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煩悩の犬は追えども去らず

齢60にもなると、煩悩は消えるものかと思っていた。
孔子も言う。
四十歳になって迷わなくなり、五十歳で天命を知った。六十歳で人の言葉が素直に聞けるようになり、七十歳でやりたいことを自由にやっても間違うことがなくなった。
孔子の言葉のように、人は年とともに達観していくものだとばかり思っていた。

そう思っていた。けど、車を買いなおそうかと考えだしたら、違うことに気づいた。
煩悩ばかりが、休むことなく頭の中を走り回る。煩悩はがぜん元気だ。

ここからは煩悩の声。

もう10年も乗ったから、そろそろ替えたいなあ。
何にしようか。これまで家族に合わせてワンボックスを買っていたけど、家族が少なくなってくると、自分の趣味に合う車にしたいなあと思う。最初に乗ったのはシルビアだった。もう一度スペシャリティーカーにするか。今なら、ロードスターか?二人乗りでかっこいい。けど、荷物が詰めない。視線が低いのが怖い。二人乗りに400万円は高いなあ。

運転はそんなに好きでもないし得意でもない。スピードを出すわけでもないから、小ぶりの上品な車にするか。日産キックスやオーラは上品だなあ。本当にいい車だけど、見栄が張れない。

いっそのこと外国車にするか。見栄が張れるぞ。
ドイツ車。BMW2ドアクーペ。かっこいいなあー。audi A5クーペきれいだなあ。希少性もあるし、見栄も満たされる。メルセデス。ちょっと派手さはないけど、さすがのステイタス。うーん。外車にするか。
けど、スペックで比較すると、日本車に比べて随分高いなあ。1.5倍くらいの開きがあるなあ。円安のせいでもっと開いたかもしれない。

フランスはおしゃれだぞ。あんまり走ってないし、自己満足度は高いぞ。デザインも独特だし、フランス車に乗るだけで、シャンソンを口ずさめるような気がする。
けど、フランス車って伝統的に馬力が貧弱だなあ。決して飛ばすわけでもないから、性能的には十分なんだけど、カタログ数値が弱いなあ。壊れたらどこにもっていけばいいんだ。言い訳が口から出てくる。

イタリア?だめだ。
イタリアで買える車はない。高い!!!

韓国車もかなり性能がいいみたいだぞ。ラリーでもトヨタと張り合ってる。デザインも斬新だし。でも、見栄が邪魔をする。韓国車を買うなら日本車の方がいいと思ってしまう僕の心は浅ましい。

やっぱり一周回って日本車か。ここは、ゆるぎない価値観を持つランドクルーザーにするか。ステイタスも満たされる。壊れる心配もない。よく走る。どこまでも走る。日本を代表する車だ。でも、でかいなあ。うちの家の周辺の道は狭いから大変だ。最初の角を曲がろうとすると、横っ腹をコンクリートの塀にぶつけそうだ。大きいのは運転嫌だなあ。

貧乏性の貧乏人が大きなお金を出そうとすると、見栄やらなんやら。。。

煩悩の犬は、今日も私の頭の中を元気に走り回っている。


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