シャチハタのCMが面白い

最近、シャチハタの電子印鑑のCMを良く見ます。
唐沢寿明が出ているやつです。

最初に観た時、結構衝撃を受けました。
CMで使われるキャッチフレーズは、

『ハンコは良い!認め合う文化、趣のある印影』
『デジタル化は変化が怖い』

など、ハンコ業務の一切を否定していません。
これまでのハンコデジタル化に関するキャッチフレーズといえば、

『面倒な押印業務からサヨナラ!』
『スタンプラリー不要!ハンコ押すために出社する必要も無し!』

と、ハンコ業務を悪、とは言わないまでもこれからの時代には不要なタスクという共通認識が前提になっていました。

僕もハンコなぞ片っ端からデジタル化したほうが、いちいち「あれ?どこいった?」「あの銀行の印鑑、どっちだっけ?」「朱肉が無え」なんて煩わしさからグッバイできるので大歓迎です。

シャチハタもそのように同感する人が大勢いるだろうから、そこをメリットとして推しだしていたのでしょう。

しかし、ハンコ業務は無くならなかった。コロナ禍により多少はデジタルへの転換が図られたかもしれないが、依然として頑固に残り続けている。何故か?

おそらくシャチハタは気づいたのでしょう。
確かにデジタル化はメリットが多く、ニーズもある。ただ、そう思ってくれる人は多くが比較的若い層=デジタル化に転換する決済権を持たない人達。
一方、『紙のハンコを続けるか、デジタル化するか』決済権を持つベテラン層には今までのハンコ業務を愛し、デジタルを恐れ、嫌う人達が少なからずいる。
彼らを取り込まなければこれ以上の電子化は望めない。

そこでハンコの悪口、電子化のメリットを言わなくなった。
ハンコ文化を褒め称え、仲間の顔をして近寄った。
『(肩を組みながら)デジタル化とか良く分かんないし、今までやってきた仕事のやり方が変わったら嫌だよね。部下たちからの承認申請が無くなって、僕らの威厳も損なわれてしまうかもしれないし。ハンコ最高!ハンコフォーエバー!』
正直、ベテラン層はだいぶコケにされてると思いますよ(笑)。


この売り方はかなり特殊な例になるんじゃないかと思います。普通、製品を売ろうと思ったら『既存の製品や仕組みの問題点を挙げて共感を誘い、自社製品を使えばそれらが解決されますよ』というストーリーにします。しかし、あろうことかシャチハタの場合、『今までの仕組み最高!!』終わり(笑)。

もちろん、普通は『それじゃ今までの仕組みで良いじゃん』になる。しかし言外に『だけどさ、いい加減そろそろデジタル化も検討しなくちゃいけない空気になってきてるでしょ・・?』という共通認識を含ませているからCMになってる。すごい。

店を始めてからマーケティングを独学し始め、奥深さと実際に結果を出すことの難しさに四苦八苦しているのですが、セオリーを壊した良い例だなと思いました。


P.S.
CM中でBPS(ビジネスプロセスそのまんま)というキャッチフレーズを出しているのですが、デジタル化を望む世代的には『ふざけんな』ですよね(笑)。デジタル化するなら単純に紙&印鑑がデータになるだけじゃ大して意味なくて、いちいちたくさんの上役に承認のお伺いを立てるっていう面倒くさい業務そのものを効率化したいのに、そこが何も変わらないんじゃ意味ないだろうと。
まあ、たぶんシャチハタもそこは重々承知していて、それでもデジタルに臆病なシニア層には『大丈夫、何も変わらないから。怖くないよ。』って言わないと話聞いてくれない。だからこそ、BPSなんだと思います。どんだけ甘やかしてんだw。


いやー、お金を頂ける文章とは思いませんが、頂けるというのなら受け取らせて頂くこともやぶさかではございません。