本問はそのいくつかの比較の中でも結論が少し意外かなと思った形を取り上げてみました。

何がどう意外なのかを説明するのは難しいのですが、機械の結論は打4s、ドラ2s固定から遠くの四暗刻までを見てるようです。

しかし、334445sなら打4sでした。ドラが字牌なら結論は打3pだし、ドラ字で222334sなら打3s、223444sなら打2sです。また、打4pも結構有力になります。とても興味深いです。

問31 455679m67789p789s ドラ9m

2023.9.27 問31~33追加

これは4m切りを成立させたくてこねくり回しました。ドラを8mにするか9mにするか、マンズを456679mにするか、ピンズを56789pにするか56678pにするか、赤は入れるのかなど試行錯誤しました。

どの形も難しいですが、大雑把にわけると、789が確定してるかとドラ赤の枚数が2枚以上あるか(ドラが2枚以上あるなら9mがドラでもいらなくなる)で打牌は大きく変わるかなという印象です。

ただ、このシミュレーターは副露を考慮しないので三色ドラ3とかは実践的には補正する必要はあると思います。

問32 223456m122333p89s ドラ3p

https://nnkr.jp/7634

何切るといえば三色になってしまうので、他の形について考えた時のものだと思います。打2mをいい感じとみるか半端とみるかは微妙ですが、14p引くと微妙に困るとか、89sを頭にしたいけどどうするんだとか、喰いタンまで2手かかるので安易に1pが切れるのかとか少し考えました。

あまりぱっとした出来栄えではないけど一応、置いておきます。

問33 45579m123445678s ドラ4m

https://nnkr.jp/8167

これも反三色時の作品ですかね。テーマは一通です。

打7mの切断がシミュレーター上では成り立っているのが面白いです(実戦ではたぶん選べない)。

一通と言えば、ポッチカリロの中でデジタルの人が、345m123445678p66sドラ3mで1pを打つ方がアベレージが高いと言って打1pを選択するシーンがあるのですが、実は一通に受けた方がシミュレーターでは高く出る(子の7巡目で230点差くらい)という話を少し前に教えてもらったことがあって、くうた不正と同じくらいびっくりした記憶があります。

あとがき

・考える喜び

こんな金にもならないことを延々と、時には同じ問題に5日も6日も齧りついて、なぜこんなに没頭しているのか自分でもわからない、それが私にとっての何切るです。

詩人の山之口獏はこんな言葉を残しています。

「……ぼくはいまでも、詩作にかかると、一日に原稿用紙五枚か六枚を屑にして、百枚ばかりから、二百枚三百枚を屑にして、どうやら一篇の詩をまとめるという風なのろさなのである。それでどうにか詩みたいのになっているのだろうが、なかには、五百枚ほども屑にして、ついに出来ないものも、いくつかあったことを経験した。」

「バランスを求めるために」

借金に借金を重ね、極貧生活を送った人の言葉です。

歯を食いしばって貧乏をユーモアに換えた獏さんの姿勢には遠く及びませんが、巷間に流布する断片的な主張同士を衝突させ、「そうは言うけどこの場合どうすんの」と問うときの「この場合」を出来るだけ洗練された形で示す作業。ときに批判を含んだ問いかけを、具体的な形で表現する楽しさ。

理論と理論の間のズレ、理論と現実とのズレ、私の理論の理解のズレ。矛盾と呼ぶには大げさな、しかし飲み下すには納まりの悪い、魚の骨のようなわだかまりを、具体的に示す楽しさこそ文化発展の原動力なのではないかと思うくらいです。

貘はこう締めくくります。

……めしを食うということ、詩を書くということ、それは食わずにはいられないことであり、書かずにはいられないことなのであり、生きることそのことなのであって、それは、人間としてのバランスを求めるためなのである。

「バランスを求めるために」

何切るを作るのは生きることだなどと大仰に構えずとも、書かずにはいられない対象は誰しもあって、人によってはそれが詩だったり曲だったり、あるいは歌うことだったり、私はたまたま平面何切るを作ることでバランスを求めていたのだと思います。

無意味だの役に立たないなどと言われる平面何切るですが、そもそもの麻雀に意味があるのか、あなたの存在に意味はあるのかと問われたら、そう言う人はどう答えるのでしょう。結局は、楽しいだけで十分なのではないかと私は思うようになりました。

何切るは楽しいから考えるのであって、役に立つかはどうでもいい。

・良い何切るとは何か

「良い何切るとは何か」というテーマはたびたびタイムラインで議論されてきました。

私も以前は各打牌候補のシミュレーターの数値の差が少ないもの、簡単に言えばできるだけ打牌候補が割れる問題こそが良問だと考えていました(これらの作品は主にその頃の名残りです)。

正確に表現すれば、いくつかの打牌根拠(理論)が競合して判断が難しくなっているような問題を良い問題だと思っていました。

しかし現在は下記の意見にも概ね賛成です。

これを気付かない問題と呼ぶことにします。

結局、割れる問題になるような細かい打牌の差はほとんど結果に反映しないというか、反映しているのかもしれないけど認識ができません。そこにリソースを割くよりも、頻出する押引きやベタ降り手順、基本的な形を間違えないことの方が実力に直結するのは当然です。

各種のシミュレーターが発達した昨今ですが、「人間がぱっと見たときにこれを切りそうだなと思うかどうか」を人間自身が判断するというのは極めて人間的な作業なのかもしれません。

良い何切るとは何か。

いくつかの理論が衝突する割れる問題と、理論の適用の際に見過ごされそうな部分について教えてくれれる気付かない問題がある。

・言葉は世界を見る眼鏡

そもそも、人間には世界というものはどのように見えているのでしょうか。

アインシュタインは「何が観察できるかは理論で決まる」という言葉を残しました。

この言葉を麻雀で例えるなら、224466pというピンズの塊を見せられた人が反射的に「4p切りかな?」と予測するようなものだと思います。

「トビトイツ」という言葉を理解している人が、反射的に「真ん中を切るべきである」と判断をしているということです。現実を理論にあてはめているわけです。

人間は虚心に現実を見ることができないのです。どう言い繕っても何かしらの理論によって取捨選択をしています。この場合の「理論」は、「先入観」あるいは「方法」と言い換えても良いと思います。具体的には「言葉」のことです。

こと先入観というと反射的に悪いものだという先入観が働くかもしれませんが、先入観を持って物を見ること自体に良いも悪いもないというか、そもそも先入観がなければ対象を識別できません。

机の上の「本」や「ペン」を見て、本やペンといった言葉なしに「それ」を区別できないからです。言葉がなければ、なんとなく混然一体となった世界が眼前に広がるだけです。人間は母語という透明なメガネを通して世界を見ているのです。大事なことは、自分は透明であってもレンズを通して世界を見ているということを忘れないことです。

反面、現実は理論によって画然と整理されえないものでもあります。どうやってもどこかではみ出してきます。また、言葉と言葉の境界もボヤけています。人間はそれを便宜的に言葉で区切っているのです。

なので、「理論」に疑問を突き付けて修正を迫る何切るは理論の深化に役立つし、「理論」の適用時に見過ごされやすい条件を注意する何切るは現実への当てはめに役立つと思います。

では、「どちらも役に立つので良問です」で話が終わりなのでしょうか。

人間は理論という眼鏡を通して世界を見ている。反面、世界は理論できっちりとは収まらない。

割れる問題は理論を鍛えるし、気付かない問題は理論の現実への適用を鍛える。どちらも役に立つ。

・大事なことは何か

大事なことは、現実に存在する、ぱっと見で三角形のようにも見えるけどよく見たら四角形のような、でもよく考えたら丸くもみえる幻想的な図形に対して、これはこれこれこうだから三角形の公式を使うべきだと自分で判断できるようになることです。

何が言いたいのかというと、画然とは整理されえない現実に対して、覚えた規範を思考せずにそのまま当てはめる、量産型と揶揄される姿勢が問題だということです。

勉強とはこのあてはめができるように解釈の練習をすることです。三角形の面積の公式を覚えるのはその準備でしかありません。覚えるだけでは勉強ではないのです。これはどんなことでもそうだと思います。

この姿勢が改まらない限り、立体何切るだろうと、大差の何切るだろうと解いたところで実力の向上に繋がらない以上は役には立ちません。

なのでこの種の議論について回る「平面だから」とか、「微差だから」という部分は話の核心ではないのではないかと私は思ってます。

まあ、そもそも何切るは考えているだけで楽しいので別に役に立つ必要もありませんが。

大事なのは、現実を思考によって解釈し、公式にあてはめられるようにすることだが、何切るは楽しいから考えるのであって役に立つかどうかはどうでもいい。

・付記

本作は悩ましい形ばかりを取り上げたので、大抵は正解が1つに定まるほど有利になってはおらず、2つあるいは3つのうちのどれを切っても大して差の出ない問題が結構あります。

ただ、中には有意な差のあるものもあります。そういう問題はあえてそのままにしました。(※pystyleさんの説明によると50点未満は差がなく、数十点というのは裏ドラ表示牌が1枚多いかどうか程度の差しかない)。

精査された詰将棋には一通りの詰み手順がありますが、実戦の面白さは詰むかどうかわからないところにあります。何を切っても同じに見えるけど、いくつかは有利な解のようなものがある方が面白いと思ったからです。

人生でこれほど何切るに没頭することはおそらくもうないと思いますが、青春の一里塚としてここに記しておきます。


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