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お金の定義を変える!共感資本社会の実現を目指す 株式会社eumo 代表取締役 新井和宏さん

「本当に人を幸せに出来るお金って何だろう?」
金融業界に長年携わってきたプロが目指す、新しい社会システムとは何か。昨年9月、社会課題の解決をしている会社へ投資を行う鎌倉投信を辞め、新たに新会社・株式会社eumo(ユーモ)を立ち上げた新井和宏さんにお話を伺いました。

■プロフィール
新井 和宏(あらい かずひろ)
株式会社eumo 代表取締役
ソーシャルベンチャー活動支援者会議(SVC)会長

1968年生まれ。東京理科大学卒。1992年住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)入社、2000年バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック・ジャパン)入社。公的年金などを中心に、多岐にわたる運用業務に従事。2007~2008年、大病とリーマン・ショックをきっかけに、それまで信奉してきた金融工学、数式に則った投資、金融市場のあり方に疑問を持つようになる。2008年11月、鎌倉投信株式会社を元同僚と創業。2010年3月より運用を開始した投資信託「結い2101」の運用責任者として活躍した。2018年9月、株式会社eumo(ユーモ)を設立。

1.人を本当に幸せに出来るお金とは?

記者:なぜ金融業界に関わろうと思ったのですか?そのきっかけを教えてください。

新井和宏さん(以下、新井 敬称略):うちが貧乏で苦労してきたので、お金さえあれば幸せになれると思っていました。お金に苦労したので、高校の時には家庭教師、大学は夜学に通いました。そして、お金と言えば金融機関。ということで、銀行員になったんです。

でも、金融機関にいると相続のようなケースで、仲が良かった家族が、相続になった瞬間にいきなり口すら利かなくなるのを見たんです。自分のお金では無かったものなのに「取り分が…」とか言って喧嘩をするんです。みんな「お金とは何だろう?」とは、考えてないんですよね。「もらえるものは、もらいたい」と思うだけなんです。

それに、外資系の金融機関では、みんな何千万って稼いでいるけど、戦々恐々としていて幸せそうじゃない。何千万と稼いでも、その先何もないんですよ。例えば、「ボスはフェラーリ乗っています」とか、「その上のボスは世界に1台しかない車を持っています」とか、キリがないんです。

だから、本当にお金を目的化して幸せになるためには、最終的にビル・ゲイツを抜かすしかない。その時にはじめて、地球上にある自分が持ちたいモノを全部持てるようになるかも知れないですね。でも、ビル・ゲイツも社会貢献を始めましたけど、その財産で社会はドラスティックに変わったかと言ったら、そんなに変わってないでしょ?

人はお金のために生きるのではなく、幸せのために生きるはずなんだけど。なぜ、お金の奴隷が増えていくのか。「本当に人を幸せに出来るお金って何だろう」というのが、僕の生きるテーマなんですよね。

それで、富だけでは、この社会課題は変えられない。だったら、お金の定義を変えればいいのでは。変えられる時代ですから。だから、共感のお金を創ることに決めたんです。

記者:昨年2018年9月に新しい会社を立ち上げていますが、新しく会社として立ち上げようと思ったきっかけは何だったんですか?

新井:去年の6月、サッカーワールドカップでアイスランドが活躍してたんですが、アイスランドの人口って約35万人なんですよね。それで、サッカーを見ながら僕は、35万人の経済圏だったら作れると思ったんです。鎌倉投信のお客様は、全国で約2万人、僕がいろんないい会社と付き合って、いろんな地域と付き合って、それを全部束ねたら35万人位にはなるんじゃないかと。

あの…社会を変えるのはバカが変えていきますよ。ネジが3本くらい外れていないと、ダメなんですよ。大きな勘違いからスタートするんで。鎌倉投信がそうでした。たまたま本屋さんで『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)という本が光輝いて見えて。「これは神の御告げだ!」と思って取るわけです。そこから起業ストーリーが始まるんですけど、なんとその本は、光が当たると反射して光るように出来ていたんです。だから、僕だけではなく、みんな光ってるように見えていた。大きな勘違いから生まれていくんですよね(笑)

僕は、そのアイスランドを見て「出来る」って、思っちゃったわけです。出来ると思ったら、やればいいだけでしょ。

記者:そうなんですね。とてもシンプルな理由ですね。

新井:まぁ、それ以外にもいろいろ重なるんですけどね。
今みなさんが履かれているスリッパは、オーガニックコットンで作られているのですが、これを作っている会社は鎌倉投信時代の投資先でした。そして、当時この会社は上場しないことに決めたんですけど、ベンチャーキャピタルが入っていて、株式を誰か買い取ってくれと言ってきたわけです。鎌倉投信では株式への投資が出来ず、色々模索していたのですが中々決まらなかった。買取期限は昨年の9月末でした。それで、「待てよ、俺が会社を作って、そこが買い取ればいいんじゃないか」と思って。だから、9月13日に会社を作ったんです。

鎌倉投信は創業者として一つの形を作ったので、安定した仕事があります。でも、社員の一人が「新井さん、将来、鎌倉投信は”円”というお金を運用してない会社かも知れませんね」って言ったのです。先の世界を見ているんだなと。若い彼らにこの仕組みを任せて、次行かなきゃな、と思ったわけです。

そこに、また起こるんです。昨年亡くなった、登山家の栗城史多さん。僕、祭壇の前で、「新井さん、もうチャレンジしないんですか?」って言われた気になったんです。彼はずっとチャレンジしてきたから。だから、仲間を裏切れないなと。

それに、僕の知っている素晴らしい経営者で、ヤマトホールディングス元会長の木川さん。彼の座右の銘が「為さざるの罪」というのがあって、やれるとわかっている人間がやらないことは罪だと言うこと。今まで関わってきてくれた方からのメッセージを、自分がどう捉えるのか。そこで、やることにしたんです。

記者:その時期に色んな出来事が積み重なって、本当に後押しされているような感じだったんですね。そういった中でも、決意に至った決め手は何かあったんですか?

新井:どれがと言われても分からないですよね。ただ間違いなく言えることは、そういうタイミングだったんだろうなと思います。ひとつの事を為すためには、10年かかる。昨年50歳になったんで、50歳で始めたら60歳でしょ。今なら、もう一回出来るじゃないですか。それで、「分かった。じゃあ、俺がやる!」って言っちゃったんですよね。

僕は、若い人たちが、本当に幸せになっていける仕組みを作るということを、ただただ考えているだけです。儲かるか儲からないとか、そんなのに関心はない。成り立つようにすることに、関心があるだけだから。それが持続可能であれば、それを選んで幸せになれる人が必ずいる。極論すれば、たった1人でも、幸せな人が出来れば生きた意味があるかなと思います。

2.『腐るお金』でお金の定義を変える

記者:では、お金の定義を変えるとはどういうことですか?

新井:僕は、鎌倉投信でほぼ10年かけてお金を増やすという行為について仕組み化したつもりです。でも、増やしても、増やしても、やっぱり「幸せになるためのお金とは何か?」とずっと考えているんです。その時に「お金の定義が悪い」と、思ったんです。あの、突然ですが「ビジネス」と「ボランティア」の境とは何だと思いますか?

記者:単純に考えれば報酬があるかないかっていうことですよね?

新井:そう。要は、その境はお金が決めていることになる。実は、ずっとこれに違和感がありました。鎌倉投信時代は、ソーシャルビジネスの応援をしてきたのですが、この「ソーシャルビジネス」という言葉が気持ち悪いんです。なぜなら、社会に必要とされていない会社、社会と繋がっていない会社なんて無いはずなんです。また、一部ですがお金をもらうボランティアもあります。なのに、なぜ「ソーシャルビジネス」というものが存在するのか。

つまり、社会を良くしないビジネスや団体が存在するということですよね。だから僕は、お金の定義がおかしいだろうと思いました。「社会のためになる行為がお金」になって、「社会のためにならない行為はお金にならない」って決めればいい。じゃあ、それをどうやったら作れるだろう、と考えた結果、新しい会社でやろうかなって!いっちゃってる人みたいでしょ。

記者:なるほど。お金の定義を変えるという発想は、とても面白いですね!そのための仕組みとして「共感のお金」を作るということですが、そちらについてもう少し具体的に教えて下さい。

新井共感でお金を集める株式会社を設立したいと考えました。それで、誰も支配しない組織が出来ないかと思い、議決権を全員1票にしたんです。これを「株式会社の組合方式」って呼んでいます。1票以外の金額は議決権のない株式なので、1,000万円出しても1票分、つまり100万円分しか議決権は持てません。それで既に約1億円集まっています。我々が作りたいと思っている社会や世界観に共感してくれた人が、お金を出してくれています。

記者:配当はどうなるのですか?

新井:議決権のない株式は、通常であれば円で配当するんですけど、最初から「円での配当は”ゼロ”」と謳っています。その代わり、株主優待で電子ポイントの「eumoポイント」を配ります。自分たちの経済圏で使ってもらいたいお金を普及させるためです。

また、別の角度から見ると、僕は、投資家の要求利回りを”ゼロ”にする、ということをやりたかったんです。NPOでも学校法人でも医療法人でも、社会に必要なものにちゃんとお金が回るという仕組みを作りたかったから、”ゼロ”が良かったんです。

僕は、社会のために一生懸命やっている人たちが、幸せになれないのはおかしいだろうと思っていました。今、この競争社会の中で、児童労働など行き過ぎた資本主義が横行していますが、共に創る社会にしていくためには、根本から考え方を変えなきゃいけない。競争が悪いのではなくて、競えば敗者が出るということですね。多様性とかインクルーティブとか言っていますけど、社会がそうなっていないわけでしょ。社会課題の多くは、選択肢が1個しか無いことなんです。選択できる仕組みを作っていくということが、僕は大事だと思っています。

記者:なるほど。その「eumoポイント」という新しい選択肢を作ることによって、社会の仕組みを変化させていくわけですね。

新井:そうですね。僕らの理念は、この共感資本社会というものを実現することです。僕はずっと、いい会社を見てきましたが、その共通要素は、経営者や社員たちの「美意識」「人間力」なんです。確かに経営力やビジネスモデルもありますが、それ以上にこの2つが高まれば、そこにいる人たちは幸せに生きれる可能性がどんどん高まっていくわけです。そういう人たちが増えて、ある種のコミュニティを作れれば良いと思っています。

そして、人の営みの根本は、物々交換なんです。でも、いきなり物々交換と言われても、今までお金を介在していたので分からない。なので、まずは腐るお金、関係性がないと使えないお金を作ります。「期限が来たら無くなるお金」というものを定義し、そして、貯めるお金は円に任せて、「使うお金」というのをちゃんと定義してあげる。その時に、「そのお金を使うと幸せになれる」ということが大事ですね。

僕は年を取って何が分かったかというと、人は人と付き合って、人として成長するんです。でも、今のままだったら、家にいてネットで全部届くんですよ。このままだと外に出ないで、人と付き合わない若い人たちが出来ちゃう。僕はそれが嫌でした。だから、人と人が繋がらないとお金が手に入らないとか、現地に行かないと使えないお金を作りたかったんです。

記者:出会わないと使えないというと、例えば、具体的にどういう形なんですか?

新井:これはアイデア段階ですが、基本的に構造は”リアルポケモンGO”です。色々な地域で、地域を豊かにしようとしている素晴らしい人たちの商品を買って、現地の人と出会って、eumoのアプリに写真をアップロードするとeumoポイントがもらえる。レアキャラには高いポイントを付けて、普通の店員さんにはちょっとしかポイントを付けないとか。たまたまそこの社長にあったら、「おっ、すげぇ!10,000eumoだ!」みたいな。

記者:それは、だいぶポイントというかお金というものの価値のイメージが変わりますよね。

新井:素晴らしい人に出会ってもらって、その出会いが価値になるという考え方を作っていくことですね。
それと、お金に色を付けるっていうのをやりたいです。これは、生産者を強くするために、生産者がお金を選べるという行為を作り出すんです。なぜかというと、命がけで作ったものと、農薬まみれのものと、見た目が一緒なら市場での値段は一緒になってしまう。それだと、本当に手塩にかけて、命使って作っている人たちは、どうせ分からないだろうってなるでしょ。そうなると生産者は希少性があって、数も少なくて、本当においしいものは、親族や常連にしか出さなくなりますよね。

それを僕らは、eumoというお金は、”共感”で来ている人たちだから、信頼できるネットワークなので、円を選択するのではなく、eumoというお金で取引をしてください、と。現在、eumo専用商品を全国で開発してもらっています。

記者:eumoという企業の持っている機能が、革命的なことだなって聞いていて思いました。共感資本とかeumoのポイントというものが、ある意味人間の良心に働きかけながら、全く新しい社会のプレートを創って行く感じですね。

新井:極論すれば35万人でいいんです。それを作れれば、僕は十分なんですよね。若くてお金を持ってない人でも、スマホを持っていて、写真を撮ってアップすればいいだけですから。そうすると地域に人がいなくて困るなんてことが減ると思います。素晴らしい人が地域に行って、素晴らしい人と繋がって消費してくれる、手伝ってくれる。そうすると自分の自然な力というのも芽生えてきて、もっと幸せに生きていく選択肢を作ることができる。本当はみんな社会のためにやりたいって思ってるんですよ。

3.これからの日本、そして今後の金融の役割

記者:新井さんは、今の日本社会はどんな社会だと思いますか?

新井:そうだなあ。一つは、日本人って社会システムに従うのが得意なんですよね。だからこそ、高度成長って出来たんですよ。つまり、効率をあげるための仕組みづくりは、凄く日本人は上手いんだけど、いざ飽和状態になると、何をしていいのか分からない。
これからは、自分たちが自分たちの足で生きていくべきで、そのための軸足はどこに置くのかと言ったら、やはり個々の幸せなんですよ。普通の大企業の人がうちの様な仕組みをみた時に、必ず出ると思うのが、「これでうまくいくんですかね?」ですよ。だから、僕は必ず「あなたにとっての成功の定義とはなんですか?」「あなたにとっての成長の定義とはなんですか?」って言うんです。それがちゃんとしてない人は、幸せに生きられないですよね。

記者:新井さんの考える「成功」「成長」とは何ですか?

新井:僕は、この事業を開始した時点で成功と思っています。こんなバカなことを大人が考えるんだって若い人たちに見てもらえれば。これが成り立ったら「すごいな、こいつ」って思うだろうし、これが成り立たなかったら「こういうバカやっちゃいけないんだな」って思う。それが生きるってことでしょう。僕の生きるって定義がこれなんで。だから、もうやってる時点で成功してるんですよね。あとは、本当にみんなが幸せになってもらえるように経営者として頑張るだけなので。

成長は何かといえば、人間力と幸せですよね。これをずっと追い続けていっても、誰も損をしないし苦しまないですよね。GDPや売り上げ、利益を成長の定義にしている限りにおいて、環境問題も含め、必ず何かを傷付けている。永遠に成長するっておかしいですよね。

記者:社会というキーワードに籠められた、人間の無限の可能性に対する期待であり、涙であり、という印象ですね。

新井:そうですよ。その通りです。人間はもっと美しくて、もっと透明でいいんです。だからAIが出てきたんです。人間が人間らしい仕事が出来る時代が、AIの時代です。より人間らしくならないといけない。社会の流れです。テクノロジーは、社会が豊かになるために存在している。自分の利益のために存在している訳では無いんです。

記者:利他の精神や、我ではなくて世の為・人の為の精神性は、日本が一番持っているところですよね。

新井:それはやっぱり自然災害が多い国だから、みんなで助け合おうって。それを、欧米化という名の元に切り捨てていったから、おかしくなったんだと思います。世界は今、日本的経営を求めています。元々日本人の心の中に「三方良し」があって、みんながより良くなってくれることを願う気持ちが日本人は強いんです。だから、今日本から生まれて来ないといけない。それが必ず僕はあると思っていて。

記者:ここで日本がどっちにいくかはかなり大事だなと私も思います。

新井:今やらないと間に合わないから。これから社会に出る人たちは、日本の宝なので、その宝である人たちが、少しでも幸せになっていける環境を作りたい。ほぼ祈りですね。
素晴らしいことをやっている人たちで出来る本物のネットワークを、ゆっくり着実に作っていけたらいいかなって思います。共感してくれる地域で、一生懸命やってる人たちが今集まって来ています。しっかり社会のインフラとして機能するということが、これからの金融的役割だと思うので、僕はそれをやって行きたいと思っています。

記者:本当素晴らしいなって思いますね。

新井:ありがとうございます。でもまだ何もできていないですから、素晴らしくも何ともないですよ。夢を語らせていただいているだけですから。私は、人はもっと幸せになっていいと思うんです。先進国の日本なのに、そうじゃない人が多いから。だからeumoと言う新たな仕組みで、幸せになっていただける人が増えていくことが大事だと思っています。

記者:なるほど。変えていける時代だからこそ、新しくチャレンジすることは本当に大きな意味を持ちますね。本日は貴重なお話ありがとうございました!

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*新井和宏さんに関する情報はこちら

会社情報
・株式会社eumo

出演テレビ
・2015年5月11日放送 NHK 「プロフェッショナル~仕事の流儀」出演

著書
・『投資は「きれいごと」で成功する』(ダイヤモンド社)
・『持続可能な資本主義』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
・『幸せな人は「お金」と「働く」を知っている』(イーストプレス)


*編集後記

今回記者を担当した美談と池田です。
今回のインタビューは、株式会社eumoの本社にお邪魔させていただきました。社会にとっていい会社を応援しているからこそ、素敵な人たちとの繋がりが生まれ、その人たちによって作られているのを感じる素敵なオフィスでした。

新井さんのお話を伺っていると、今までにない新しいイメージを湧かせながらも、でも人間自身が立ち戻らなければいけない大切な本質部分を思い起こさせられるようでした。インタビューにあった「人間はもっと美しくて、もっと透明でいいんです」という言葉。一人ひとりの中にあるその“美”や“透明”な感覚に素直になれた時、社会は本当の幸せを手に入れることが出来るのかも知れないと感じました。

株式会社eumoの新しい仕組みがスタートするのがこれからとのことで、今後がとても楽しみです!


この記事は、リライズ・ニュースマガジン “美しい時代を創る人達” にも掲載されています。


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